09 街一の荷運び屋 ラトロー

二日目




 最悪だ。頭がガンガンして吐き気もする。日差しがこんなにも嫌な日が来ようとは思いもしなかった。それにレイラは昨日の夜に通り魔にあったと騒いで腕にしがみついて離れない。そんな中私たちは街を歩いていた。




「もういい加減、腕離してよ」




「嫌だ!怖いの……」




「まったく……昼間っから襲ってくる奴なんていないって!それにほんとなの?通り魔を見たって」




「見たもん!ギラギラした細い目にしっぽ、それにナイフ持ってて、人が襲われてたんだもん! 」




「その割には騒ぎになってないけど……」




「見たもん!!」




「はいはい、それで……これはどこに向かってるの?」




「この手紙を荷運び屋さんに持っていくの」




そういいレイラは袋から手紙を出す。手紙には「ラムジへ」と書かれている。




「ラムジは城に置いて来ちゃったから、心配しないように手紙を送ることにしたの」




「あの石みたいなやつに?」




「そんなことないもん! ラムジは確かに見た目は固い石みたいだけど、ほんとは優しい良い人なんだから」




「へいへい……」




 そうして話している内に荷運び屋の前に着いた。荷運び屋の前には大きな受付があり、皆並び、それぞれの荷運び屋の獣人を雇っている。


 私達が受付に着くと獣人が陽気に話しかけてくる。




「あっ!レイラちゃん! どうしたの? ひょっとして俺に会いに来てくれたとか?」




「こんにちは、クク。今日は手紙を送ろうと思って来たの」




「なーんだ、俺に会いに来たんじゃないのか〜」




ククはしょんぼりとして耳を畳んだ。




「それでどこに送るの?」




「ケオトイコスの兵士駐在所まで」




「ケオトイコスまでね。6ギルで承るぜ。そんでケオトイコスまでなら、もうすぐ帰ってくるラトローが良いな。そろそろなんだが……」




お金を渡し、受付で待っていると風切音ともに砂埃を舞わしながら凄まじい速さで一人の獣人が走ってくる。




「へいよ! 荷物お待ち!」




そう言ったその獣人はしましまの尻尾にヒョウの様な模様で黄色の細い目持つ獣人で、荷物を素早く置き、汗を拭きながら奥のカウンター席に座った。




「あれがラトローさ。レイラちゃん運良いね!ラトローはこの荷運び屋で一番早い奴なんだぜ。ここからケオトイコスにも1日かからないくらいで着いちまうんだ。」




「1日かからないの? 凄いね!」




「あいつは昔、事故で荷運び屋が出来なくなるほどの大けがしたことがあってな、皆もうだめだって諦めかけてたんだが、そんな時に異国から医者が現れてラトローを治してくれたんだ。足は義足になっちまったが今じゃ昔以上の荷運び屋になったんだぜ!」




「へぇ~、お医者様もすごいけどラトローさんもすごいね!」




「だろ~。それじゃ、この紙をラトローに渡せば配達してくれるぜ。」




 そう言い判子の押された紙を一枚渡される。レイラはお礼を言い、ひょこひょことラトローの方に向かう。私はレイラに腕引かれ半ば引きずられるように連れて行かれた。




「貴方がラトローさん?」




 ラトローは耳をピコピコ動かしながら振り向く。




「おう! そうだぜ! 配達かっ……!?」




 ラトローは突然胡瓜を置かれた猫の如く、レイラから飛び退き、耳を畳んだ。




「なんだお前!?」




 レイラは不思議そうにラトローに呼びかける。




「手紙の配達をお願いしたいのだけれども」




「あ……ああ配達、配達ね……」




 ラトローはレイラを凝視して目を離さない。時々目が合いそうになるとオロオロと目を逸らす。それを見たレイラはラトローを心配そうに見つめる。




「あの……大丈夫ですか?」




「え? っああ……大丈夫だ」




 もう限界だ……私は二日酔いもあり、フラフラとレイラにもたれかかり、それによりレイラは押されラトローに寄りかかってしまう。




「わっ! どうしたの?」




「ひっ!?」




「もう……無理……おろろろろ!」




「サアラ!? いやぁぁぁ!!」




 その場は混沌としていた。吐き続けるサアラ、それに巻き込まれるレイラ、白目で固まるラトロー、一見するだけでは全く理解が出来ない空間がそこにはあった。そして一番の被害者は荷運び屋であることを忘れてはいけない。

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