第13話 ここからずっと俺たちのターン!

普段はあんだけ強気で、さんざん人のことを馬鹿にするクレティアだが、今回ばかりはどうすることもできないようで。大人しく体を弄られ、どんどんエロティックになっていって。

 ただでさえ毎日毎日顔だけは可愛くてどきっとする事もあるのに、そんな恥じらいなんて新たな一面見せられちゃ。一瞬だけ俺に迷いが生じる。でもすぐに断ち切って、急いで助け舟を。

「クレティア!お前の範囲系呪文で眠らせろ!」

「えぇいまどろっこしいのぉ!おいキリルンども!あそこにも美女がおるぞ!!」

 この状況で絶対やってはいけない、仲間を売ると言う行為。あのクソジジイは、それを平然とやってのけやがった。

 勢いよく指を突き出し、クレティアが指したその際。キリルンの視線が吸い寄せられる。ほんのすこしだけ、時が止まった気さえした。

 そうして哀れな美少女。もどきのハージュが、その対象が自分だと気付いた時にはもう時すでに遅く。

 クレティアに群がっていたキリルンの半分くらいが、一斉にハージュに襲いかかる。まずすばしっこい奴が足元に滑り込み、ロールの中に侵入。そしてハージュが戸惑う内にひときわテクニックを持った奴が要所を責める。そうして完全に隙ができた瞬間に、もうハージュはキリルンで見えなくなっていた。

 いいのか?それは確かに可愛くて行儀も良くて素行も優秀、おまけに匂いも声も最高な奴だが、野郎だぞ。まぁ、もちろん初見じゃわからないのだけれども。かく言う俺も、トイレで鉢会うたびに違和感覚えずにはいられないのだけど。

「なっ、なんで僕までー!」

 ガードステップを使っても、内側に入られちゃ逆効果。それに詠唱の時間も与えないほどに、彼らの連携は完璧だ。

 一人取り残された俺。もちろん寄ってくる気配はなし。その間もクレティアとハージュは襲われ続けていて、なんだかとても気まずい空気というやつを俺は知ったのだった。っじゃなくて!ちげぇちげぇ!ぼーっとしてたけど、これ一応失敗したら違約金あるクエストなんだ!

「まってろハージュ!写真撮ったら助けるから!」

「ひゃぁんっ!え!?ちょっと待ってください!せっかくなら二人で撮りましょ!チェキですよ、チェキ!」

「スバルぅ!今日の晩飯おごるから!なんなら一緒に風呂入ってやる!じゃから早く!」

「っしゃぁいくぜ!でもそれはいらん!」

【五次元袋】に手を突っ込んで、当たったものを引き抜く。取り出したのは【ゲイ♂ボルグ】。上等だよ!これで二人の間を穿てば、瀕死のやつが続出するだろ!

 しっかりと手に握り、全身のバネを使って全力投球ーーーーその瞬間、誰かに背中を叩かれた。

 何かと思って振り向くと、そこには一匹のキリルンが。しかもこいつはやけにイケメン風な顔をして、俺のケツを軽く叩きやがった。そして肩を組むようなポーズをとり、上目遣いで俺をそっと見て。

「お前はなんなんだよぉぉっ!」

 だめだこの変態文字集団!守備範囲が広すぎる!

 通常は女性に限り、限定で男の娘も可。しかもさらに稀有な例として、BがLするのもアリらしい。こいつぁとんだど変態だよ。いやまじで!

 背筋から悪寒が走り、大臀筋が縮小を。危機感を覚えて後ずさる。だが付いて来やがった。こいつ、本物か!?

 なんとか貞操を守ろうと、たった一匹の小さなモンスターから逃げ回る俺。クレティアは艶っぽい声を漏らしながら、汗が体を伝っている。何されてるんだよ!難易度高すぎだよ、キリルン捕獲!

 一方ほとんど声もなく抵抗しているハージュを見ると、本気で心配になったりもして。くそっ!一番チートな俺が、こんなんでどうすんだよ!

 もう厭わない。てめぇのケツがどうなろうと。名残惜しいが、俺ぁこの馬鹿二人助ける義務があるんじゃこんちくしょぉぉ!!

「あとで食ってやるからなてめぇら!」

 そう言って立ち止まり、気合いを持って後ろを振り返る。【五次元袋】に手を突っ込んだ状態で。もう手には、新たな神器を掴んだ状態で。

「こいっ!【十夜鐘】!」

 少し重いその神鉄の塊を、勢いよく放り出す。禍々しい鈍色に煌めくそれは、目下にいたキリルンをその檻体に閉じ込めた。

 神檻【十夜鐘とおやしょう】、普段ルービックキューブ程度しかないその檻は、触れたもの全てをその身に投獄する。内側から出る方法はなし。さらに中にどれだけ入獄させてもサイズが変わらない優れもの。

 これで捕獲はできる。あとは気絶させて、あいつらの体からひっぺがすだけ。ビジョンは見えた。次に選ぶのは決まっている。

「ハージュ、クレティア!息止めろ!」

 もうこれしかない。俺が取り出したのは【風神扇】。一閃だけ振り切って、竜巻起こして失神させる。

 何度もやってきたその仕草。これとゴッドカリバーが、今の所一番使ってるな。手の角度は四十五度に。空気の塊を押し出すように、全力をもってスイングを!

 神の力が込められた扇によって扇がれた風は、周りの空気をどんどん巻き込んで、やがて一つの竜巻へ。そして二人の方まで進んでいき、爆流となって軽いキリルンたちを大気へと押し上げた。

「ふわぁっ!ふわわわ!」

「こ、これ一応スカートなんじゃぞぉ!?」

 そして当然、風があれば布なんてちんけなもんは舞い上がるわけで。ハージュは魔法の巡りを良くするために、実はローブの下はかなり薄着だ。白くほっそりとした足が露わに。

 そしてクレティア。こいつも表面上は女で通っているので、実は意外に下着を見られるのは恥ずかしかったりするらしく。女の魔法使い用ってのは、ハージュみたく特注じゃない限り全部ミニスカなのが主流で。

 そう。俺の目の前には、別の意味での天国が広がっていた。

 やがて風が収まると、中心はすっかり静かになっていた。巣の中で待機しているキリルンも出てくるのが怖いのか、息を潜めて気配を殺してやがる。

 台風の目のように、クレティアとハージュを中心に草がミステリーサークルを描いている。はあはあと疲れた息をこぼしながら、肩を貸し合いながら起き上がった。

「……大丈夫か?」

「…………穢されました。うぅ……」

「わし……なんか変な気分じゃ」

「まぁ、気にすんなよ。俺は楽しかったぞ?」

「あぁ……そうですか」

「よかったの……」

 おうおうおう。こいつぁなかなかデケェダメージじゃないですかい。こんなに疲れ切った二人を見るのは初めてだ。

 どうにも体力を使い切ってしまったよう。まぁ、うん。仕方ないな。おう。そういう事にしとこう。ほら、肩貸してやるからさ。とっとと帰ろうぜ?あんまこんなとこいると、また襲われるぞ?

 あの巣穴の中には、俺を狙ってきたような特殊キリルンもいるんだろうか。まじ怖いな。なんか、ついついお尻に力が入ってしまう。

 ようやく死地から戻ってきた二人を適当に励ましつつ、とぼとぼと帰路についた。捕まえたキリルンの数はおよそ300くらいだろうか。単価じゃなくて単語での支払いだったから、結構いい値がつくんじゃないか。

「……今夜奢ってやるからさ」

「………………それじゃ僕王都産のナポレオンで。今夜はぐっくり寝たいです」

「わしは質より量じゃな……」

 ここでいつもの俺なら、工業用アルコールでも呑んでろ!って言うんだろう。ってか言いそうになった。けどまぁ、今回はこいつが囮役をやったからここまでスムーズにいったわけで。だからあんま蔑ろにできないと言うか。

 っておい、ハージュ!てめぇそれ、ギルドで一番高い酒じゃねえか!報酬三人で分けたら、俺の分全部吹っ飛ぶくらいの値段だぞ。いやまて。ここでハージュからの好感度を上げておけば、今後の活動をやりやすくなるのでは。投資か?これは投資なのか?

 そんなこんなで城下に入り、向かうは我らがギルド。どこから話を聞きつけたのか、もうそこには仕事終わりの荒くれ野郎どもが大量に集まっていた。狙いはもちろん、

「おおっ!帰ってきたかお前ら!どうだ?大量か?」

「その様子じゃ、かなり頑張ったみたいねぇん。期待だわ!」

「あ、三人ともおかえりなさーい。どうでした?」

 帰ってくるや否や、こいつらは俺たちが必死の思いでとってきたキリルンを狙いやがった。まぁいいんだけどさ。仕事だし。

 元気が戻りつつあった二人を机に放り投げ、フィルさんにクエストの報告を。どうやら今までこんな大漁は無かったらしく、そのぶん色をつけてもらえた。ようやく俺の財布も潤ってきたな。まぁ、多分ここから一瞬で溶けるんだろうけど。

 もうすっかり暗くなった空。今日も異世界は、やかましい日常を運んできた。

 まず最初はガディだった。つまみがあるんなら、一杯やんなきゃいけねぇだろ!そんな事を言って、一人でボトルを空けたのがきっかけ。いい時間で腹も減って、おまけに指定よりもキリルンが多かったからあまりがでて。そんでフィルがバターと塩で炒め物なんかした日には、みんなの胃袋が叫ぶのも納得がいくというもの。

「ハラショーだ!」

「あぁ!こいつぁハラショーだぜ!」

「んまぁ、オチハラショーね!」

 どいつもこいつもハラショーハラショー雄叫びをあげながら、キリルンの炒め物を頬張っていた。中には女の冒険者の姿も見えるのだが、彼女はまるで恨みでもあるかのごとく頭から齧っていた。うん。わかるよ。いけると思うよな。弱いし。

 一方俺たちは、何も頼まずにギルドの隅。そんなおり、フィルさんが湯気の立ち込めるキリルンの皿を持ってきた。

「どう?味はみんなからの保障付き。お代は私持ちよ。あなたたちのおかげで、今日も一儲けできそうだし」

 そうかそうか。景気還元か。なるほど経済の循環には必要だな。

 俺らの目の前に、こんがりきつね色に焼かれたキリルンのバター炒めがでてきた。ほかほかと湯気がたち、息を吸うだけで香ばしい匂いが鼻をつく。腹が鳴った。胃が蠕動しだす。キリルンの顔が頭をよぎった。

 皿の上には、キリル文字でナグラーダの綴りが。ご褒美ってか。悪くない。キリルンの顔が頭をよぎった。

 目を見合わせる。三人で。そんでお互いにうなずきあう。キリルンの顔が頭をよぎった。だから、口を揃えて言ってやったさ。

「「「いらね」」」

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