5 魔眼 下

 傷ついた体を気にも止めず、白目の兵士達は私めがけて突撃する。だが流石に深傷を負っていた兵士達はろくな動きは出来ず、半分倒れ込む様だった。


 私は冷静に一人ずつ殴り飛ばし、起き上がってくる兵士にぶつけていった。しかしやはり普通の人なら立つことすら出来ないはずの怪我でも効果は薄く、兵士達はゆっくりと立ち上がった。




「くそっ! きりがねぇ!」




 なかなか国王まで辿りつけないまま、無限に起き上がる兵士達に苦戦していた。確かに殺すのは容易だが、人を左腕で全力で殴ろうとした時いつも家族の事がよぎる。まるで家族が私に人を殺させまいと止めている様だった。


 だから人は殺さないと誓った。それだけは譲らない。しかし国王はそれを見逃さなかった。




「どうした? 息が上がっているぞ?」




「ハァッハァッ、くそ!」




 国王はもはや見るまでもないとばかり、余裕の表情をみせつけ、門の方へとレイラを連れ歩いていく。




「待ちやがれ!」




 兵士を押し退け、飛びかかろうとしたが門から白目の兵士が大量になだれ込み、私を押し潰した。




「重……!? どけこの!!」




 もがいても流石にこの人数に覆いかぶさられていると身動きが出来ないし、息も出来ない。このままでは国王を逃してしまう。私は左腕にありったけの力を込めて大理石の床を叩いた。すると床は陥没したと思うとメキメキと崩れて下の階に轟音と共に落下した。


 苦し紛れの行動だったが、のっかっていた兵士は落下時にバラバラと散らばり何とか抜け出す事が出来た。




「ハァハァ……危なかった!」




 辺りを見渡し国王の姿を探した。しかしその場にはおらず、私は窓に駆け寄り下を見た。すると階段を降りてるのが見えた。




「待ちやがれ!」




 階段を駆け下りようとしたが廊下には兵士だらけで通れないし、落ちてきた兵士達も起き上がり始めた。


 このままだとさっきみたいに時間稼ぎをされてしまうことは明白だった。どうにか追いつく方法を考えた結果、私は窓に向かって走り、そして飛び降りた。


 飛び降りた高さは軽く命を奪える高さだ。ただ落下するだけだと本当に死んでしまう。力を込め左腕を漆喰で固められた壁へ突き刺した。そして腕を軸に大勢を立て直し、壁をえぐりながらゆっくりと降りた。








戦闘が始まる数分前――




「まったく散々でしたわ! もう呼ばれても来てやるもんですか!」




 荷造りを済ませ、ラクダに乗りこみながら愚痴を漏らすレヴィ。


城に唾でもかけてやろうかと思いながら、最後に城を見に来たその時だった。轟音と共に城の壁は破れ、大きな柱が瓦礫と共に降ってきた。




「えっ」




 急な出来事に固まり降ってくる瓦礫を見つめて死がよぎった。


条件反射で呪文が飛び出す。




「ブワテクト!!」




 その呪文を唱えるとレヴィを覆う様に緑の膜が張り、ボヨンと弾んだ。


 瓦礫が膜に触れると膜は波打ち、風船が弾む様に瓦礫を跳ね返し、レヴィには当たらなかった。




「あわわわ…! なんですの!?」




 ラクダから落ちて腰も抜けてしまった。何が起きたか理解するために思わず落ちてきた上を見上げると、するとそこには国王の後ろ姿があった。




「国王!? いったい何を?」




立たない足を落ち着かせながら暫く様子を見ていた。するとまた轟音と雲の様な煙と共にサアラが窓から飛び出し壁を下っていった。




「あの子……?」




 彼女には見覚えがあった。そう、街で買い物していた時にいたずらをしてきた子だ。


 目で追っていると黄金色に輝く左腕が見え、その腕で兵士を吹き飛ばしていた。まだ二十歳も来てない感じの子供が大人の衛兵をなぎ倒しているという衝撃映像を目の当たりにしてしまったが、なぜか目が左腕に釘付けになっていた。




「あの腕……」




 レヴィは何かある種、好奇心の様なものに駆られていた。立ち去っていくサアラ達を見失わないように、急いでオペラグラスを片手に箒に跨がる。すると吸い込むように周りの空気を取り込みレヴィを乗せた箒は上空へと上がっていった。








 国王は城の裏口から脱出していた。そして続々とアリの様に出てくる兵士に阻まれ、国王まで拳を届かせる事が出来ずにいた。


 数もそうだが倒しても無限に起き上がる兵士達が相手だけあって消耗戦に持ち込まれると勝機が無くなりかねない。故に早急に国王を叩く必要があった。


 街まで降りていた国王は何処かに向かっている様だった。しかし見る間もなく兵士は追いかけてくる。




「いたぞ!」




 兵士達は街に隠れながら追いかけていた私を見つけて、ここぞとばかり槍を投げてくる。何本も飛んでくる槍を全部躱すのは出来ず腕や足をかすめ、深傷にならないようにするのが精一杯だった。そして降ってきた槍に足を取られて、民家の扉にぶつかって突き破った。




「いったたた……」




 今にも兵士が乗り込んできそうで直ぐに立てって臨戦態勢をとろうとした時、散らばった扉の破片が見についた。


そうじゃん!何律儀に道を歩いてんだ!


 急いで建物の二階に上がり、窓から国王が向かっている方向を確認するとその方向の壁を思い切り左腕でブチ抜く。


 そして穴から次の建物へと飛び移り、ぶち抜きを繰り返し国王を猛スピードで追いかけた。

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