03 姫

 気が付くとそこはごつごつとした石畳のかび臭い牢屋の中だった。垂れた蜘蛛の巣からは雫が落ち、どこからともなくネズミの鳴く声が聞こえる。私は痛む顔面を押さえながら状況を確認する為辺りを見渡した。すると牢屋の向こうには一人の四角い石の様な顔の大柄な衛兵とパレードの時に国王と一緒にいた、肌の白いプラチナブロンド髪の小柄な少女が立っていて手にはフライパンが握られている。


少女は私が気が付いたのを見ると息を飲んでじっと見た後、牢屋の前にある椅子へと腰をかける。




「貴女はだれ? どうして城に入ったの?」




「そういうあんたは?」




そう言いつつ無くなっているバックとローブを探すと衛兵の後ろの机に置かれているのがわかった。




少女は目を閉じ意志を固めたのか、一息置いて口を開く。




「私はレイラ、国王の娘よ」




 驚いた。国王の娘の直々の尋問だ。


これは千載一遇のチャンスだ。




「あんたの父さんに用がある! 今すぐ会わせろ!」




牢屋に飛びつく私を衛兵は持っていた棒で小突く。




「貴様! 無礼だぞ!」




「やめて、ラムジ」




ラムジは不服そうに棒を引っ込めて、今度は承知しないとばかり睨みつけてきた。


 レイラはため息をついて、こちらに優しく語りかけてくる。




「どうして、そんなに私のお父さんに会いたいの?」




 初対面の人に過去の事は言いたくなかったし最初は嘘をつこうと思った。しかしレイラの真っ直ぐな混じり気のない澄んだ海のような深く青い瞳を見て思った「これは嘘を言っても無駄だ」と。




「私の家族を殺した仇を探している。あんたのオヤジがその手掛かりになるかもしれないんだ」




レイラは怪訝そうな顔で尋ねた。




「どういうことなの?」




 自分の過去に起きた事、家族が惨殺された事を話した。


レイラは私の話を赤子を抱くように慎重に聞き、深く頷いた。




「そうだったのね……」




レイラは少し置いて視線を私の左腕に移した。




「その腕、なんだかお父さんのに似てる……」




「どういう意味?」




「お父さんは元々目が不自由だったし、私達家族は下層の民で貧乏で大変だったの。だけどある日お父さんがあの義眼を手に入れてから変わったの」




レイラは悲しそうな顔で続ける。




「最初は喜んだわ。お父さんは何故か目が見えるようになって、どんどん元気になって、出世だってしたわ。だけど…それから父さんも街の皆もおかしくなっていったの」




その話を聞いてさっき見た事を思い出し呟く。




「さっきの儀式……」




「儀式?」




私は見た事をレイラに話した。それを聞いたレイラは手で口を覆い、ショックのせいか目を泳がせている。




「そんな……」




 目じりに涙を溜めるレイラをラムジは優しく支える。




「姫……」




 それから暫く経ち、レイラは涙で濡れていた顔を拭い、決心したような強いまなざしで口を開く。




「いいわ。お父さんに会わせてあげる。でもその代わり条件があるわ」




「条件?」




「お父さんの義眼を奪ってほしいの」




「奪う? なんで?」




「言った通り義眼をつけてからお父さんは人が変わってしまったの。だからあの義眼さえ無ければお父さんは元に戻るんじゃないかって思うの」




 プルプルと手を震わせ、かなり無理をしているのが私でもわかった。




「わかったよ、私に任せて」




 レイラはほっとした表情で近づき、ラムジに牢屋を開けるように命じる。




「レイラ姫! お気は確かですか!?」




「ラムジ! 開けてあげて。もう決めたの」




「しかし!」




「決めたの」




「っ!! 」




 レイラの真っ直ぐな瞳を見たラムジは深くため息をつき、牢屋を開けた。




 私は牢屋から出てまず背伸びをし、装備を付け直した。




「こっちよ。来て」




 それを見届けたレイラは監禁部屋から私を導く。




「あまり姫様に近づくな!」




私がレイラの後ろについていこうとするとラムジは間に割って入った。

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