流通都市 アラワシュ

07 お花畑

 一日目


 砂が舞い、先には蜃気楼が揺らめき、太陽は容赦なく砂漠に挑む者の気力を奪っていくだろう。その砂漠に、ぽつんと一人歩いていた。






「たくっ! どんだけ遠いんだよぉ!」




 サアラは砂丘の天辺で声を荒げるが寂しく響くのみで答えてくれる者はいない。




「ちくしょう、進むしかないか」




 国王は2日と言ったがもう4日は歩いている。騙されたと思いつつ、鉛のように重たい足を一歩一歩進め、砂丘を一つ二つと越えていく。息が上がり足元を見ながらでしか前も進めなくなっていた頃、後ろから轟くような沢山の足音が後ろから迫ってくる。




「どいた! どいたぁ!」




 足音の主は猫のような耳、細い瞳、力強い手足に爪を持つ噂に聞いたことがある獣人族だ。サアラをちらっと見たと思うと獣人達は全速力で走り去っていく。


 迫力に圧倒されながら初めて獣人族を見た奇妙な嬉しさで少し気分が晴れたのが感じた。そうして獣人達を目で追っていると砂丘の先に街が見えている事に気がつく。




 「あれが次の街アラワシュ!」








 街は出店がはみ出るようにぎっしり詰まっている。入るやいなや客引きの声がこだまする。そして入ってすぐ此処を訪れた者は必ず思う事をつい言葉にしてしまう。




「獣くさっ」




 人によっては耐えれないほどの獣臭さがそこにはあった。私は眉をしかめ、暫く鼻を摘んでいた。


鼻が慣れてきた頃、街を改めてみて驚愕した。普通の出店や建物もあるが、なんと木に建物が突き刺さって宙に浮いている。それにつり橋が蜘蛛の巣のように張り巡らされており、次の木の家と繋がっている。その森や建物を見て思った。


 これが噂に聞くジャングルってやつか。


 驚きのあまりじっと見ていると獣人の子供が顔を覗かせていて、生活感のある洗濯物を見るにそこが獣人達の居住区であることがわかった。






 街の中は先程見た獣人達以外にも多種多様の人種が存在し、皆獣人達に荷物とお金を渡しているところがあった。よく見てみると店らしき所の看板に「荷運び屋」と書かれていて、荷物を受けとった獣人は手を振り走り去っていた。






 荷運び屋を通り過ぎ、街の中心へと向かっていると肉の焼ける匂いが薫ってくる食堂が見えた。


 疲れのせいか吸い寄せられる様に私は食堂に入っていく。椅子に座り「ぶどう酒お願い」と言い、うなだれた。すると注文を聞いた筋肉隆々の顎髭が毛深い獣人の店主は私に話しかけてくる。




「おいおい、嬢ちゃんお疲れかい?」




「それがもう、くたくた」




「くたくたな嬢ちゃんにぶどう酒なんかよりオススメの飲み物があるんだがね!」




「オススメ?」




「おっ興味あるかい? 異国から仕入れた酒なんだか、ちいときついのが難点だが香りと旨さは保証するし何より疲れに効く!それとよ――」




 私は疲れでめんどくさかったので話半ばでそのオススメの酒を頼んだ。


 親指くらいの小さなグラスが出てきて店主はそれにキラキラと輝く琥珀色の液体を注ぐ。その瞬間花の蜜の様な芳しい香りがし、自然とその琥珀色の酒は口に運ばれていった。




「そうそう話の続きなんだがよぉ。この酒ニウって言うんだが、あまりのきつさに別名(お花畑)って言うくらいって代物でよ!――」




 何か聞こえた気がするがまあいい、こんなに美味しいお酒飲んだことがない。なんていい日になんだろう!まるでふかふかのお花畑に寝そべってるかのよう。そう、お花畑なのだ。視界はグルグルと回転し、カウンター席に倒れる様に横たわった。




「でよ――嬢ちゃん?……だめだこりゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る