第11話可愛いユーキのために(ウイリアム視点)
ユーキが家族になることを、了承してくれた。眠ってしまったユーキを、マシロに預ける。さあ、ここからは、時間との勝負だ。
「マシューすまないが、さっき話したように、よろしく頼む。」
「じゃあ俺は、予定通り先行して、やれる事をやっておく。多分、時間はスレスレだ。なるべくぎりぎり迄、時間を稼いでくれ。じゃあ行くな。」
「ああ、頼む。」
マシューは馬に乗ると、もうだいぶ暗くなってきた森を、街へ向かって駆け始めた。マシューなら俺達の誰よりも早く、街に着くことが出来る。どうにか間に合うだろう。
マシューを先に、街へ向かわせたのには理由がある。これはユーキにって大切なことだった。
「力のことがバレれば、国も貴族も放って置かないですからね。」
「ああ。小さい頃から力を酷使すれば、大人になる前に力の暴走で、死ぬ可能性だってある。それなのにあいつらと来たら。」
「あの人たちには、そんなこと関係ありませんからね。」
そう、ユーキにも言った通り、親のいない子供を保護した場合、その子供はどんな理由があろうとも、必ず国が管理している、教会へ連れて行くことになっている。
これは、国が法律で決めていて、住民は全員これに従わなければいけない。
教会ではまず全ての子供が、力を持っているか調べられる。力とは、魔力石を使うための魔力のことだ。
もともと魔力は、誰もが成長するにつれ、だいたい8歳頃から、必ず備わるものなのだ。魔力が強ければ強いほど、魔力石を使う時、より強力な力を使うことが出来る。
例えば、水の力なら、1つの村を押し流せたり、火の力なら、今回のような小さな森なら、一瞬で燃やし尽くしてしまったり、それが魔力の強さによって変わってくる。
しかし8歳ごろから備わるはずのその魔力を、20人に1人くらいの確率で、小さい頃から持ち合わせている者がいる。
そう、ユーキのように。
そこまで珍しい事でもないが、そういう子供は、必ずと言っていいほど、強力な魔力を持っている。
理由は分かっていないが、今、冒険者で有名なある男が、やはり小さい頃から魔力石を使う事ができ、今では誰もが知る最強の冒険者になっている。
しかしそれは、ちゃんと訓練をして、力の使い方を勉強した場合だ。何も考えず、自分の魔力の上限も知らず、ただただ魔力を使えば、小さい体には負担が大きく、制御できずに、魔力の暴走を引き起こす。
最悪の場合、死んでしまう可能性だってある。
だが、国や貴族、権力者は、そういった事は気にしない。力を使い暴走して、子供が死のうが廃人になろうが、そんな事は関係ない。死んだら次を探すだけ。
要は、替えが効く道具として考えているのだ。
「考えるだけでも、腹が立つ。」
その場の全員が、顔を顰めた。
「ユーキ君の場合、魔力の問題もありますが、もう1つ、マシロの問題もありますしね。」
「我の何が問題だ。」
マシロがこちらに向かって、ユーキが起きないように、静かに話に入ってきた。
「お前ね、自分がどういう存在か、ちゃんと分かってるか?」
「我は、主を守る存在だ。」
「そういう問題じゃなくてだな、やっぱり分かってないな…。はー。」
フェンリルは私達人間にとって、最上級の枠に入る魔獣だ。どの魔獣よりも強い。ほとんどの人間が恐る存在。どちらかと言えば、会いたくない魔獣だ。
しかも、マシロに至っては、フェンリルの変異種だ。その証拠に、普通の魔獣は、人間の言葉など喋らず、魔獣や人間など関係なく、敵または食糧として認識し、所構わず襲ってくる。
しかし変異種は違う。人や魔獣の言葉を理解し、会話して、ちゃんと自分で考え行動する事が出来る。しかもその力は、他の魔獣とは比較にならない程、強いと言われている。もともと最上級のフェンリルが、変異種の場合、その力はどれ程のものか。
もし、そんな最上級の、しかも変異種のフェンリルと、契約している者がいるなどと、噂が広がってしまったら、どうなるか…。
「自分の戦力に引き込もうと、色々な奴がユーキを狙って来るぞ。」
「そんな者たち、我が追い払ってくれる。」
確かに、マシロにとって、それは簡単な事かも知れない。だがそれでは、ユーキはどうなる。追い払ってばかりで、マシロの力を恐る者達ばかりになったら?ユーキに、悪い事をしようと考える奴ら、自分の戦力に、引き込もうとする奴らは追い払うことができる。しかし…。
「ユーキに好意を持ってくれる人間も、近づかなくなる可能性があるんだぞ。ユーキは友達を、たくさん作りたいんだろ。」
「むー。それは…。」
ようやく、何が問題なのか、分かってきたらしい。まあ、こういった問題をなくす為に、私と家族になろうと、言ったのだが。
マシロにそう言ってやると、さらに頭を持ち上げて話を聞いてきた。
「どういう事だ。」
「私はね、これでも一応、結構な力を持った貴族なんだよ。少しくらい力のある貴族なら追い払えるし、それなりに力のある貴族でも、やり合う自信はある。まあ、国が絡んで来たら、どうなるかは分からんが、それでも簡単には潰れないほどには、力を持っているつもりだ。」
「お主も、主の力が望みか…?」
マシロが軽く、威圧して来た。
「まさか。そんなつもりはない。」
「団長は、ユーキ君の事が、ただ単に大切なんですよ。」
「どういうことだ。」
何故だかな?あの池で初めてユーキに会った時、運命だと思った。一瞬で心を奪われた。そしてこう思った。ああ、そうか。私はこの子に出会い、守り幸せにするために、ここに導かれたのだと、まあ、気のせいかもしんがな。
そうマシロに言ってやると、マシロがぼそっと、何かを囁いた。
「運命か。そうであろうな…。」
「ん。なんて言ったんだ?」
「何でもない。それよりも本当に、主を幸せにしてやれる自信はあるのか?偽りを述べているのではあるまいな。もしそうであれば…。」
そう言われた私は、マシロの前に立ち、頭を下げた。
「どうか、お前の主の幸せのため、未来のために、私を選んで貰いたい。私は必ず彼を幸せにしてみせる。可愛い笑顔が消えてしまわないように、守ってみせる。」
「その言葉、偽りではあるまいな。もし約束を守れない場合、分かっているな。」
「ああ、分かっている。」
約束を守らない者、裏切る者は、消すということだろう。そんな事は、絶対にないがな。私はもう、ユーキの笑顔の虜だ。
じっとマシロの目を見つめる。マシロも私の目を見たままだ。そして。
「わかった。主の家族として認めよう。」
「ありがとう。」
マシロの了解を、得る事が出来た。一応は認めてくれたらしい。ならば。
「後はマシューに任せるしかないな。」
それまで黙って、事の成り行きを、見守っていたリアムが、話はまとまったと、話しかけて来た。
「ああ、だが上手くやってくれるだろう。」
「大変なのは、マシューもですが、それ以上に大変なのは、あの人でしょうからね。団長、後のこと、覚悟しておいた方がいいですよ。」
「うっ…。分かっている。はあ、気が重い。」
「まあまあ団長。取りあえずご飯でも食べて、元気出してください。ユーキ君は…、起こすの可哀想そうですね。私達だけ先に食べて、もし起きたらその時、食べさせましょう。今温め直します。」
「それにしても、ユーキ君は、とても頭の良い子ですね。あれほど小さいのに、我々の話をきちんと理解してますし、言葉はたどたどしいですが、ちゃんと話せています。いったいどこから来て、どんな教育を受けて来たのでしょうか。」
確かにいろいろおかしな所はあるが、それでもユーキはユーキだ。これからは私達全員で、導いて行ってやればいい。ユーキの笑顔は可愛いからな。その笑顔を守ってやるためにも、頑張らなくては。
ユーキと家族になった夜は、こうして過ぎていった。
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