第7話 新たな仲間は女の子?

「……はぁん?なんでお前こんなレベルなんじゃ?」

「さ、さぁ。なんでだろうなぁ〜」

 朝一番のギルド内にて、受け付け係をしていたクレティアさんから、俺は尋問にも等しい取り調べを受けていた。なんでかって?それは俺のレベルが、昨日一日で4まで上がってたからさ。まぁ、多分アレだろうな。城壁の上から魔物撃って遊んだ、あれ。

 普通だと最低一週間はかかるらしいレベルアップを、一日でこんだけやってしまった俺。だからクレティアから疑惑の目を向けられるのは案外当たり前のことで。だから今朝からクエストに出るどころか、この職員用休憩室から一歩も出してもらえなくて。

「まあ、そんな怒んなよ?ほら、俺だって人助けをだな。あ、そうだ!森の中で魔物に襲われた人がいたから助けたんだよ!そう言うことに……な?」

 なんとか不正を誤魔化そうと必死にもなる。没収されたらどうなんの?また俺壁の上から花火打ち上げんの?マジ?!

「はぁん?カスみたいな言い訳しおって。貴様それでも小説家(笑い)か!」

 あ、だめだこれ。説得どころじゃねぇ。神様律儀すぎる。さすが規律を作っただけある。けどねぇ!

「あぁん!てめぇが何言おうと、レベルアップしたのは事実ですからぁ?いいから早よクエストよこさんかい!こちとら最強の勇者様だぞごるぁ!!」

 醜い罵り合いは続いて、周りにいた冒険者たちにまで笑われる始末。まだこっちにきて二日目だと言うのに、もうすっかり俺とクレティアの喧嘩は風物詩になりつつあった。

 心配そうな顔もせずに、淡々と仕事をこなすフィルさん。時折こっちを見てくすくす笑顔を見せてくれた。あぁ、あなただけが私の天使です。目の前のジジイもどきに爪の垢を煎じて飲ませたいくらい。

「はいこれキレちゃいましたよぉ!女神様怒らせて知らねぇからなクソガキぃ!おいコラフィル!樽もってこい樽!」

「上等だよ見せかけ肉印!てめぇは牛丼でも食ってろ!」

 なんやかんやで話は盛り上がり、なぜだか真昼間から飲む事にまで発展しかけていた。あれ?これ俺ら超バカじゃね?でもみんなノってね?まじか。これもう、取り返しつかない感じ?

 運ばれてきた樽を見て戦慄する俺。あんなの一気したら、間違いなく一日はぶっ倒れる。ただでさえ昨日のがまだ抜けきってないのに。そんなの呑んだら死んじゃうよ!やっちまった!

 そんな俺の心の叫びなんて知るはずもなく。クレティアは仕事中だと言うのに、もう樽をぶち破ろうとしていた。待て早まるな!それの料金は誰持ちだ?!

 周りで見てるやつに、止めてくれそうなのなど一人もいなく。むしろあいつら嗤ってやがる!俺が二日酔いで辛いの知ってて、そんでげらげら嘲笑してやがる。ゴッドカリバー抜いてやろうか?

 朝だというのに、もうギルド内はすっかり沸き立っていた。誰か、沸騰石を投入できる冒険者様はいませんか?そうだ。こんな時こそガディに……。だめだ。あいつも笑ってる一員だよ。つーかなんかあいつの席に金集まってねぇか?おいこら。賭けてるだろてめぇ。俺の取り分は四割だからな。

 腐った野郎と、ろくでもない女。憎めない奴らから煽られたら、俺もその気になってしまいそうだった。でもそんな時、俺は見た。むしろ、椅子に立っていた俺だからこそ見えたのかもしれない。

 その人はギルドの扉を開けると同時に俺と目を合わせ、わたわたしながら小さな身体を野郎どもの間にねじ込んで。そうして俺の前までやってくると、恥ずかしそうに顔を赤らめながら、それでも全力で声を振り絞った。

「あ、あの!ホシミネ・スバルさんっ!」

 予想外のその名前。小さな身体の、言うなればロリっ子から出てきた名前に、俺を含むギルド内のメンバー誰もが面食らったように静まり返る。そしてそれが彼女にとっては予想外だったらしく、もう一段階頰の赤さを増しながらうつむき気味に。

「……は、はい」

 こんな風に元気に名前を呼ばれるのなんて、小学校の卒業式以来だ。だからつい、俺も戸惑ってしまった。でも返事だけはしたよ。偉い。これでコミュ障から脱却だよな。

 荒くれ野郎や気の強い女。そいつらの視線を独り占めする女の子。よく見ると、彼女は冒険者の格好をしていた。安そうなローブに、重さより機動力重視な小手。格闘家かなんかだろうか。とても恥ずかしがって俯く彼女は、耳まで真っ赤だった。

「……あ、あの、パーティー募集の張り紙を見て、それで来たんです。……一緒にクエスト行ってもらえませんか?」

 おぉっ!脳に電撃が走ったってのは、多分こんな感じなんだろうな。なんかビビッときて、その後に高揚感が全身を包むのを感じたよ。

 彼女の目的がパーティーだと知るや否や、さっきまで黙っていた冒険者たちは各々の席に戻っていった。自然と俺とクレティアの言い合いも終了し、何秒後かにはいつもの喧しいギルドに戻る。

 とは言え、戻ったのは他の奴らだけだ。肝心の俺はと言うと、せっかくのお誘いに何を返していいか黙って考えていた。これはあれか?いわゆる異世界のナンパか?すまんな勇気を出したロリっ子よ。お兄ちゃん、慣れてなくて沈黙しか返せないんだ。

 健気に頭を下げられては何か返事しなきゃいけないのに。おいこらてめぇら、俺をそんな目で見るんじゃねぇ。何もしてないから。そんな犯罪者を蔑むような風にガン飛ばさないでくれよ。

 助けを求めてクレティアを見る。こいつも俺をゴミムシ見るような眼で見てやがった。やめろ。通報の準備してんじゃねぇ。

「あ、えっと、ほんとに俺?えっと、君も初心者的な……あれですか?」

 どれだよ!自分の中で自分に突っ込んじゃったわ。なんなのこの幸運。よく見ると、この子かなり可愛いよな。クレティアとはまた違った、小ささ故の愛らしさと言うか。

 顔は小さく、でも目は大きくて。ぱっちりした蒼の瞳が俺を見つめていた。フードから溢れるさらさらとした黒髪に、控えめな身体つき。そして極め付けは、このおどおどした態度。金髪じゃないのが少しばかり残念だが、こりゃ最高の逸材だぜよ。

「は、はい。えっと……昨日たまたまスバルさん見かけて、それで一緒に行きたいなーって。この街、レベル低い人少ないから……」

 目を合わせるのが恥ずかしいのか、もじもじとタイルを見ながら話すロリ。正直俺に断る理由はない。それよりも歓迎だ。と言うかありがたい。俺も今、このクソジジイと不正レベル上げに関して話してた所だからな。人がいれば問題ないだろ。

 だがクレティアは、俺が幸せになることなど許すはずがない。こういう時に全部ぶっ壊そうとしてくるから、こいつはクソ神なんですよ!

「いいのか?こいつもう、レベル4じゃぞ?」

「え……」

「見たところ、お主はまだ1のようじゃからのー。はてさて、この冷徹鬼いちゃんが乗ってくれるかどうか……」

 こ、こいつ!やっぱりブッ込んできやがったな。

 ごめんなさいと謝るロリ。こらこら、そんなしゅんとしないでくれ。なんかこっちが罪悪感でいっぱいになるから。ほら、飴ちゃんあげるからさ。

 この街じゃ低レベルの奴らは群れで行動しなければならないらしい。そんな事を今朝方にクレティアが言っていた。じゃないと、すぐに上級の奴らに仕事を食われるのだとか。弱肉強食のイメージが強い冒険者稼業だから仕方ないっちゃ仕方ないが、そんなのにはいそうですかと賛成できる俺じゃない。

 頭を下げてギルドを去ろうとするロリのフードを掴む。ここで断っちゃ男がすたるってもんよ。いやぁ、いつからこんなキザな事するようになったんだろうか。

「クレティアさんや、大至急壁外クエストを用意してくれ。報酬は二人分で」

 俺の言葉に、観衆どもが沸き立った。いやぁ、気持ちいいな。悪者を裁いた正義の人の気分だよ。

 見るとロリっ子は満面の笑顔になっていて。でも俺と目が合うや否や、すぐまた逸らしてしまって。あぁんもう。可愛いなちくしょう。小さくて仕草まで可愛いとか。異世界ロリメイドの基準全部満たしてるじゃんかよ。

「……ロリコンが」

 ボソッととんでもない言葉を残して、ボードから適当なクエストを選ぶクレティア。別にロリじゃねぇし。ただちょっと、俺のハーレム計画来たんじゃねコレって思っただけだし。

 バカ神が俺らに適切だと思われるクエストを見つける間に、この少女との交流を深めておこう。これからパーティーを組むとなれば、せめてまともに会話くらいできるようにならなければ。

 フィルさんに頼んで二人ぶんのジュースをもらい、カウンターに腰掛ける。ちょっと高い席にかける時の、よっこいしょという掛け声がまたこれ。俺の父性を刺激するんだこれ。

「えっと……」

 でも、何すりゃいいのこれ。思い起こせばこの人生十七年、喋った年下女子なんて部活の後輩(地雷)と妹しかねぇぞ。普通は何話すんだ?

 向こうから話題を振ってくれるかな。そんな淡い期待はあっさり打ち砕かれた。どっちもが互いの出方を伺って、結局喋れないという泥沼に。さっきの大声はなんだったの?

 助けを求めるように、俺はカウンターで酒を作るフィルさんに目線を向けた。肌でそれを感じ取ったフィルさん。さすがだよな。できる女はここが違う。

「とりあえず、自己紹介からじゃない?クエスト行くなら、お互いの武器とか戦闘スタイルとかも事前に確認しとくといいよ」

「なるなる。せんきゅーなフィルさん」

「なんで私はそんなフラットに……?」

 なんでって、そりゃあんたはクレティアの同僚という安心感があるからですよ。見た目も優しそうだしね。

 言われた通りにやってみよう。改めて仮称ロリの方を向き、今度は俺が勇気を出す版だ。

「えっと、まぁ、知ってると思うけど、スバルです。武器とかは短剣で、前衛かな」

 てっきり俺の自己紹介なんてスルーされると踏んでいた。恥ずかしがられて、また下を向いて終わりだとばかり。

 でもロリは俺が話している間、ずっと俺の目を見てきていた。なんだこいつ。俺のファンか何かか?いつだ?まだここきて二日目だぞ?どんなカリスマだよ。

 俺の番が終われば、自然と目線はロリっ子に。怖気付く様子もなく話し出す。さっきのはなんやったねん。

「ハージュです。魔法と手甲使ってて、中近距離がメイン……かな」

「魔法使いで前衛?サポートじゃなくて?」

「私、肉体強化と効果付随の魔法しかできないんです。だから後ろにいても、何もすることなくて……」

「あぁ。さよか」

 これはなかなか珍しいタイプだな。武闘派魔術師か。……ありだな。

 普通のばり前衛キャラなら、俺みたいなチート武器を持ってるとかを除けば間違いなく強靭な肉体が必要になる。それはどいつにも言えることで、その実、このギルド内にいる女戦士が示すようにその肉体は筋肉で守られている。つまりは腹筋までムキムキで、女の子特有の柔らかさを感じられないということだ。

 だがその点ハージュならどうだ!可愛いし、ゴツくないし、多分柔らかいし!それでいて前衛なんだぜ?最高だろ。

「一日で3もレベルアップ。さすがです!」

「う、えぇ……。せ、せんきゅー」

 お天道さんに顔向けできるような方法じゃない狩り方をした経験値。褒められたら褒められたで、俺の中に後ろめたさが生まれていた。

 それを払拭するかのごとく、なみなみと注がれていたジュースを一口で完飲。するとクレティアが、やけに得意げな顔して紙を持ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る