第61話 対価は俺が決める


「確かめたかったらモルモットでも何でもいいから、手足の無いやつにでも飲ませてやりな。無くなってすぐなら時間もかからず手足が生えてくるはずだ。無くなって4、5年以上経ってたら、生えてくるまで半日くらいかかると思うがそれでもちゃんと生えてくる。

 ケガだけだと、それほどピンポイントでニーズはないかもしれないから、こっちも渡しといてやるよ。これは病気用だ。たいていの病気はこれで治る。そうだな、病気で明日をも知れぬ容態でもさっきのと二つ合わせて飲めば多分助かると思うぞ」


 そういって、ヒールポーション(強)を20本、キュアポーション(強)を20本おっさんの机の上にずらっと置いてやった。


「それだけあれば、恩を振り撒いておっさんがこの会社で天下を取れるんじゃないか? どこにでもいるだろ、身近に病気を患ってるやつが? 試してみろよ。


 ケガの方は、モルモットといわず今ここでおっさんで試してみるかい? 少しは痛いかもしれないがどうせすぐ直るんだ」


 あたりまえだがおっさんは嫌そうな顔をする。


「自分で試した方が良くわかると思うが、嫌なら俺の手で実演してやるよ。よく見てろよ」


 ハメていた黒いグラブを外しておっさんの机の上に左手を置き、右手にアイテムボックスから取り出したスティンガーを持って左手の甲をいっきに突き刺した。


 ズシャッ!


 板野が「うえっ!」といった顔をしてナイフの刺さった俺の手と俺の顔を交互に見ている。骨の無いところを狙ってスティンガーを振り下ろしたわけではないので、指に繋がる手の骨も2、3本折れているし、指先に繋がる腱も切れているので3本ほど指もバカになった。しかも、かなり痛い。だが、痛みには慣れているし、すぐに直ると判っているのでこの程度の痛みは我慢できる。


 左手を貫いて机の天板まで突き刺さったスティンガーを引き抜いたら一気に血が噴き出てきた。動脈、静脈織り交ぜて切断したようで、赤黒い血と真っ赤な血が混ざりあっている。少し痛いのを我慢して手を振って血をはらい、机の上のヒールポーション(強)を1本取り蓋を開けて数滴傷口に垂らしてやった。おっさんの上等の背広やらワイシャツが血で汚れたのはご愛敬だ。


 俺の場合、この程度の傷の場合放っておいても1時間もあればすっかり治るので、もう出血は止まっている。


 傷口に残った血と混ざったポーション液がキラキラと虹色に光ったと同時に傷口が塞がった。おっさんの机の上に置いてあったティッシュで左手の甲をぬぐってやると傷口など何もない元のまんまの皮膚が出て来た。もちろん骨や腱、血管も繋がり痛みもひいている。


「これで分かったろ? あの程度の傷ならこいつを数滴で十分だ。いまは傷口が新しかったから上からかけたが、傷口が塞がったものだったら、飲んだほうがいいだろう。病気用の薬はここじゃあ試せないが、言った通りの効能がある。一月ひとつきもあれば、おっさん社長になれるんじゃないか? 次の株主総会がそんぐらいだろ? 大株主に緊急動議でもさせて社長になりなよ」


 板野は俺の言葉を聞いて、なにか頭の中で計算でもし始めたようだ。


「できるだけのことをして見よう」


「それじゃあ、おっさん、俺がここまでしてやったんだ。おっさんは俺に何をしてくれる?」


「私が社長に成れたら、この会社の株を10%やろう。適当な名目で新株をそれだけ出す。それを君に譲ろうじゃないか。今の株価で考えれば、それだけで1000億を超える金額になるぞ」


「そうかい。それじゃあそれを期待しておくか」


 1000億か、自分では奮発しているつもりなんだろうな。普通ならまずまずの金額だが、俺はその程度で終わるわけにはいかないんだよ。


「それじゃあ、うまくやってくれ」


 板野を残して俺は『ステルス』からの転移で事務所に戻った。




 さて、次のステップだ。服部に電話して指示を出しておこう。


「服部、これからお前は、板野を社会的に潰せるような情報を集めるんだ、いいな」


「霧谷さん、それなら心当たりがあります。証拠もある程度揃っているし、新たに集めることも簡単ですから任せてください。板野に限らず他の役員連中の致命的な情報もそれなりに揃っています」


 ほう、やはり服部は、俺の見立て通りこういった仕事もかなりこなしていたんだろう。身うちだからこそ、将来トカゲの尻尾切りに会わないために、そういった情報を集めておくことが必要なことを十分、理解していたようだ。


「そいつは、期待してるぞ。

 それともう一つ、こっちの方が大切だ。いいか、株主総会までの1カ月、板野が有力株主に俺の薬を使って大きな貸しを作っていくことになっている。こんどの株主総会で自分を社長に推させるためだ。

 板野が渡りをつけて、実際、病気なり怪我が治った連中を洗い出せ。

 その連中のところに行って、薬は板野に騙されて取り上げられたものだと知らせてこい。株主総会で俺を社長に推すように言って回るんだ。くれぐれも板野に感づかれるなよ。それと、明日、俺の喫茶店に顔を出してくれ。俺が本物の薬の作り手だと相手に納得させるために薬をお前に渡しといてやるから有効に使ってくれ」


「霧谷さん、あんたすごいな」


「今の時代、助ける側であれその逆であれ、人の命を握ってるヤツが一番強いんだ。だろ? 細かいところは任せたからな。それじゃあ、俺の言ったことよろしく」


「了解しました」


 いやー、こういった仕事のプロを抱えておくと仕事がはかどって気持ちがいいぞ。無事、武山薬品の株主総会で俺が社長に成ったら、集めたスキャンダルで板野のヤツを即刻解任してやるからな。実質懲戒相当の解任だ、どんな規定が会社に有ろうと役員の退職金は払わずに済むはずだ。そのあと、スキャンダルの内容にもよるが会社に損害を与えたとかいって損害賠償の裁判でも起こして身ぐるみ剥いでやる。俺の大事な妹に手を出した主犯だ。無一文で済むなら安いものだろ。



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