06 その先を見る者
追いついた!国王の姿を捉えた私は建物から飛び降り、その勢いのまま渾身の力を込めて殴りかかる。兵士は捨て身で国王をガードするが力が籠った拳はまるで弾丸のように兵士を跳ね除け国王の顔へと向かった。
「くらえ!」
国王に拳が届く寸前、兵士に紛れレイラが前に立ちはだかる。今の拳をレイラに当てたら間違いなく死ぬ。
私はあとちょっとで届くはずだった拳を勢いを殺し止めるしかなかった。
「フハハハ! 甘い女だ!!」
レイラは剣で私の腕を斬りつける。
「ぐわっ! っ!!」
いつの間にか兵士も合流し取り囲まれてしまった。そして逃げようとしても槍で煽られ逃げようがなかった。
「フフフ、これでしまいだ。さあ我が娘レイラよ。止めをさせ!!」
レイラは止めを刺すべく膝をついていた私に心臓めがけて突進する。
「いけません! 姫!!」
兵士に紛れ、飛び出したのはあのレイラと一緒にいたラムジだった。
剣を持つ手を掴み、暴れるレイラを手足でがんじ搦めにした。
「何をしている! 殺せ!」
動揺した国王はすかさず周りの兵士に命令する、しかし国王がガラ空きになったのを見逃さなかった。
残った力を使い渾身の拳で国王の鳩尾を叩いた。
「このっ! くそ野郎がぁ!!」
国王は凄まじい勢いで民家の壁にめり込み激突した。
「ごゔぁっ!!」
国王はその衝撃により意識を一瞬手放した。それが原因なのか、国王を吹き飛ばしてやった後、取り囲んでいた白目の兵士はまるで糸を切った人形みたいにバタバタ倒れ始めた。
国王も兵士も倒れた今、やっと本題に入れる。緊張が解けて斬られた傷が痛み出す前に話を聞こうと倒れた国王の胸ぐらを掴む。
「気絶する前に言え!その義眼はどこで手に入れた?! 」
「この……義眼は――」
国王が口を開こうとした時だった。突如、国王の胸からおびただしい出血とともに太い刃が飛び出てきた。
「グハァっ! 貴様っ!!」
「喋り過ぎですよ。国王」
その蛇が巻きついてくる様な気持ち悪い声は背後から聞こえた。
振り向くとそこには王宮で柱の影に隠れていた細身の眼鏡の男が光の輪に剣を突き刺していた。
男が光の輪から剣を引き抜くと国王から飛び出ていた剣は引っ込んでいく。
国王は止めどなく溢れる血を流しながら意識を失ってしまう。
「国王はもう用済みとなりましたので、始末させていただきました」
「始末? どういう事だ!」
男は多くは語らず、不気味な貼り付けたような笑みを浮かべるだけだった。そうしているうちに術が解けたのかレイラは意識を取り戻す。
「あれっ? 私……」
周りを見渡すと血塗れの国王が倒れていて、サアラと父の側近が対峙していた。
「お父さん!?」
レイラは国王に駆け寄り、意識を取り戻させようとゆする。
「お父さん! しっかりしてっ!」
男はそんなレイラを小馬鹿にするかの様にクスクスと笑った後、私の問いに答え出した。
「言った通りですよ。もう必要ない、それだけです」
一瞬男の作り笑顔が解け鋭い目つきになる。
「フム…まだ覚醒まで至っていないか…」
男は小声で何か言ったが聞き取れなかった。
「まあいいでしょう、それでは私は急いでいますので」
男が指を鳴らすと何もない所に大きな黒い穴が開き、その中に男は入っていく。
「っ!? まちやがれ!」
捕まえようと飛びかかる。しかし男が入っていった穴は男が入ると同時に跡形も無くなり、空を切るだけだった。
「くそっ! どうなってやがる!」
あの黒い穴には見覚えがあった。
それは家族を殺した男が使っていた物に似ていた。しかし男とは似ても似つかぬ顔に声だったのもあり、頭がこんがらがりそうだった。
頭を抱ていると叫び声に近い呼びかけで我に帰った。
「お父さん! お父さん!」
レイラは必死に国王を呼びかけ、意識を取り戻させようとゆする。すると願いが通じたのか国王は目を覚ました。
「レイラ――? レイラなのか……?」
「そうよ……! しっかりして!」
「目が見えないんだ……そこにいるのか……?」
「お父さん……!」
「すまない……こんな父親で……迷惑をかけた」
「いいの! 大丈夫だから……!」
レイラは倒れた国王の手を祈るように握りしめていた。しかし胸からおびただしい出血をしていて、素人目でも死期が近い事がわかった。
「レイラ……一緒にいたあの女性を呼んでくれないか……」
そう言い私の方を指差す。
私はゆっくりと近づき耳を傾ける。すると国王は気配を感じとったのか震える口を開いた。
「先はすまなかった……私は……どうかしていた」
相当苦しいのだろう。口から血を吹き、歯を時折食いしばりながら続ける。
「この義眼は男がくれた……。白髪で胸に大きな火傷をおっている男だ……」
「火傷の男!?」
その特徴はあの男に酷似していた。
嫌でも過去の事がフラッシュバックする。
なんとか怒りで爆発しそうな心を制御し国王を見つめる。
「ここから西に2日の砂漠を越えた先にある、アラワシュと言う街に行くんだ……!そこなら……」
国王がそう言った後、既に限界だったのか息は弱まりレイラを握っていた手は力を失っていく。
「お父さん!? お父さん!」
「す、ま……ない、レイ……ラ」
国王は目を瞑る瞬間一滴の涙を流した。そしてレイラの呼びかけは届かず、国王は事切れてしまった。
「お父さん! いやっ! いやあぁぁ!!」
大粒の涙が国王の亡骸へ落ち、叫びは虚しく響き、辺りを包んだ。
国王が力尽きた後、義眼に変化があった。その黄金の瞳は徐々に砂へと変化していく。そして砂はまるで居場所を求めるかの様に私の左腕に吸い込まれていった。
砂が完全に取り込まれると左目が何故か熱くなってきた。思わず目を押さえていると左目の前に瞳の形をした幻影が現れた。
ギョロギョロと動く幻影に理解が出来ず、凝視してみると、その瞳の先にぼやけた残像が映る空間が見えた。
不思議な事にその見えている空間で手を振ろうとすると手を振ろうとした先に既に手が見えた。
その不思議な感覚に数秒感戸惑っていると、また左目が熱くなり目を瞑る。すると幻影は消え、空間も見えなくなった。
「どうなってんだ…?」
街の上空。そこにはオペラグラスでサアラ達を見る箒に跨った女性が飛んでいた。
「ふ~ん。なるほどねぇ、興味深い……」
女性は右目かかった布をたくし上げ瞳を押さえる。その瞳は黄金色に輝いた様に見えた。
サアラ達は街の外れに来ていた。国王の死により衛兵や街の人の洗脳が解け、街がパニックになったからだった。私は泣きじゃくるレイラをラムジと共に引っ張って連れてきていた。
「うう……お父さん……」
「姫……」
レイラの悲しい気持ちは痛いほど理解出来た。まるで太陽が消えて無くなったかの様な感覚だ。
死んだ家族の事が頭をよぎる。私はいてもたってもいれずレイラの肩を掴んだ。
「レイラ……聞いて」
「うう……」
「レイラよく聞いて、悲しいだろうし叫びたい気持ちはわかる、でもいつかは乗り越えなきゃいけない」
「……」
「私も家族を殺されて……途方にくれて、いっそ死のうかと思った。でも死ぬ前にどうしても知りたかった、なんで家族が殺されなきゃいけなかったのか?だから私は生きて探すことにした。そして貴女のお父さんが手掛かりをくれたから私はそこへ行く」
「……」
「悩む暇はないはずよ。貴女にもきっとやらなきゃならない事があるはず。それを見つけて」
「……」
「それじゃ、私は行くからね」
サアラは国王に告げられた西の国アラワシュへと向かう。レイラはその背中をただ見つめていた。
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