第74話 PK戦2

[まえがき]

感想を頂き頑張ってみたのですが、いまいち迫力出ませんでしたので、音楽でも聴きながら、テンションを上げてください。

YouTubeよりhttps://www.youtube.com/watch?v=76AwAPehK9Q

◇◇◇◇◇◇



 秋山が黙って両手を広げた。ほう、見た目だけはイッチョ前だ。


 さあて、最初から秋山が伸びてしまっては面白くないので、回転をかけながらゴールの左端でも狙ってやるか。とにかくボールが破裂しないよう気を付けて軽くな。


 シュッ!


 ほんの軽くサッカーボールを蹴ってやった。ボールが高速で回転したまではいいが、フワリ、といった感じで浮かび上がり、そのままカーブを描きながらゴールの右上めがけてふらふらと飛んで行った。


 これは、秋山にキャッチされるかパンチングされるかするだろうと思って見ていると、秋山はゆっくり右に流れるボールに追いつき、跳びあがってパンチングしようと右手を伸ばした。


 素人相手だと思ってか手袋をしていなかった秋山の右拳がボールに振れたとたん、何かがこすれる音がして秋山が右拳を引っ込めてしまった。そのせいでボールは秋山をすり抜けてゴールネットに吸い込まれていき、本人はそのままグラウンドに転がった。


 シューー。


 しばらくネットに当たっても回転し続けていたボールがやっと回転が止まり、ポトリと地面に落ちて、トントンと何度かバウンドした音がグラウンドに響いた。


「1対0な」


 うん? 何か静かだな。ゴールの向こうで見ていた連中が妙に静かにしている。


 秋山はというと、右手を気にしている。よく見ると、右手の甲、拳を作る辺りが擦り切れている。これは痛そうだ。


「今度は俺がキーパーだ」


 ようやく起き上がった秋山が、転がったボールを拾って、PK位置にセットした。右手が気になるようだが、ボールは足で蹴るんだから問題ないだろう。


「よーし、いつでも来い!」


 俺も、秋山のマネをして両手を広げて秋山がボールを蹴るのを待ち受ける。


 ボールの位置から、後ろのラインあたりまで下がった秋山が助走して、利き足を後ろに大きく引きながら最後の一歩を踏み込みボールを蹴り出した。


 バン!


 ボールはいい音を立てて俺の左後ろのネットに下から突き刺さるような感じで蹴り出された。スピードで押し切るつもりのようだ。高校生にしてはいいシュートなのかもしれないが、どだい高校生のシュートだ。俺からするとあくびの出るようなぬるいシュートを軽くサイドステップで追いつき左手を伸ばして片手でキャッチしてやった。



「1対0、変わらず。次は俺だ」


 キャッチしたボールを頭と両足を使ってリフティングしながら移動し、秋山と場所を入れ替わってPK位置にボールをセットした。


 俺は助走することもなく棒立ちのまま、利き足の右足を引き無造作にボールを蹴り出した。


 バシッ!


 ボールはキャッチの構えを取る秋山の胸に向かってまっすぐ飛んでいく。


 これなら、秋山でも取れるかと思ったが、


 ドス。


 重いキャッチ音を立てボールをキャッチした秋山が、そのままのけぞり1歩2歩と後ろに下がってキャッチしたボールごとゴールの中まで入りそのまま尻餅をついてしまった。


 こういった場合はどうなるのかわからないので、


「よく取ったじゃないか。1対0、で変わらずか。それじゃあ交代だ」


「ゴホ、ゴホ。いや、今のはゴールだ。2対0だ」


 悔しそうに秋山が自己申告してきた。ほう、サッカーに関してのこういうところは男らしいところもあるのか。少しは見直したが、ほんの少しだ。他のサッカー部員の前で嘘はけないものな。


 次の秋山のシュートは右コーナー一杯を狙ったシュートだったが、ボールが1メートルも飛ばないうちにゴールを外すことが分かったのでそのまま全く動かず見送ってやった。結果は30センチほどゴールポストの外側をボールが飛んで行った。


「2対0で変わらず。これで俺がシュートを決めて、お前が失敗したら終わりだな。俺がさっきのシュートと同じのを蹴ったらお前どうする?」


「……」


 観客が投げ返してくれたボールを受け取り、PK位置にセットしながら少し脅してやった。真正面のボールを受けても防げないなら手がないわな。


 お遊びはこれぐらいで、そろそろ終わりにしよう。


「秋山、今度のシュートを防ぐのはお前じゃ無理だ。今度も正面に蹴ってやるから、ボールに当たらないようにちゃんと逃げるんだぞ」


 俺がケガをさせないよう親切に忠告してやったのに秋山はボールを受けるつもりらしく、腰を落として構えている。


 バーン!


 その秋山目指して地を這うようなシュートを蹴り出した。今回はかなり前進回転を付けたボールだ。ケガはさせないと中川に約束したのだが、これはやっちまったか?


 ボールは数回地面でバウンドして砂埃すなぼこりを巻き上げ驀進ばくしんする。口でいうとスピードがないボールのようだが実際は、俺の右足が触れてから秋山の立つ場所まで一瞬で飛んでいる。


 秋山は俺の蹴ったボールを体で受け止めようとしたみたいだが、体の反応よりもボールの方が早かったため、最後のバウンドで若干高く上がったボールをなすすべもなく顔で受け止めてしまった。ボールは前進回転でそのまま秋山の顔を滑りあがって、ゴールのクロスバーを下から抜けてネットに突き刺さった。


 後ろにのけぞるように倒れ込んだ秋山だが、何とか頭を打つこともなく大したケガはなかったようだ。ただ、サッカーボールが高速回転しながら滑りあがった顔面がタイヤの跡のような感じで赤く腫れあがって若干擦り剝すりむけただけで、俺から見ると大したことは無い。あっ、鼻血も垂れてる。ちゃんと逃げろと言ったのに。


 寝っ転がってなかなか立ち上がらない秋山に向かって、後ろで見ていた一人の女子生徒が駆け寄った。その女子は食堂で絡んできた伊藤かと思ったら、俺の知らない女子生徒で、中川ほどではないにせよ、俺から見てもかなりの美少女だ。その女子生徒がグラウンドに膝をつき秋山の頭を膝枕して介抱し始めた。自分のハンカチで鼻血も拭いてやっている。


 伊藤は途中まで駆け寄って来たのだがその様子を見て途中で立ち止まってしまった。これでは、伊藤も浮かばれまい。ここにも人生の縮図を見てしまった。


「おーい、まだ続けるか?」


「……」


 秋山のヤツは、よほど美少女の膝枕が気持ちよいのか返事をしない。


「俺の勝ちと言うことでいいな。約束は守れよ」


 なんだかバカらしくなったので、そう言い残して俺はグラウンドを後にした。


 周りで見ていた観客はひそひそ何かしゃべっているのだが、何だか俺がヒールみたいになってしまったようだ。別にどうでもいいことだ。



 中川と村田がクラスの連中とは少し距離を取って俺を待っていてくれたので、二人に合流して一緒に歩きながら帰りの駅に向かう途中、中川にお小言を頂いた。


「霧谷くん、ケガさせないって言ってたのに、秋山君、顔がれて鼻血出してたわよ」


「顔の腫れは明日には治るだろ。鼻血なんかはもう止まってるだろうし。逃げろと言ったのに逃げなかった秋山も悪いだろう」


「秋山くんだって一応サッカー部の期待のホープだそうだから、逃げろと言われて逃げるわけにはいかないでしょう」


「ある程度の実力があれば、俺のシュートが受け止めきれないくらい分かりそうなもんだがな」


「霧谷くんはやっぱり尋常じゃなくすごい」


「村田、これで秋山もお前にちょっかい出すことは無くなるんじゃないか?」


「そうだといいけど、今度は霧谷くんに突っかかってきそうだ」


「それはそれで楽しそうじゃないか」


「また、そういうことを言う。霧谷くん、もう学校では弱い者いじめはしないでよ」


「なんだ、俺が悪者なのか」


「今のなんて、弱い者いじめそのものじゃない」


「秋山は弱い者じゃないだろ。むしろあいつのやっていたことは、ジャ〇アンだぞ。しかも陰に隠れてこそこそと」


「そうかもしれないけれど、あなたはノビ〇くんじゃないでしょう」



 なんだか、形勢が不利だ。話題を変えなくては、


「わかったよ。そういえば、ドライが事務所に新しく部屋を作ったんだ。中川も見てみたいだろ?」


「あの事務所の中に部屋?」


「まあ、自分で見てみろよ。びっくりすると思うぞ。村田も良かったら見に来ないか?」


「それじゃあ、ドライさんに挨拶がてら寄ってみようかな。って、ドライさんは霧谷君の事務所に住んでるのかい?」


「そうだぞ」


「あんな小さな女の子が事務所の中に住んでいるというのは問題じゃないかい?」


「村田、ドライは人間じゃないんだぞ。見ただろ、あいつが手首を取り外してぶらぶらさせているところ。見た目はかわいい女の子かもしれないが、あいつは自分で言ってた通りマキナドールってロボットみたいなもんなんだ。まあ、サーバントは冗談だがな」


 村田は今の説明である程度納得したようだが、駅に着いたのでその話はおしまいにした。


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