第84話 サヤカとモエ、中学転入1
ドライは既に、こちらの世界で合成されている化学製品についての知識を急速に収集しているようで、大概のものは自前で合成できると豪語している。適当な触媒と炭素、水素、窒素、酸素そういった簡単に手に入るものからいろいろ有益なものが作れることに狂喜しているようだ。繊維関係についても、その
浪岡中学へ転入することが決まったホムンクルスの月島
転入の建前があるので、浪岡中学の制服はドライが二人分用意済みだったようだが、最初から制服を着て登校するのも変なので、これまでは私服の中学に通っていた設定で行くことにした。
そして迎えた転校当日。俺は妹の美登里の状況を
始業の10分前くらいに校門をくぐった二人は、制服を着た生徒たちが学校の玄関に向かう中、一緒に玄関の中に入っていき、持参した上履きに履き替え、職員室に向かった。その間、二人のホムンクルスは私服を着ているうえ見た目かなり可愛いため、そうとう注目を集めていた。
「失礼します」「失礼します」
一礼して職員室に入った二人。扉からすぐの席に座る女性が手を振って、
「こっちよ」と呼ぶので、そちらに移動し、
「今日から転入した月島紗耶香です」「工藤萌絵です」
「あなたたちがそうなのね。待ってたわよ。私があなたたちの担任になる梅宮よ。よろしくね。転入生はたいてい各クラスに割り振られるのが普通なのだけど、あなたたちは二人とも私のクラス、1年1組に編入よ。校長が言っていたけれど、教育委員会からの指示があったらしいわ。あなたたち何者かしら?」
「……」「……」
「まあいいわ。これが教科書だけど、持てるかしら。そのかばんなら入りそうね。そろそろ、ホームルームだから教室に行きましょう」
持参した手提げかばんの中に渡された教科書を入れた二人は、梅宮について職員室を後にして教室に向かった。
たしか美登里は自分のクラスは1組といっていた。アインがどう立ち回ったのかはわからないが、ちゃんと二人は美登里のいる1組に編入できたようだ。まずは一安心。しかし、この梅宮という女教師だが、俺がこの中学に在学中にいた先生かどうかまるで思い出せない。俺にとって7年前の話しだが、記憶にない。と言うことはこの春この中学に異動した教師なのかもしれない。
担任の後を二人がついて歩き、その後を俺がついて歩いていく。1年1組の教室に近づくと、教室内がかなり騒がしいようだ。
ガラリ。
教室の扉を担任の梅宮が開けるとすぐに教室内の
「はーい、みなさん、注目! 今日は皆さんに転入生を紹介します。まず、月島紗耶香さん」
「月島紗耶香です。東京の中学から転校してきました。皆さんよろしくネ」
最後の「ネ」のあとのあざといウインクで教室内の男子生徒たちがどよめいた。
「工藤萌絵です。同じく東京の中学から転校してきました。紗耶香ちゃんとは従妹になります」
ボーイッシュな感じの萌絵の
控えめに言ってもかなりの美少女二人が転入してきたわけだ。中1の生徒たちの反応を見てて面白い。
「この時期に、転入するなんて、あの二人にはなにかあるわ。きっと宇宙人か、未来人か、超能力者よ。絶対にわたしのSSS団に勧誘しなくちゃいけないわ」
窓際の一番後ろに座る女子生徒が、1つ前の席に座っている男子生徒に話しかけている。世界を意のままに変えてしまうような女子生徒がいるらしい。教室を見回したが、われ関せずの無口キャラの女子生徒はいないようだ。しいて言えば、わが妹の美登里くらいか。
「後ろの男子4名、備品室から、机と椅子を運んできてちょうだい」
美少女のお役に立てると、4人が元気よく、少し離れた備品室の方に駆けて行った。しばらくして、教室に机と椅子が二組運び込まれた。
いま運んできた4人組に対して、
「みなさん、ありがとう」「ありがとう」
と二人がお礼をいったら、4人とも真っ赤な顔をしていた。中1くらいだと初々しいものだ。
「それじゃあ、二人は取りあえず、そこに座っててちょうだい」
二人は、手提げかばんを持って席についた。
「それじゃあ、ホームルームはおしまい。みんな、月島さんと工藤さんをよろしくね」
梅宮がそう言って教室から出て行くと、入れ替わりに1限を受け持つ教師が入って来た。
運がいいのか、最初は英語の授業だったらしく、ごく簡単な内容で、ホムンクルスの二人は無難にこなしていた。
キーンコンカーンコン……
「今日の英語はここまで」
「起立、礼!」
授業が終わり、教師が退出すると、転入生の二人の周りに女子生徒たちが集まって来た。男子生徒たちもその中に入りたそうにしているのだが、やはりハードルが高いようで尻込みしている。
そんな状況の中、美登里はじっと椅子に座っておとなしくしていた。美登里の周りには男子生徒が数人いるが女子生徒は一人もいない。
蜘蛛を通して状況は知ってはいたが、見ていて気持ちの良いものではない。
ホムンクルスの二人はというと、話しかけてくる女子生徒たちを無視して立ち上がり、美登里の方に歩いて行って、美登里に話しかけた。
「霧谷美登里さん?」
「はい?」
「わたしたち従妹同士なんだけど、訳あって今は叔母のところに住んでいるの。その叔母が、美登里さんのお兄さんに大変お世話になっているそうなのでご
「えぇ! うちのお
「はい、いつもお世話になっているそうです。良かったらわたしたちとお友達になってくれませんか?」
これを聞いた美登里は、ぱっと顔を明るくした。やっぱり寂しかったんだろう。そりゃあ当たり前か。
「わたしでいいのなら。わたしからも友達になってください」
「それじゃあ、よろしくね。美登里ちゃん。わたしのことはモエって呼んでね」
「よろしくね、美登里ちゃん。私のことはサヤカって呼んで」
この3人の一連の会話を聞いていたクラスの女生徒たちの声が静まった。
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