【第四章】
【第四章】
翌日。
私は昨日、真由美にバッサリと論破されてから、苦悶の夜を過ごし、何とか遅刻ギリギリで投稿した。
勉強にも夕食にも手が付かず、一人娘に甘い父は『詩織、どうかしたのか?』としきりに心配してくれたが、母に止められて追及(という名の愛情表現)を中断した。
何か察しているな、母さんは。
その原因である綾と真由美は、躍起になって私の笑いを取ろうとしている。昨日のLINEでの遣り取りで責任を感じ、私を励まそうとしているのだろう。いつもならケラケラ笑える私も、しかし今日はどんよりとした表情を隠せない。
チャイムと共に、担任の松浦忠司先生が入ってきた。男前で気が利くので、バレンタインにチョコを贈ろうとする女子もいるとか。
「よーし皆、席に着いてくれ」
陸上部の顧問だけあって、よく通る声と共に存在感を発揮している。
「早速で悪いが、今日は抜き打ちテストをやるぞ」
「はあ⁉」
ざわついた教室の中でも、とりわけ素っ頓狂な声を上げてしまった。
「おう、どうした新山? 毎日勉強してればどうってことないぞ」
この県立春雨高校は、県内では名の知れた進学校である。生徒は皆、自分から予習・復習を欠かさないものと見做され、それなりの試験を課せられる。
でも、だからと言って今日テストをやる必要はないだろう。こんなに心がガタついているのに。
「さて、じゃあ学級委員長から一言貰おうか! 望!」
威勢よく指名する先生。望は一瞬、目を見開いたものの、すぐに咳払いをして驚きを相殺。教壇に上がる。
「えっと、皆、四月からは受験生です」
淀みなく語り出す望。彼の真剣な目に、私は吸い込まれそうになった。
「大学進学くらいで人生が変わるとは、僕は思いません。でも、自分の視野を広げ、よりよく生活する経験を得るためにも、真剣に立ち向かうべき課題であると、僕は思っています」
そして次の一言が、私の胸を貫いた。
「自分の好きな物事に熱中し、それを糧にできる人は、僕はとても素敵だと思います」
一瞬、呼吸を忘れた。フリーズした。心臓さえ止まったかもしれない。
自分の好きなことに熱中? そんなことをしている人間が、望には魅力的に見える? ということは、ミリオタな私にもチャンスはあるんじゃないか⁉
その後行われた国・数・英の小テストにおいて、私は平均より大幅に下回る得点を頂戴したが、些末なことだ。
昼休み、真由美に指摘されるまで、私は自分の頬が緩みっぱなしになっていることに気づかなかった。
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