第98話 殲滅、七三男2


 男が喋っている間、男の周囲にひっきりなしに転移反応が起こり、揺らめきの中から、男や女がぞろぞろと現れてきた。総勢で20数名ほど、その中には女が5、6人いる。出てきた連中は全員無表情だ。どうも、こいつらはこの男に操られているただのロボットのように思える。そいつらがゆっくりを俺を取り囲むように移動し始めた。


 こいつら、いったい何がしたいんだ? バカみたいにそろって俺の目の届く範囲にに現れたら、そのまま皆殺しにされる可能性を考えないのか?


「あなたは、われわれを殺しはしませんよ」


 ん? 俺の心を読んだ?


「さあ、どうでしょう」


 俺の心を読もうが読むまいがどっちでもいいか。相手が女だったらすごくエッチなことでも考えてセクハラしてやるんだが相手は男だ。


「ほう。すごいじゃないか。心を読まれたらとてもかなわないな。とでも、言ってほしかったか? 俺の心が読めるくらいなら俺の攻撃が避けられるんだろ?」


 今の言葉が返ってくるとは想定していなかったのか、男は驚いた顔をした。いちいち表情に出すところは素人だな。だからといって、もう俺は止まらないぞ。


 俺は右手の人差し指と親指で拳銃の形を作って、男のそばに立つ露出過多で化粧も濃く派手な格好をした女に向け、


「バーン!」


 と、拳銃の発砲音をまねて大きな声をだすと同時に、圧縮空気のかたまりであるエア・マインを女の頭の中に転送してやった。


 バーン! 女の頭が粉々に吹き飛び、女は首から血を噴き上げながらトンネルの床にたおれ伏した。女がつけたと思しき大きなイヤリングがコロコロ音を立ててトンネルを転がって行った。


「なっ!」


「そんなので驚くなよ。俺がおまえらを殺さない理由がどこにもないだろ? どこをどう考えても、俺がおまえたちを殺さない理由が思いつかないのだが」


 実際は皆殺しにしない理由があるんだがな。


 バーン!


「おまえの実力を見込んでわれわれの幹部に迎えようと思っていたのだが無理のようだな」


 バーン!


「幹部? おまえらみたいなゴミ集団の幹部に誰がなるんだ?」


 バーン!


 話しながらも、どんどん周りにいる連中の頭を吹き飛ばしていく。


 ザコたちがあわてて腰をかがめ戦闘態勢を取ろうとしているが、とても訓練を積んだ動きではない。


 10人ほど頭を吹き飛ばしていると、やっと反撃のファイアーボールやウインドカッターが飛んでき始めた。そんな月並みでショボい攻撃など俺のバトルスーツに吸収されるだけの無意味な攻撃でしかない。


「……これでおまえは最期だ!」


 男がニヤリと勝ち誇ったような顔をして俺に笑いかけた。


 俺のバトルスーツがファイアーボールやウインドカッターといった低位の魔法に反応しているほかに、なにか別の反応をしている。これは、バトルスーツの中部に何らかの物体が転送されるのを防いでいる反応だ。


「俺もな、転移・転送が使えるんだが、そんな人間が、それを利用した攻撃に備えていないわけがないだろう? おれにちんけな攻撃を仕掛ける暇があったらそろそろ逃げた方が良いんじゃないか?」


 男をあおりながら、アイテムボックスの中から取り出した蜘蛛シリーズの最新モデルである4型をステルスモードで男に向かわせる。


 必殺の攻撃が俺に防がれた男がまさかという顔で俺を睨んでくるのだが、睨むくらいなら、警戒しろよ。ほら、もうおまえの足に蜘蛛が取り付いた。


 男の足をよじ登った蜘蛛が男の背中の方に回り完全に取りついたようだ。


 この男の他にはあと5人。


 バーン!


 そして4人。


「くそっ!」


 やっと、無駄な攻撃をあきらめたのか、男は残った4人を連れて転移でどこかに逃走していった。


 トンネルの中に残った20体近い死体だが、凍らせて粉々にした1体以外は、吹き飛んだ頭の部分以外は生きが良い死体なので素材として一応回収しておくことにした。あまりこんなものをアイテムボックスの中に入れておきたくはないのだが、ホムンクルスの有用性を認めてしまった以上、ドライへのお土産に我慢して収納することにしたわけだ。そういえば、今頭を吹き飛ばした連中の中に金田はいたかな? 金田からホムンクルスは作りたくはないのだが。


 ドライの話しだと、帰還者同盟は異世界からの帰還者たちの集まりだということだが、どうもヌルすぎる。まさか、俺のいたあの世界だけ、ハードモードだったのか?


 蜘蛛を通して男が転移で逃げて行った先を見ると、どこかの建物の窓のない一室だった。


 さーて、そろそろ、連中を追っかけるとするか。どういった犯罪行為なのかはわからないが、帰還者同盟が犯罪を繰り返していたというなら回収すべき金目の物も期待できる。





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