第75話 トレーダー2
学校帰り、事務所に中川と村田を連れて来た。
「ドライちゃんはどこにいるの?」
「そこに新しく扉が出来てるだろ。自分でその先に部屋を作ってその中でトレードしてると思う」
「部屋を作ったって、あそこの壁の向こうは隣のビルじゃないの?」
「鍵はかかってないから、試しにそこの扉を開けてみろよ」
言われた通り、中川は新しくできた扉を開けその中を覗き込んで息をのんだ。
村田も、中川の後から扉の先を見て口アングリだ。
「かなり広い部屋だろ。すぐ脇の間仕切りの中をトレーディングルームにしてるから、そこにドライがいると思う」
「部屋ができてるのもおかしいけど、何? この広さ。学校の講堂より広いじゃない」
「ドライにしてみれば、いろいろ物を置きたいんでこのくらいにしたんじゃないか。誰の迷惑でもないんだからいいだろ」
「どうなってんだろう?」
村田が興味
「村田、あまり奥の方に行かない方が良いぞ。
奥の方で、カサカサ何かが動き回っている音も聞こえてきた。
「ええっ!」
「危ないと言っても、いきなりは襲ってはこないと思うがな」
「いきなりじゃなくちゃ襲ってくるの?」
「さあな。まあ、ドライのところに行ってみようじゃないか。
おい、ドライ、俺だ」
間仕切りに付いたドアを開け、中に入るとドライが椅子に座ってじっとしていた。PCの画面もあまり変化は無いようだ。午後3時を回ってだいぶ経っているので、今は
「マスター。お帰りなさい。お出迎えもせず申し訳ありません」
今日の朝は1本のUSBのケーブルに繋がっていたドライなのだが、今は2本のUSBケーブルと繋がっていた。これだと、動くに動けないのも分かる。
「マスターのお友達の、ミストレスに村田さんもこんにちはー。今日からドライ改め
また面倒なことを言い始めた。俺はどう説明すればいいんだ?
「ドライのヤツ、妙なラノベに
「そうなの、それじゃあ玲奈ちゃんこんにちは」
「猿渡さんこんにちわ」
ドライに喋らせているとややこしくなるばかりなので、
「玲奈ちゃん、お前はトレード中なんだろうから引き続きやっててくれ。俺達はしばらく横で見てるから」
俺が、ノートパソコンの画面に映っている数字の説明を二人にしてやったのだが、俺から見ても驚くほどの収益が上がっていたようで、確定利益と評価益を加えた総利益の数字が2億近くになっていた。俺が高校に行っている間に1億近く儲けたようだ。
「1億9500万?」
村田が素っ頓狂な声を出して驚いた。中川も何も言わなかったがかなり驚いたようだ。
「今日も3時で株は全て
俺達、見学者3人分の椅子を用意してドライのトレーディングルームで収益が2億まで積みあがっていくのを眺めていたので、
「中川、村田、そろそろ行くか。ドライ、それじゃあな」
「玲奈ちゃん、さようなら」
「猿渡さん、失礼します」
「それでは、みなさん、お気を付けてー、さようならー」
ドライの部屋を出て事務所に戻ると、中川の机の上に置いてある電話が鳴っていた。すぐに受話器を取ると、武山薬品の服部からの電話で、20分ほどでこっちにやってくるそうだ。
中川と村田はそのまま家に帰ったので、一人でインスタントコーヒーを
やって来た服部をソファーに座らせ話を聞く。
良く俺が事務所にいることが分かったな、といったら、副社長指示で俺の動静を確認するため見張りを置いていたそうだ。俺が気付かなかったのは素直に感心した。服部が俺の指示で動いていることも知らず板野もご苦労なことだ。
「霧谷さん、板野は積極的に動いて、既に複数の機関投資家の元に回ってポーションを使っています。そのあとでちゃんと、こちらでフォローしており、これまでに発行済み株式数の40%ほどの議決権の目途が立っています。あと、10%ほどですが、最終的にはもう10%上積みできそうです」
「ほう、服部、やるじゃないか。月末の株主総会が楽しみだな」
「そうですね。それと、板野以外の役員連中の資料も揃ってきました。ほとんどの役員が大なり小なり不正を働いて会社に損害を与えているようです」
「ご苦労さん。うまくいったら、そいつら全員懲戒解雇してやるからかなりのポストが空くだろう。そしたら服部、お前が人事と総務関連の役員になれ、それで会社の膿を出し切ろう」
「私が役員ですか?」
「お前ならそのくらいできるだろ。不満じゃなければやってくれ」
「頑張ります」
「それと、今までお前の部下だった連中もそれ相応の待遇に引き上げてやっても大丈夫だぞ。俺自身は何ともないが、お前の周りを身内で固めるようにしておけ」
「ありがとうございます」
「お前の話を聞く限り、監査会社も問題有るんじゃないか? それほどの不正を社内だけでは隠し切れんだろう? 問題があるようなら、監査会社も替える必要があるな」
「そちらも調べてみましょう」
服部から話しを聞く限り武山薬品はかなり面白い会社のようだ。
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