第8話さあ、カージナルへ出発…、出発?


 ご飯を食べ終えて、荷物を片付けたら、いよいよカージナルの街へ出発!

 と、ここで1つ、問題が起こりました。僕を連れて行くのは自分だって、マシロと団長さんが喧嘩を始めちゃったんだ。

「主は、我が街まで連れて行く!」

「いいや、私が連れて行く!」

 マシロは自分の背中に、僕を乗っけてくれるつもりで、団長さんは自分の馬に、一緒に乗るつもりだったみたいで、いざ出発、と、なった時に、2人がそれに気づいて、喧嘩になっちゃったんだ。

「主は、我の主だ!我が連れて行くに決まっている!」

「いいや、ユーキはまだ小さいんだ。誰かが支えてやらなければ。それならば、私が一緒に馬に乗るのが1番だろう!」

 なかなか喧嘩が終わらない。そして、

「「主 (ユーキ)は、どちらがいいんだ!」」

 て、同時に僕に聞いて来て、僕、本当に困っちゃった。だって僕、マシロと一緒にいるのも、団長さんと一緒にいるのも、どっちも好きなんだもん。

「ぼく…、ぼくは…。」

 何か悲しくなって来ちゃった…。皆んな仲良くがいいのに…。

 そんな僕と1匹と1人を見かねたのか、副団長さんが声を掛けてくれました。

「貴方達は、一体何をしているんですか!ユーキ君困って泣きそうじゃないですか!団長!貴方はいい年をして、少しは他の人の気持ちも考えながら、行動してください。ユーキ君のことが可愛いのはわかりますが、泣かせてしまっては本末転倒でしょう!」

 団長さんが怒られているのを見て、マシロがフンっと鼻を鳴らしました。それを見た副団長さんが、今度はマシロを怒り始めたよ。

「マシロ!貴方もですよ!自分の主を泣かせるとは何事ですか!貴方の役目は主人を守ることでしょう。泣かせることではないはずですよ!」

 側にいたリアムさんが、ボソボソっと、

「最強のフェンリルを叱るって、凄いなこいつ…。さすが鬼の副団長様。」

「何か言いましたか…、リアム?」

「い、いや何も!」

 リアムさんは自分の荷物を持つと、さっと自分の馬の方へ行っちゃった。

 リアムさん、副団長さんのこと鬼だって、とっても優しいのにね、おかしいなあ?

 そんなやり取りの最中も、団長さんとマシロの言い合いは、なかなか終わりません。

「だってこいつが、なかなか譲らないから…。」

「そっちが譲ればいいことだろう。もともと我の方が先に、主といたのだぞ…。」


 なかなか終わらない言い合いに、

「…そうですか。反省はしないと言う事ですか。ようく分かりました。ええ、それはもう本当に。」

 と、あれ?何か、副団長さんの周りが、寒く感じる…、気のせいかな?

 不思議に思っていると突然、団長さんが慌て出して、副団長さんに謝り始めました。

「お、おい待て、俺が悪かった!すまない!」

「何をそんなに慌てているのだ。我はまだ納得は…。」

「いいからお前も謝れ!あいつを本気で怒らせると、大変な事になる!」

 マシロに、謝らせようとする団長さん。どうしたんだろう、あんなに慌てて?

「もう遅いですよ。ユーキ君、2人は君を困らせるだけなので、もう放って置きましょう。それよりも、私と一緒に馬に乗りましょう。馬に乗っている間、街のことをいろいろ、教えてあげましょうね。」

「ほんと?やったあー。」

 万歳をする僕を抱き上げて、副団長さんはさっさと、自分の馬の方に移動を始めました。

「おい!ズルいぞ!」

「待つのだ!我はまだ…!」

「貴方達には、バツが必要みたいですからね。反省するまで、ユーキ君とは一緒に行動させません。ユーキ君を、この子を困らせるような輩には、近くにいて欲しくありませんからね。近寄らないでください、しっしっ。」

 うん。何か今の副団長さん、怖い…。

「まあでも私も、ユーキ君の気持ちを無視するのは嫌ですからね。ユーキ君、どちらかと一緒に行きたいですか?」


 うーん。僕は副団長さんの肩越しに、2人の事を見つめた。2人も僕の事、じっと見てます。ほんとは2人とも、順番に一緒に行きたいけど、でも、ケンカしてる2人と、行きたくないなあ。だって、楽しくなさそう?だから、

「けんかしゅる、マシロも、だんちょうしゃんも、きらいでしゅ。なかなおりしゅるまで、いっしょ、いやでしゅ。ふくだんちょうしゃん、おはなし、たのしみでしゅ。」

「そんな、ユーキ!」

「主、待つのだ!」

「いやでしゅ!はやくななおり、してくらしゃい!」

 僕は副団長さんと一緒に、移動する事にしました。

 2人は僕に嫌ってされたのが、凄くショックだったみたい。マシロは、あのふわふわモコモコのしっぽを、ショボンと下げちゃって、団長さんも、見てすぐ分かるくらい、ガックリって感じで、下を向いちゃいました。でも、喧嘩した2人が悪いんだからね。

「まったく何をやっているんだか。良いですかユーキ君。もしまた、こんな事があれば、すぐ私に言ってください。私が2人を叱ってあげますよ。ユーキ君を泣かそうとする輩は、私が許しません。」

「ありあと、ごじゃいます。あの、ふくだんちょうしゃん。」

「何ですか?」

「みんな、なかよしがいいでしゅ。ぼく、みんな、だいしゅきでしゅ。」

 僕がそう言ったら、副団長さんが、頭を撫でてくれました。

「そうですね。皆、仲良しが良いですね。さあー、出発しましょうか。くだらない揉め事のせいで、出発が遅れてしまってますから、さっさと出発しましょう。そこの1人と1匹!行きますよ!いつまでもしょぼくれていないで下さい。自業自得なんですから。ああ、それから、団長はその荷物を、マシロはそっちの荷物を運んで下さい。」

「何で私が…。」

「我は上位の魔獣なのに、荷物運びなど…。」

 ぶつぶつ言いながらも、荷物を運び始めるマシロと団長さん。

 僕は副団長さんに支えられながら馬に乗り、今度こそカージナルの街へ出発です。

「しゅっぱーちゅ!」

 ぼくの掛け声と共に、馬はパカパカと歩き始めました。

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