第30話クロエさんとボールと、そして…
その後も、僕達はどんどんお店を見ていきます。そしてちょっと大きなお店の前に来ました。お洋服屋さんみたいです。
「ここはね、クロエのお店よ。」
「クロエしゃんでしゅか。」
「そうよ。ちょっと寄っていきましょう。」
中へ入ると僕達に気付いたクロエさんが、すぐに近寄って来ました。
「いらっしゃいユーキちゃん。やっぱりバッチリ似合ってるわね。」
クロエさんが僕のお洋服と、シルフィーのお洋服をチェックしてます。
「貴方達が今日、通りを歩いてくれてるおかげで、もう何人かお客がうちに来てるのよ。こんな変わった服売るのウチぐらいだから、すぐ分かったみたい。それでね、オリビア相談なんだけど…。」
お母さん達が、何かお話し合い始めちゃいました。お父さんは、またかって言ってた。話し出すと長くなるから、その間にお外で、おやつにしようって。お母さん達にお外にいるって言ってお店の外へ。おやつは焼きたてクッキーと、果物のジュース。とっても美味しかったよ。
全部食べ終わっても、お母さん達はまだお話し合い終わりませんでした。
その時、ちょっと離れた所で、リク君と同じくらいの男の子達が、ボール遊びをしてました。
「どうした、何見てるんだ。」
お父さんが気付いて、僕が見ている方を見ました。
「ああ、ボール遊びしてるのか。あれはバウンドマウスの皮で出来たボールか?あのボールはよく弾むんだ。分かるか?ちょっと力入れて蹴ると、凄く遠くまで飛ぶ。だから小さくて力がない子供でも楽に遊べるんだ。」
「そう言えば団長、今日ユーキ君は友達が出来たんですよ。ね。ユーキ君。」
「はいでしゅ!おなまえは、リクくんでしゅ。こんどあそぶでしゅよ。」
「そうなのか良かったなユーキ。(やっと人間の友達か)」
「おうちに、あそびきてくれましゅ。」
お父さんはちょっと何か考えた後、ちょっと待ってろって言って、どこか言っちゃいました。少しして戻って来たお父さんの手には、あのボールが。
「友達、遊びに来るんだろ。確かもうウチにはボール無かったからな。これで2人で遊べば良い。」
「ふお!ふおおお!ありがとでしゅ!」
お父さんがボールを買って来てくれました。嬉しい!僕今まで誰ともボール遊びした事なかったから凄く嬉しい!リク君といっぱい遊ぼう!
僕は嬉しくてギュッとボールを抱っこしました。
「ははっ、まだユーキの顔よりボールの方が大きいな。」
そんな事をしてるうちに、やっとお母さん達が僕達の所に。待ってるの少し疲れてちゃったよ。お母さん達お話長いです。
「それで話は終わったのか?」
「ええ、大体わね。」
「じゃあオリビア、貴方の洋服ももうすぐ出来るから、その時にでもまた、ユーキ君連れて来て。」
「分かったわ。」
「おい、お前まさかまた…。」
何かお父さんとお母さんが、言い合いを始めちゃいました。お父さんはお母さんにやり過ぎは良くない、危険じゃないのか、もう少し大人しく出来ないのかって言ってて、お母さんはストレス発散だからとか、腕が鈍るとか言ってます。何の事?お母さん、何か危険な事するの?
「かあしゃん。」
「ん、なあにユーキちゃん?」
「かあしゃん、あぶないことしゅるでしゅか?おけがしちゃいましゅか?」
「ああ、違うのよ。これはねお母さんのお仕事なの。危なくないのよ。」
その言葉にお父さんが何かボソッと言いました。
「むしろ危険を心配してるのは、相手の方だ。」
何て言ったの?聞こえないよ。でもお母さんには聞こえたみたい。
「あなた、あなたもその人達と一緒になりたいの?」
お母さんがそう言ったら、また2人の言い合いが始りまっちゃいました。何なの!僕全然分かんないよ!
「ふたりで、おはなしつまんないでしゅ。ぼくオリバーしゃんといくでしゅよ!オリバーしゃんいくでしゅ!クロエしゃんバイバイでしゅ。おようふく、ありがとでしゅ。」
「はいはい。じゃあ行きましょうか。」
オリバーさんが僕を抱っこしてくれます。
「クスクス、バイバイ。また遊びに来てね。」
「はーいでしゅ!しゃ、いきましゅよ!」
「ああ、待ってユーキちゃん。お母さんが悪かったわ。」
「私もすまなかった。待ってくれ、」
ワイワイ、ガヤガヤ。クロエさんのお店から、凄く騒ぎながらお外に出ました。だってまだ見るところたくさんあるからね。どんどん見なくちゃいけないです。だからお父さんお母さんの分からないお話、聞いていられません。ちゃんと僕も一緒にお話できるお話じゃなきゃ待ちません!プンプンです。
お菓子売ってるお店があって、お父さんとお母さんが別々のお菓子買ってくれました。ごめんなさいって。うーん。お菓子買ってもらったし、2人ともごめんなさいしてくれたから、プンプン終わりです。
いろんなお店やギルドみてたら、いつの間にか夕方になってました。
「おみせ、ぜんぶ、みれなかったでしゅ…。」
がっかりしている僕にオリバーさんが、また一緒に遊びに来てくれるって、約束してくれました。そっか、僕これからここに住むんだもんね。いつでも遊びに来れるね。
お父さんに抱っこされて、今日の事を思い出してるうちに、僕はコックリコックリ。
「ん?眠たいのか。今日は大分はしゃいでたからな。疲れただろ。」
「うゆう…。」
「これはもう殆ど寝てるわね。」
誰かが僕の頭なでなでしてくれてます。誰かなあ。何かとっても気持ちいい。もっとなでなでしてほしいなあ。
「完璧に寝たな。こりゃあ、夕飯は無理か?」
「もし起きれたら食べさせてあげればいいわ。今はゆっくり寝かせてあげましょう。」
「アンソニーとジョシュアを思い出すな。アイツらも遊んで帰ってくると、いつもこんな感じだった。」
「そうね。」
「では私はこれで。」
「ああ、今日は悪かったな。」
「いいえ、私も楽しかったですよ。それでは。」
僕はリク君やマシロ達と、お庭で遊んでる夢を見てたよ。お父さんに買ってもらったボールで遊んだり、リク君におもちゃの剣を貸してもらったり、とっても楽しい夢。
…、だったと思うんだ。朝起きたら忘れちゃったんだ。だから多分、楽しい夢だったよ。
<勇輝が街ではしゃいで眠りについた夜。街のとある酒場での出来事>
「くそっ、せっかく怪我もさせて、追い詰めたと思ったのに!」
男がテーブルに拳を叩きつける。テーブルには3人の男と2人の女が座っていた。
「あれは絶対伝説の精霊だったわ。あんたがさっさととどめ刺さないからよ!」
「おまえだって、探知能力で見つけられるんじゃ無かったのかよ。」
「知らないわよ!突然気配が消えちゃったんだもの。」
5人の男女は派手に喧嘩していた。真夜中の酒場には人は居らず、男女は好きに騒いでいる。見るからに風体の悪い男女に、店主も料理を運ぶと、そそくさと厨房に引っ込んでいた。
「アレさえ手に入れば、金にならない、いつでも命が無くなっちまうような冒険者なんて、さっさとおさらば出来たのによ。」
「全くツイテないわ。あの後、ブラックウルフにまで襲われるし、見てよ、洋服がボロボロ。」
「てめえの洋服なんか、どうでもいいんだよ!それよりも奴のことだ、まだ近くの森に隠れてるんじゃないのか。また、明日から探しに行くか。」
男女が、明日からの計画を立て始める。その時、酒場のドアを開け、フードで顔を隠した全身くろずくめの、男かも女かも分からない人間が入ってきた。その人間はそのまま、男女のテーブルに向かった。
「何だてめえ、俺たちに何のようだ。俺たちは今忙しいんだ、さっさと向こうへ行きな!」
男が黒ずくめの人間を威嚇するが、黒ずくめは少しも怯んだ様子がなかった。それどころか、何もないように男女に話しかけて来た。
「お前達にいい仕事がある。私の話を聞くつもりはあるか?」
黒ずくめは男だった。
「はあ?何だあ、お前こそ俺の言ったことが…。」
「煩いぞ、私が質問しているんだ。お前達は私の話を聞く気はあるか?」
一瞬だった。黒ずくめの男に反抗した男が、突然現れた闇に体を巻きつかれると、そのまま体が煙のように消えてしまった。
「闇魔力石の使い手…!」
「どうだ、今の男のようになりたく無ければ、黙って私の話を聞くことだ。それにこの話はお前達にとって、そう悪い話ではない。お前達が逃してしまったアレにも関係のある話だ。私の言う事を聞けばアレがもう1度、拝めるかもしれないぞ。」
「…分かった、話を聞く。」
男への恐怖と、もう1度アレを手に入れるチャンスだと思った男女は、男の話を聞くことにしたのだった。
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