08 目撃者

 サアラがお花畑になる数分前――


 獣人達におんぶされアラワシュに到着する一人の少女がいた。




「ありがとうございます。助かりました」




「いやいや、困ってる美人がいたなら助けなきゃ荷運び屋の名が廃るってもんよ!」




「なにかお礼が出来ればいいのだけれど――」




 そう言って少女は持っていた袋の中を探る。するとそれを見た獣人は袋を探る手を押さえて言った。




「そういうのはいいからさ~。名前教えてよ。それと今晩食事でもどう?いいとこ知ってんだ~」




少女はきょとんとした顔で答える。




「名前? 私はレイラ、ご飯は――」




「おーい! 早く仕事終わらせようぜ!」




先に荷物を降ろしていた獣人達が私と話していた獣人を呼ぶ。




「へーい! へぇ、レイラちゃんね! 俺の名前はククってんだ。それじゃまた今度!じゃあね」




「うん! またね」




 ククは力強く肉球の付いた手で私に握手をして去って行った。私も気持ちのいいお別れをした後、街の中心へと進むことにした。


 街にはお店がいっぱいで目移りしちゃう様な珍しい物が沢山ある。見たことないトゲトゲ赤い果物、見たことない幾何学模様装飾に星空をそのまま写したかの様な煌びやかな服・・・・




「いや、今の私の目的は観光じゃない。しっかりするのよ、私!今はサアラを見つける事に集中しなきゃ!」




 私がサアラを探して街の中心へと進んでいると何やら建物の前に人だかりが出来ている。私は興味本位でその人だかりに頭をのぞかせた。するとそこには探していたサアラが建物の前で大の字で寝っ転がっていた。




「サアラ!」




 サアラの名前を呼ぶと大柄な顎髭の濃い獣人が頭をかきながら歩いてきた。




「お嬢さん、こいつの知り合いかい?」




「知り合いというか……そう! 友達なの!」




「そりゃいい! こいつが酒飲んで、のびちまって、こんなところで寝ちまったもんだから困ってたんだ!友達ならほら、家とかに連れて帰るなりしてくれよ!」




 私はサアラの頭を膝に乗せ、ペチペチとサアラの頬を叩く。




「サアラ! 起きて!」




「むにゃむにゃ、えへへ、お花畑だぁ~」




 サアラは気持ちの悪い笑顔で起きようとしない。




「サアラ! 私よ! レイラよ!」




「れいら? れいらた~ん」




 サアラは私にしがみつきスリスリと頬擦りをしてくる。




「いやっ!」




 私はサアラの酒臭さと謎の嫌悪感に襲われサアラを思いきり突き飛ばしてしまった。 


 サアラは顔面から地面に落ち、打ちどころが悪かったのか。ピクリとした後ヘナヘナと脱力して動かなくなった。








 店じまいをした建物からは明かりが消え、街はしんとしていて、目を覚ましているのは自分だけのような気がした。そんな時間に一つの窓に明かりが灯っていた。そこにはベッドに横たわるサアラと介抱をしているレイラの姿があった。




「何とか宿取れたけど、サアラ大丈夫?」




 私はサアラの頬を撫でて呼びかける。




「う~ん、目の前がぐるぐるする……」




 サアラはまだ酔ってるみたいだ。どうやら、あの状態から一変して今度は酔いに苦しめられているらしい。


 そういえば、今こうしてサアラと話が出来る絶好のタイミングであることに気がついた。私は当たって砕けるつもりで話す。




「私ね……どうしてお父さんが死ななきゃいけなかったのかとか、この先どうしたらいいのとか、あの後いろいろ考えたの。それでね……私はサアラに付いていくことにしたの!そうすればお父さんの事もこれからの事もわかる気がするの!」




「……」




「最初はもう死んじゃおうかと思ったけど、私もどうしても気になっちゃって!それでね…」




「いいんじゃない? 好きにやれば?」




サアラは真っすぐ私を見て言った。




「――ッ! ありがとう!」




 断られると思っていたから、少し驚きつつ嬉しさもあり、サアラに抱きつき揺さぶった。




「わかったから離して、それに今、横揺れは……おえええええぇ!!」






 サアラの吐き気が収まり、再び部屋に静寂が訪れた頃、私はサアラにお水を飲ませようと井戸の方へと向かおうとしていた。




「それじゃ、行ってくるね」




「うん……おえっ」




 サアラはえずきながら手を振った。


 外は暗闇の中、ランプを持つ手の影が伸びる。井戸はすぐそこの曲がり角にあることを知らされていたのでゆっくりと道を進んだ。


 角を曲がり丁度井戸の前に着くその時、突如男性の叫び声が聞こえた。


 私は驚いてその方向にランプを向けた。そこには売り物であろう宝石が散乱していて倒れている男性と頭までローブに包まれた、しましまのしっぽの生えた男が立っていて、その手にはナイフがギラギラと輝いていた。




「きゃーーーー!!」




 私は条件反射で叫んでしまった。するとそのしっぽの生えた男は酷く動揺しローブをぐいっと被り直した。そしてこっちを細く鋭い目で睨みつけ、ナイフを構える。




 私はとっさにランプを捨て全力で来た道へと走る。感覚でわかる、追いかけてきている、鋭い刃が近づいてくる。私は無我夢中で走る。自分たちがいた宿屋が見えたと思ったその時、安堵からか足がもつれ転んでしまった。


 急いで立ち上がろうとしていたが腰が抜けてしまい立ち上がれない。男はナイフを構えじりじり迫ってくる。私はもうだめだと恐怖から目をぎゅっとつむった。




「おえっ……水まだぁ?」




 聞き覚えのある声に驚き、目を開けて振り向くとそこにはヨロヨロと宿から出てきたサアラがいた。




「どうしたの? こんなところで寝っ転がって?」




 私ははっと男がいた方に向き直すと男はいなかった。


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