02 儀式

 城内へ入るとそこは規則正しく白い柱が並び立ち、真っ赤な絨毯が特徴の大きなフロアで、キラキラと光るシャンデリアの下で演奏家達が優雅な音楽を演奏しており、会場は着飾った招待客で賑わっていた。




 いったい何人がけなのか分からない机があり、そこには取れたて新鮮な果物にテカテカと肉汁が滴るターキー、彫刻の様に鳥が彫られた野菜、それにお上品に魚の切り身が乗った色とりどりのクラッカーが並べてあった。


 ここまで美味そうな物を見せつけられては食べるしかない。


 本当はターキーの足を思い切りかぶりつきたかったが何せ周りは気品溢れる方々ばかりで、かぶりついてる者などいなく、少し気が引けたが、食べたかった私はキョロキョロと食べ物の前で機会を伺い、つまみ食いしてもバレなさそうなクラッカーを一つ取った。




「もーらいっ」




 ゆっくりと頬張るとやはり高級な物なのか味はとてもまろやかで美味かった。思わず通り過ぎるフリをして思わず二個三個と口に運んだ。


 暫く堪能して指を吸っていると、奥で国王が招待客と話しているのを見つけて、はっとした。


 料理で満足して危うく目的を忘れる所だった。


招待客を縫う様に歩き、国王へと近づく。しかし時すでに遅し、国王は話を終え、衛兵がガードしている廊下の奥へひっ込んでしまった。


 私も追って廊下の奥へ進もうと試みるがやはり通路の前にいる衛兵に止められてしまう。




「申し訳ありません、ここから先は関係者以外立ち入り禁止です」




 流石にここで騒ぎを起こす訳にもいかず、渋々立ち去ろうとした時だった。会場の入り口の方で女性の激昂する声が聞こえてきた。




「わたくしを誰だと思ってるの! わたくしは魔導研究院のレヴィだと何度言えばいいの! こんな所まで招待しときながらなんで入れないの?!」




 怒りの限りまくし立てるレヴィを衛兵は物を見るような目で淡々と答えた。




「招待状をお持ちでない方は入城出来ません」




「だーから! 無くしたのよ!いいから入れなさい!」




衛兵が持っている棒を手で押さえ無理やり入ろうとするレヴィを衛兵は抱える様に抑えるが駄々を捏ねた子供の様にぎゃーぎゃーと暴れていた。


 見かねた衛兵は通路にいた衛兵に目配せして、今度はレヴィを6人がかりで持ち上げる。




「こら!どこ触ってるの! わたくしは魔導研究院のレヴィ! やめて!離して!」




レヴィは衛兵をペシペシと叩いて抵抗するが衛兵は気にも止めず門の方まで担いく。そしてノーガードになった通路へしめたとばかり私は廊下の奥へ進んだ。








 暗い人気の無い細い通路を虫の様にこそこそと歩いていく。


 進むと道は開け、中庭らしき所に出た。噴水が月明かりを反射し、優しく水面を弾き、キラキラとしぶきを上げている。そしてその近くではしっとりとした花に蝶が止まって羽を休めている幻想的な空間になっていた。


 国王の姿を探していると奥の扉に入っていく国王と眼鏡の男を発見した。


 壁に張り付きそっと覗き込む――。どうやら人は扉の向こうにしかいないようだ。


 ゆっくりと扉に近づき光が漏れている鍵穴を覗き込んだ。








 鍵穴の向こうに国王と眼鏡の男が並び、その前に抑えつけられている男が見えた。




「貴様はどうやら私に言いたい事があるらしいな? 」




国王は嘲笑し男に問う。




「貴様など王の器ではない! 貴様は他者を騙して成り上がったようだが私は騙されないぞ!」




 男は烈火の如く怒鳴る男に対し国王は鼻で笑った。




「なにがおかしい!?」




「貴様らにはほとほとうんざりする。器など必要ないのだよ」




「なんだと!?」




「必要なのは力だ」




合図を出すと衛兵は男の頭を掴み、顔を王の方へと顔を向けさせた。




「なにをする気だ!? やめろ! 離せ!」




国王の義眼はゆっくり開き、狙いを定め眩い光を放ち出し、光は増し部屋を覆い尽くす。


 暫くするとゆっくりと光が弱まり、目が慣れた頃には抑えられていた男は虚ろな目をしていた。




「問おう、王とは誰だ?」




義眼の男は問う。




「はい……貴方様です……」




正気を失った男はゆっくりと口を開く。




 国王は高笑いし、男は衛兵に引きずられ奥へと連れていかれた。


 何がどうなっているのか理解出来なかったがあの虚な目は見た事があった。そうだ、街の商人達と衛兵達と同じ目だ。そしてミケが言っていた「儀式」の話を思い出す。


 暫く覗いていると廊下の方から怒号が響く。




「そこにいるのは誰だ!」




「やべっ!!」




 扉から飛び退き、声の聞こえた方向とは反対に猛ダッシュする。


この先がどこに繋がっているかは分からないがとにかく捕まる訳にはいかない。




「侵入者だー! 侵入者だー!」




入り口の方から来た衛兵は次々と仲間を呼び、その屈強ながたいで追いかけて来るがこっちも足では負けていない。身軽さでは右に出るものはいないと自負している。


 衛兵達からどんどん距離を離す。しかし一本道の通路だったので振り切る事は出来なかった。


悩みながら走っていて、私は振り切る為に、角を曲がってすぐにあった一室の人気が無い部屋に一目散に逃げ込んだ。


 その部屋は食器が入った棚が並び調味料や食べ物の匂いが充満していた。


どうにかやり過ごす為、奥の棚の影に隠れる事にした。


息を潜めていると外からおびただしい衛兵の声と足音が聞こえてくる。


暫くすると衛兵が一人、キョロキョロと厨房を見渡しながら入ってきた。そして槍を握りしめ、私の隠れている棚の影へゆっくりと近づく。そして男の呼吸音が聞こえる距離まで近づきあと半歩で遭遇してしまうところで衛兵に声がかかる。




「侵入者はいたか?」




衛兵はその場で周りを見渡す。 




「いや、いない」




 衛兵は振り返りそのまま部屋を出て行った。足音も遠ざかっていき、辺りは静寂に包まれる。


危なかった。




「ふぅ~……」




 私はゆっくりと大きく息を吐き肩の力を抜く。


 棚の影から身を乗り出し身体中に付いた埃を落とす。


 いざ国王の元へと厨房から出ようとした時、後ろから何か落ちた音が聞こえる。不意を突かれた私は急いで臨戦態勢に入った。しかしそこには胡椒の入った木の瓶が転がっているだけで人はいなかった。




「なんだ……びっくりした」




小瓶を拾って机に置き、小さくため息をついて部屋を出ようと振り返ったその時だった。眼前に金属の板が広がり、ガンと大きな音が響き、ぐにゃりと私は地面へと倒れ意識を手放した。

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