【第六章】
【第六章】
「~~~~~~~~!」
帰宅後、私はベッドに突っ伏した。迷彩柄の毛布に顔を押し付け、足をバタつかせる。
そうか、やっぱり駄目なのか。こんな私に、望が振り向いてくれる日は来ないじゃないか。『男は星の数ほどいる』とか、何かの映画の台詞であったような気がする。けれど、とりわけ眩しい星なのだ、『佐藤望』という男子は。
『恋は盲目』とも言うが、それは意中の異性が眩しくて目くらましを喰らっている状態なのだと思う。それを『盲目』という言葉で片づけるのは、あまりにも乱暴だと思う。
そうやって自分を肯定していなければ、私は胸の奥から自分が崩れていくような気がしてならなかった。
「おーい、詩織。晩ご飯だ。ビーフシチューだぞー」
父の声がするが、残念ながら私はそれどころではない。必死だったのだ。
自分で自分を治めるために。涙が溢れ出そうになるのを食い止めるために。
一体どれくらいそうしていたかは分からない。だが、私の気を惹いたのは、LINEのメッセージの着信音だった。
※
翌日。
「あら、綾ちゃん、真由美ちゃん! お久し振りね!」
「いやー、朝っぱらからすいません、おばさん!」
「すみませーん」
「さあ、上がって上がって! 詩織、お友達よ!」
私はベッドからむくりと身体を起こし、パジャマのままで部屋を点検した。
昨日、『訪ねてもいいか』という旨のメッセージを受け取り、私はOKの返答をした。それから掃除をしたのだが、なにせ『心ここにあらず』という状態だったので、きちんと掃除ができたか分からない。
飲み物やお菓子を持って母が入室してくることを想定し、せめてパジャマからホームウェアへの着替えくらいはしておくことにする。
軽いノック音と共に、
「おはよー、しおりん」
と言いながら真由美が入ってきた。太っているわけではないが、ほんわかした雰囲気のせいで、雪だるまが転がり込んできたような雰囲気がある。
綾はといえば、迷彩柄のジャケットに身を包み、『綾伍長、入ります!』と敬礼しながら踏み込んできた。
今日は土曜日で学校は休みだが、
「綾伍長、部活はよろしいのか?」
わざとおどけた風に尋ねると、
「はッ、軍曹の援護を申し使っておりますゆえ、問題はありません」
『申し使って』って、誰の命令だよ? まさか、松浦先生か? まあいいか。小テストを行うと宣言した時の私の驚きようを見れば、誰しも私が平常心でないことは分かるだろう。
「ねえ綾っち、今日はねー、しおりんのバレンタインの助っ人に来たんだよー? 兵隊さんごっこはお終いにしようよー」
そんな真由美の呑気な言葉に、綾は半ばズッコケながらも『そ、そうだな!』と言って低いテーブルに着いた。
こうして、バレンタイン作戦会議は開始された。
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