第29話 金村建設3、街にランドマークを作ろう


 花菱組長に、個人を対象とした最上位幻影魔法『フェイタル・イリュージョン』をかけて約5分。


 術を掛ける前、40歳くらいに見えたこのおっさんだが、今は、体を小刻みに震わせている70、80歳のじじいに見える。髪の毛は真っ白。色つやの良かった顔は不健康そうに青ざめ、その顔から首にかけてシワが目立ち、目も窪んだ。

 これ以上術をかけ続けるとこのおっさんは廃人になるか衰弱死する。そろそろ、術を解いてやるか。ロープは外しといてやるからあとは勝手に自分の家に帰んな。



 さーて、今度は、金村建設の番だ。


 中途半端に壊す方が、完全に更地にしてやるより復旧には手間暇かかるよな。


 それじゃあ一丁、この街の観光名所を作ってやることにしよう。


 まずは、普段着に早着替え。そして『ステルス』からの『転移』


 転移で、金村建設のビルの裏側にある駐車場にやって来た。何台か駐車中の車もあるし、ここから見上げると何個所か窓にかかったブラインドの隙間から明かりが見える。休日出勤とは、大変ですねー。これから、もっと大変にしてあげますよー。


 金村建設のビルは全体的には鉄骨製のビルのようだが、ビルの下の方の階は鉄骨が鉄筋コンクリートで固められていた。ちょっと頑丈そうだ。


 それでも、下の方の金物を抜いていけばそのうち自重で崩れるだろう。下から縛りの一人ジェン〇だな。


 それでは、1階の柱部分の鉄骨を1本ずつ抜いてみよう。何も指定してないと建物全部の鉄骨を抜いてしまうことになるので長さを指定して、鉄骨を『収納』して抜いていく。


「1本、2本、……」

 

ビルのすべての重さを支えている1階部分の駐車場側の鉄骨を全部抜いてやった。今のところ外見上の変化はない。注入されているコンクリートが耐えているようでなかなかにしぶとい。


 それじゃ、もう少し鉄骨を抜いていこうか、鉄筋も忘れず抜いていこう。


「……」


 壁面の外装材にひび割れ始めた。とうとうコンクリートだけ残った柱の駐車場側の面が荷重で座屈し始めたようだ。近くからだとビルは傾いているようには見えない。もう少し傾けないと街のシンボル、ランドマークにならないぞ。


 ここら辺から1、2本。あちら側から1、2本と鉄骨やら鉄筋を抜いていく。こいつは積み木崩しと同じでやってると結構面白いぞ。ジェ〇ガが流行るのもうなずける。


 ピシ! ピシピシ!


 来た来た! ビルの外壁に入ったヒビが大きくなって、ところどころ剥離して落っこち始めた。ビルの中にいた休日出勤中の連中も建物の異常に気付いたようで何だか騒いでいるようだ。早く出てこないと、エレベーターが使えなくなるぞ。


 横に回ってビルを眺めてみるといい塩梅に傾いている。これではもうエレベーターは使えないな。


 これ以上「抜き抜き」で遊んでいるとビルが倒壊してしまう。それではせっかくの苦労が台無しだ。


 こんどは、わが街に新しくできた文化財を保護するために2、3本の鉄骨を取り出して一番傾いた場所にツッパリにあてがってみたが、まさに屁のツッパリ。何の役にも立ちそうにない。倒壊してしまったらそれだけの物。俺は最善を尽くした。


 今日はこんなところで勘弁してやろう。


 今日はな。


 まあ、建設会社の自社ビルが手抜き工事だと噂が立てばこの会社も終わりかも知れんな。森本のおっちゃんが俺がらみの案件には手を出すなと親切に注意してやったのに、人の好意を無駄にするからこんなことになる。



 一仕事終えて満足した俺は、浪岡町に回って、叔父さんの家がどうなっているのか確認に行ってみた。突っ込んだトラックは、もちろん移動させられてそこにはなかった。周りに黄色いテープが張られたままだったが、通りを行く人が立ち止まって眺めているくらいで警察の人も消防の人もいなかった。


 叔父さんの家は、門から玄関、その先までメチャクチャになっていた。なぎ倒され、折れてしまった植え込みの木が哀れだ。実際のところ叔父さんもまかり間違えば死んでいたかもしれない。


 連中のやったことを自分の目で確認して、俺は自宅に帰った。


 母さんと美登里はもう一度、叔父さんの入院している海原病院の方に行ったようで、帰りは叔母さんと一緒に家に戻ってくるようだ。父さんはどこに行っているのかは知らないが家にはいなかった。


 夕方になり、叔母さんを含めた家族が揃って食事をすることになったが、叔父さんの入院対応でバタバタしていたため、外食することになった。父さんも家に帰って来る前、病院に見舞いに寄ったそうだ。



 翌朝。


 俺は朝食後、登校時間調整のため居間で朝のニュースを見ている。


 叔父さんの家にダンプが突っ込んだニュースが流れた後、


「昨日、大沼市北曙町のビルが倒壊しました。倒壊したビルは建設業、花菱組の所有ビルで花菱組の事務所を兼ねていました。倒壊前に逃げ出したビルの従業員の中にガラスなどの破片で軽傷者が出ています。幸い、周辺の建物に被害は出ていません。原因などは現在消防で調査中です」


「次のニュースです。同じく大沼市に本社を構える建設会社、金村建設の本社ビルが傾斜してしまい、倒壊の危険があるということで、消防が立ち入りを禁止しました」


 テレビ画面には、昨日の状態よりも傾斜がきつくなった金村建設のビルが映し出されている。早く何とかしないと、街のランドマークが危ない! 


「先にお伝えしました倒壊したビルを所有する花菱組は、今回ビルが傾斜した金村建設の関連会社で、昨日起こった2件のビルの傾斜、倒壊事故について関連性を指摘する声もありましたが、警察がこのような大規模な事故を人為で起こすことは不可能として手抜き工事等の可能性はあるものの事件性については否定しています」


 どれも昨日の夜に流れたニュースだが、さすがにここらでは大ニュースらしく朝のニュースでも取り上げたようだ。


「次のニュースです。一見いっけん民主党の副代表、連倣議員がまたまた自身を顧みない大放言で物議を醸しだしています。……」


 この人の芸風は確立されてるから、見てて安心できる。まさに面の皮芸人だ。いいぞ、もっとやれ! 朝から妙なものを見せられたので、そろそろ家を出よう。



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