第106話 鏖殺戦2


 ツバイのあとについて岩山の側面にカムフラージュされた出入り口らしき場所に向かう。周囲は俺とツバイ、それにすでに配置の終わった軽量ゴーレム兵以外転移できないよう転移阻害陣が要所に設置済みである。俺とツバイが中に入っている間にどのような形であれゴーレム兵と一戦交え、これを撃破しない限り逃走は出来ないようにしている。


 ここまでの帰還者同盟との戦いを考えると、あっちの世界にいた、勇者一行(笑)でも、帰還者同盟の連中の中に入れば結構上位に入りそうだ。それくらいに歯ごたえのない連中の集まりだった。あれ、俺の思考の中ではすでに過去形の組織になってしまったようだ。


 出入り口から中に入ると、天井に二列に蛍光灯が並んだ、大型トラックでも通れそうな結構広い通路が続いていた。ドライの掴んだ情報によるとかなり大規模な施設らしい。これだけの施設を建設、維持するためにはかなりの物資が外部から搬入されたのだろうから出入り口の通路が広いのも当然だろう。


 少し進むと、やはり防御施設はあるようで、通路の先に大砲の砲口が2個のぞいているのが見えた。


 注意しながら歩いて行くと、その砲口が突然火を噴いた。魔法では太刀打ちできないと思っての攻撃かも知れないが、しょせんは大砲の弾だ。意識が高速モードに切り替わり、身体強化が同時におこなわれた。


 ゆっくりと飛来する砲弾が、割れたかと思ったら、砲弾を包むケースが外れたようで、中から小さなハネを付けた鋭くとがった弾芯が現れてこちらに向かってきた。


 なかなか見た目もカッコいいたまなので2発とも収納しておいた。前に立つツバイが大鎌を構えていたのだが、邪魔して悪かったかな。


 物を俺に投げてくるのは悪手だと思うぞ。何でも収納できてしてしまうんだからな。俺たちがこんな場所まで来ているんだから、天井を崩落させて生き埋めにするとか手はないのだろうか? まあ、その程度のことでどうにかなる俺とツバイではないがな。


 数度にわたる砲撃のなか、その都度飛んでくる砲弾を収納しながら進んで行く。


 砲撃を繰り返していたのは、通路の路面を掘り返し、そこから砲塔だけをのぞかせた二両の戦車だったが、ツバイが狭い通路の中で器用に大鎌を一両当たり一振りしただけで、二両とも両断されてしまった。感じた気配からそれぞれの戦車の中には三人ずついたようだ。中にいた連中はこのツバイの一振りで戦車ともども絶命したようだ。おそらく体も両断されての絶命だろうから、もろもろの臭いが漏れてくると嫌なのでフリーズで戦車ごと凍りつかせてやった。


 そのまま進むと、通路は途切れ、正面に大型エレベーター用と思われるの縦穴が見えてきた。


 エレベーター本体は下におりているようで、何本も太いエレベーター用のワイヤーロープが縦穴の上の方から下の方に伸びている。


「ツバイ、降りるぞ」


「おう」


 ツバイと二人並んで、エレベーターの縦穴に跳び下りた。


 その瞬間を待っていたのか、エレベーターの縦穴の下から閃光とともに爆発の衝撃波が襲って来た。俺も少々油断していた。高速思考と身体強化が若干遅れてしまい、くるくると体が回転しながら縦穴の壁に激突しながら上に飛ばされ、最後には飛び込んだ縦穴への入り口から通路まで投げ出されてしまった。爆発音がそのあと轟いた。


 特にダメージはないが、ツバイと一緒だったこともあり少し気まずい。


「ははは、マスター、たるんでるぞ」


 大鎌を肩に担いだツバイが何事もなかったように俺のそばに立って偉そうに俺を見下してくれている。


 チッ!


 起き上がって、


「ここの他に人の通れる出入り口はなかったんだろ? よく、たった一つの出入り口を破壊したな」


 今の爆発から考えるに、先ほどの二両の戦車は捨て駒だったようだ。


「ここで何十年でも籠城できるだけのものを備蓄してるようだぞ」


「なるほど、もとより籠城覚悟か。援軍が来るわけでもなし、ご苦労なことだ。大軍で囲むのなら、大軍の兵糧が先に尽きる可能性が高いが、今は戦国時代じゃないからそんなことは攻め手にとって何の障害にもならん」


「マスター、それでどうする? このまま穴の底に潜ってしらみつぶしに殺しまくればいいか?」


「ここの出入り口はここだけとして、後は通気口なんかがあるんだろ? そこの位置は分かるか?」


「ああ、全部ドライから聞いている」


「それじゃあ、ツバイ、その孔から人が出入りできないようにふさいでくれるか? 空気の出入りは止めなくていいからな」


「マスター、何をする気なんだ?」


「一度海のある所に跳んで海水をアイテムボックスに大量に入れてくる。そいつをそこの穴から流し込んでやれば、どれだけ空洞があるか知らんが2、3回往復したら海水でいっぱいになるだろ?」


「やっぱり、俺のマスターだ。相当エグいな」


「だろ? これでヤツらの息の根が完全にとまるだろ」


「ヤツらが貯め込んでいるかもしれないお宝はいいのか?」


「そのうち、ゴーレムに穴を掘らせて回収させてもいいが、今さらどうでもいいだろ」


「わかった。それじゃ孔を塞ぎに行ってくる」


「俺は水を汲んでくる。さて、どこから汲んでこようか?

 ドライ、どこか転移で行って海水を汲んでくるのにいい場所はないか?」


 腕時計に仕込んだドライとの直通通話装置に話しかけてみた。初めて役に立った。


「マスター、それでしたら、カリブ海なんかどうですー。景色も良くていい気分になれますー」


「どこでもいいから、その情報を送ってくれるか?」


「了解しましたー」


 すぐに、月明かりの元で波の打ち寄せるきれいな砂浜と、月を映す海の景色が脳裏に送られてきた。夜でもドライの言う通りきれいなところだ。ここなら、そのうちみんなで海水浴に行ってもいいかもしれない。


『転移』


 2回ほど往復して海水を縦穴に流し込んだところで、エレベーター口から水があふれてきた。


 1つ1つ消えていく生命反応をしばらく探って、20分経っても最後の数個の生命反応が消えないので、海水をフリーズで凍らせてやったら、全部の生命反応がやっと消えた。凍り付かせるのが難しい海水を大量にしかも一瞬で凍らせたのには、ツバイも驚いていた。


「やっぱり、マスターはすごいな」


「おだてても、何も出ないぞ」


「そういえば、ドライが言っていたんだが、ここの連中のボス、帰還者同盟の総帥ってのの名前がトーマスって言うそうだ。最後まで残ってたヤツがトーマスだったんじゃないか」


「トーマスねー。はて、どっかで聞いたことがある名前だが、どこだっけな? まあ、もう死んでしまったヤツのことはどうでもいいな。それじゃあ、ツバイ、そろそろ帰るとするか」



 そのあと、ツバイを伴い拠点の要塞、ドライの研究室に跳んだ。


「マスター、後始末はちゃんとしておきましたー」


「後始末?」


「地表攻撃用の衛星ができあがったので、ゴーレム兵を回収後、マスターがこちらに帰って来たとき質量弾を撃ち込んでおきましたー。ただの金物かなものを落っことしただけなのに、キノコ雲が上がっちゃいましたー」


「ドライ、あんまり派手なことをするとマスターに叱られるぞ」


「派手なことばかりしてたツバイに言われちゃいましたー。おかしいですー」


「まあいい、ふたりともご苦労さん」







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