第28話 悪夢。これも一種のVR
[まえがき]
残酷描写あり。苦手な方はご注意ください。
いうほどは、大したことはないような。
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「おっさんが言いたくないなら、それでもいいんだぜ。家の一軒や二軒いつでも更地に出来るからな。家の方が良かったと後悔してもおそいからな。それじゃあせいぜいいい夢を見な」
俺は、そう言ったあと、おっさんの頭を右手で掴むようにして、
『フェイタル・イリュージョン』を唱えた。
『フェイタル・イリュージョン』は、個人を対象とした最上位幻影魔法だ。この魔法をかけられた対象は、現実と見まがう夢を見る。もちろん悪夢だ。
人の死に方にはいろいろある。じっくり体験しろ。
◇◇◇◇◇◇
俺の名前は
いま俺はどういうわけか白い部屋の中にいる。部屋の中は眩しいほどに明るい。窓も無ければドアもない。ただ白いだけの部屋だ。何でこんな何もない部屋の中に俺がいるのかわからない。周りを見回しても何もない。何もないんだ。……。
のどが渇いてきたし腹も減って来た。いろいろ壁や床を調べてみたが何もない。何もないんだ。……。
腕に着けていたはずの時計も見当たらないので時間が分からない。この部屋にもう一日以上いるような気がする。いや、もう二日くらい経ったか? もう動き回ることも出来なくなった。
……、のどが渇きすぎて、口の中の唾液も出なくなり唇から口の中が渇いているのがわかる。目もあまり見えない。誰か水をくれ、ここから出してくれ、助けてくれー。……。
目がもう開かなくなった。誰でもいい、……だ・れ・か・た・す・け……て……
俺の名前は、花菱晃だ。
少し前に、喉の渇きと空腹の為に意識を失ったような気がしたが今は何ともない。
その時は何もない白い部屋の中にいたと思ったが今は真っ暗だ。俺は真っ暗な中、横になって寝ているようだ。何も見えないので手探りすると、すぐ顔の上に天井がある。左右に手を伸ばそうとすると、すぐに壁に当たった。頭のすぐ先にも壁がある。どうやら俺は狭い場所に閉じ困られているようだ。
ライターを上着のポケットに入れていたはずだ。スーツの上着は着ていたようで手でまさぐるとポケットの中にライターがちゃんとあった。ライターに火をつけて顔をおこしながら周りを見ると、俺は木でできた狭苦しい箱のような物の中に閉じ込められている。
どうしようもないのでライターの火を消してしばらくそのままでいたのだが、なんだか、息苦しくなってきた。この箱に空気孔があったか?
もう一度ライターを着けて箱の中を見回したが目に付くところには空気孔などどこにもない。
酸素がもったいないと思い、慌ててライターを消したのだが、そう意識してしまうと余計息苦しくなってきた。息苦しさとともに汗が出始めた。
誰かこの箱から俺を出してくれ。
ハア、ハア、ハア……。呼吸が早くなり、暑苦しさは増すばかりだ。
誰かこの箱から俺を出してくれー。
思い切り、上の板を殴ってみたがびくともしない。殴った感じが板を叩いた感じではない。なにか重いものがかぶさっている感じだ。まさか、俺は土の中に埋められているのか? 息が苦しい。暑苦しい。誰か、誰か助けて、……、タ、ス、ケ、……。
「花菱君、今日も遅刻ですか。次の授業まで廊下に立ってなさい」
今日も
「花菱のヤツまた立たせれてる。バーカじゃないか」
「わーい、わーい。バーカ、バーカ」
そう言って生徒たちが
俺の名前は、花菱晃だ。
今俺は高層ビルの建設現場のようなところにいる。立っているのは鉄骨の梁の上で、下を見ると人が文字通り蟻に見える。ときおり、強い風にあおられる。何とか下に下りたい。見回すと50メートルほど先に工事用の階段が見えた。そこまで何とかたどり着きたいが、この高所で幅30センチほどしかないの鋼材の上を歩くのはかなり勇気がいる。いったんしゃがんで手をつき太ももで鋼材を挟みながら階段を目指すことにした。途中鉄柱が立っているのでその柱を回り込んで向こう側の梁に渡らなくてはならない。
慎重に鉄柱までにじり寄り、右手を回して向こう側の梁に手を掛けてしっかり掴む。恐る恐る腰を上げ、体を前に移動させて向こうの梁へ重心が移ったとき、
グラ、グラグラ。
骨組みだけのビルが揺れ始めた。地震だ。低周期での揺れがだんだん大きくなりビルそのものがたわんで波打ち始めた。
あわてて両手で鋼材をつかもうとして伸ばした左手が鋼材をつかみ損ね、鋼材を掴んでいた右手だけでは体を支えきれなくなり、そのまま地面に向けて仰向けに落ちてしまった。見上げる青空の中に、仮止めされていた鋼材が上の方から何本も落ちてくる。
縦向きに落下する鋼材は、当然俺の落下スピードより速い。上から落ちてきた鋼材の先端が俺のみぞおち辺りに当たり、俺を押す。どのみち下に落ちれば俺は死ぬんだ。諦めて目を閉じて自分の死を待っていたのだがなかなか地面に衝突しない。
ドッバーン!
地面に衝突すると思っていたのだがなぜか水?の中に落ちたようだ。上向きになって沈んでいくため水面が揺れているのが分かる。沈みながら強い水圧を感じる。10メートルほど沈んだところが水底のようで、そこで体が沈むのが止まったと思ったら、俺の体を押さえつけていた鋼材がそのまま俺を水底の泥の中に押し込んでいく。
明るく見えていた水面からの光も
「花菱、俺は喉が渇いたからコーラ買って来ててくんねえか?」
「花菱、俺もコーラだ。よろしく。ほら、とっとと走って行け、こののろま」
「ハハハハ、ハハハハ。」
……。
「花菱、金持ってきたんだろうな?」
「ごめん、千円しかないんだ」
「1万持って来いって言っただろ、お前、なめてんのか」
……。
……。
……。
[あとがき]
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