第24話すごいぞ我が息子(ユーキが部屋に戻ってからのウイリアム視点)

 ユーキが部屋に戻って行った。それを確認した私は、おもむろに立ち上がり、ガッツポーズをし、こう叫んだ。

「すごいぞ我が息子!」

 旦那様、落ち着いてくださいと、相変わらず冷静なアシェルが、私に注意してきた。

「お前、妖精に精霊だぞ。それがユーキと契約したんだ。親としてこんな喜ばしいことはないだろう。まあ、初めはさすがに驚いたが、考えてもみろ、今までこんな人間がいたか?妖精も精霊も心が純粋で綺麗な者に集まってくると本に書いてあったはずだ。ユーキはそれに当てはまる良い子だってことだ!」

「妖精達は、面白そうと言っていたぞ。」

「それは気にするな!」

 いやそこは気にしろよ、と、マシロがボソッと言ったが気にしない。

「あなた、喜んでいるのは良いのだけれど、これからが大変よ。ユーキちゃんのこと、色々なものから守らなくちゃ。」

「分かっているさ。」

 オレはソファーに座り直し、真面目に今後の事を話し始めた。

 

 まず妖精については、存在自体は何とかごまかせるだろう。妖精は色々な事に興味を持つ存在だ。そのために数ヶ月に1度は、人前に現れる。そして気まぐれに粉をかけては、話しかけてきて遊んでは帰る、といった感じだ。そうそこまで珍しくはない。

 問題は契約した事だ。契約した人間は、妖精に妖精魔法を、強制して使わせる事が出来る。妖精魔法も契約した人間の、魔力の大きさによって、とてつもない威力の妖精魔法になる。

 そうこの前ユーキは、まだ小さいにもかかわらず、魔力石を使ってしまっていた。

 その事と、妖精と契約したなんて事が、力を欲しがる国や、権力者に気付かれれば、ユーキはたくさんの人間に狙われてしまう。もし捕まれば奴隷の首輪を使い、散々こき使われ死んでしまうのがおちだ。

「その事なんだが、我に考えがあるのだがいいか?」

 マシロがある提案をしてきた。それは私とマシロが契約を結んだと、街中に噂を流す、というものだった。要は、契約したフリをすると言う事だ。私は思わず、は?と、聞き返してしまった。

「お主、この国や貴族の者に、結構な力を持っているのであろう。しかも戦う実力も相当なはずだ。お主が我と契約したと言っても、ほとんど文句を言われないのではないか。契約している魔獣に、お前の子供が一緒にいたとしても、誰も不思議に思わんはずだ。そうすれば我も、元の大きさで、出歩くことができるし、妖精問題も解決出来るはずだ。」

 マシロ、よく思いついたな。私には無理だ!私が感心してそう言ったら、アシェルが

呆れた顔をして、首を振っている。そして、そんなに力強く、感心するなと言ってきた。良いじゃないか別に。本当に感心したんだから。

 しかしそうなると、ユーキは大丈夫なのか?フリとはいえ、自分以外と契約したと、聞いてしまっては、悲しまないだろうか?

「主は、契約と友達になるという事が、同じだからな。本来の契約の意味をわかっていない。我とお主が友達になったと喜ぶだけだろう。」

 友達か。そう思っているのなら、それで良いが。まあもし、寂しがるようなら、説明して納得してもらうしかないだろう。

「友達の事は分かった。だが、お前が元の大きさになる事と、妖精と何の関係があるんだ?」

「妖精をみせたくないときは、我の毛の中に隠せばよい。」

 …ああ、そうですね。うん、正しい。あんなに小さい妖精だ。マシロの毛に隠れるなんて簡単だし、見つからんだろう。

 だがこんな簡単な事で、解決していいのか。ここは私も意見を言うべきではないのか?マシロだけに解決策を考えさせて、親としてどうなんだ?しかもトップクラスのフェンリルとはいえ魔獣だぞ。人間の私が、なのも意見しないのはさすがになあ。

 そんな私の気持ちがオリビアに伝わったのか、こんな事を言ってきた。

「どうせまだ、考えさえ思い浮かんでないんでしょう。ここはマシロの方法で行きましょう。あなた考えだすと長いんだもの。待ってられないわ。アシェル、マシロが言った通りに話を進めてちょうだい。」

「畏まりました。」


 何か私、ここにいる必要ある?一応は考えさせてくれても良いんじゃないか?まあ、確かに考え始めると長くなるが、それは、色々考えていてだな、そう、考えがありすぎて、纏まらないんだ。決して考えて無い訳では無いんだ。うん。

 しょうがない、今回はマシロの考えを採用してやろう。そう自分に言い聞かせ、次に精霊について話をしようとしたら、

「あなた、精霊については、私に良い考えがあります。私に任せてくれないかしら。」

「いや、しかしだな。」

「アメリアちょっと来て。」

 オリビアはアメリアを呼ぶと、何か話し始めた。アメリアの顔がみるみる、もの凄い勢いで笑顔になっていく。こういう時の2人は、何か良くない事を考えている時が多い。悪いってことじゃなく、やり過ぎっていう意味でだ。

「なあおい、何が良い考えなんだ?」

 話終わったオリビアに声を掛ける。その顔もニコニコだ。

「あら、内緒よ。でも可愛いユーキちゃんにはぴったりの方法よ。私に任せて頂戴。」

 そのオリビアの言葉と共に、精霊対策の話も終了。

 …私、本当に必要か?今の話し合いの中で、私が話した事と言えば、最初にユーキを褒めたぐらいか?マシロもオリビアも、他の奴らも、ちょっと出来過ぎじゃないか。私の立場ないんだけど。


 少し気持ちが沈んだ私に、オリビアが話しかけて来た。

「あなた、ユーキちゃんは本当に、どんな子なのかしら。あなたと出会ったのは森の中。何があったのかは私達は想像するしかないけれど、いったいどんな生活をしていたのかしら。あの子はしっかりし過ぎているはわ。あんなに小さいのにちゃんと、いろいろ考えられて、私達の言うこともちゃんと理解して聞いてくれるわ。」

「知らない人に送ってもらったと言っていたが、その人物に送ってもらう前はきっと、厳しく躾けられたんだろう。小さいのにあんなにしっかり大人の言うことを聞いて、ワガママは言わない。何の為に厳しくしたかは分からんがな。ユーキの魔力のこともあるし、それが関係あるのかもな。だが…。」

 今は違う。ユーキは今我々の家にいる。

 ユーキには私達の家で、伸び伸びと成長していって欲しい。色々な物を見て経験して、たくさんの事を学んでいけば良い。

 ワガママだってたくさん言って良いんだ。それで私達を困らせれば良い。ダメな時はしっかり叱り、良いことをすればたくさん褒める。普通の家族の経験をさせてやりたい。大人になって、この家から巣立って行く時、ここで生活した全てが幸せなものだったと、あの子の心に残ってくれたら、親としてこんなに幸せな事はないだろう。


 さあ、その為にも、まずは今の問題を解決しないと。

 大丈夫だ、ユーキにはマシロも、私達家族も付いている。必ず幸せにしてみせる。

「アメリア、とっても可愛くて凄い、私の息子を、息子たちを連れてきてくれ。」

「はい旦那様。」

 まあ、毎日が朝からこれじゃあ、困るがな…(笑)

 

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