第4話 狂騒、競争、強壮だ!

「んじゃ、私報告と手続きしとくから。お前はここで待ってろ」

 一人ギルドの扉の前に置いてかれ、さっさと中に入るクレティア。常連らしいお客さんと二言三言話してから、奥の方へと消えていった。

 取り残されちゃった俺。どうすりゃいいの?まぁ、手続きとか言ってたから、きっと俺のぶんのカード的なやつを用意してくれるのだろう。だって俺がいりゃ安泰だもんね。世界簡単に救えちゃうもんね。

 ほらほら、見ろよあそこの人の刀。何十キロあるか知らんけど、きっと相当に鍛錬と実践を組み合わせたんだろう。なんか、輝きが違う気がする。まぁ、俺の《ゴッド・カリバー》にゃ勝てんけど。

 と言うか、まずそもそもギルドに登録すること自体が謎だった。これはアレだろ?弱い奴が死なないために、協力してパーティーとか組むやつだろ。なら俺いらないじゃん。野良やってればいいじゃん。だって神器だよ、神器。

 けどまぁ、一番最初は金稼ぎからだよな。幸い言葉は通じるっぽいし、日雇いのモンスターハントなら結構簡単にイケるんじゃね?いや、異世界と言って外せないのはやはり金髪ロリメイド。別に年下好きじゃないし、メイドも欲しくないけど。うん。なんかそれっぽい。

 などなど俺がどうでもいいことを考えていると、ふいに隣にでっかい男が。

「にいちゃん見ない顔だな?新入りか?」

「えぇ。今日来たばっかで」

「そうか……。俺ぁガディってんだ。縁があったら、一緒にクエストいこうや。死ぬなよ。じゃあな!」

 怒涛の勢いで言いたいことを言い残し、ガディと名乗る大柄のおっさんはギルドの中に。ありゃ戦士だな。間違いない。今もきっと、モンスターの大群に一人で向かっていった帰りなのだろう。斧赤いし。

 そう思っていると、

「あらガディさん。またお花摘みのクエストですか?まぁ、キレイなバラ。いつもありがとうございますー」

「あぁ。花屋はやっぱ自分で摘みに行かねえとな。がぁっはっはぁ!」

 はぁん!?

 冒険者じゃねぇのかよ!お前誰よりも戦士してんじゃん!身体が戦いを物語ってるじゃん!なんなのそのごつい鉄の鎧!その赤く染まった斧!切ったの?薔薇切るのに使ったの?!

 意外だった。世界は広かった。スバルはまた、新しい世界を一つ知ったのだった……。

「……何見とるんじゃお前」

「……あん?」

 脇腹を突いてきたので誰かと思えば、これはこれは偽りのクレティアさま。私は今、世界の広さを垣間見たのですよ?

「……あぁ。ガディか。わしも初見は驚いた。けどまぁ、割といいやつじゃぞ。わしによく花をくれるし。薔薇ばっかなのがたまに傷なんじゃが……。まぁ、貰えるからもらうけど」

「花言葉を知ってるか?つか、別に薔薇でもいいのか。……いいのか?」

 いいのか?確かにいろいろ薔薇で間違っちゃいないけども。いやまて。そもそも神に性別はあるのか?きになる。見たい!見せろ!

 ヤバイヤバイ。犯罪思考に陥りそうな自分に喝を入れ、平静を装いじじいの方を。

「いいからはよこんかい。名前書いて血印押すだけだから。痛くないから。先っちょだけだから。おう」

「それお前のセリフじゃねぇ!つかその顔でそんなこと言うなよ……」

 あいも変わらず残念な神様を心の中で憐れみながら、カウンターで書類を書く。読めん。やばい。一単語すらしらねぇ。つかこんな文体知らん。

 なんとかクレティアに教えてもらいつつ、他の受付嬢と喋りつつ完遂させる。うん。こいつぁ汚ねぇ字面だ。インクが腐ってやがる。

 ともあれできたと言うことで、俺にはナイフが渡された。後はこれで指切って、血の判を押せば契約完了。勝手に更新されるから、見たいときに見に来ればいいのだそう。うん。わかった。

 理解した。でも、はぁ?だった。

「……切るの?」

「切りますよ」

「まじ?」

「はよ」

 こ、こいつ、人ごとだと思いやがって!人生十七年、激しい喧嘩もリスカもしたことない俺にとって、指切って血ぃ流せはハードルが高かった。そして何より怖かった。痛いの嫌だよ!さっき痛くない言うたやん!騙したなくそじじい!

 俺のあまりのチキっぷりに、だんだん本性が現れ出すクレティア。こいつ、これで本当にこれまでよく生きてこれたな。不思議でならん。

「なむっ!」

 はい切った!痛った!あー、これはあの感覚だ。調理実習で、間違えて包丁でやっちゃった時の感覚だ。でもやったよ、俺。偉いよ、俺。

「……神の前で仏に誓うとは……、いい度胸だな小僧」

 いよいよ隠す気もなくなったのか。やはり愚神なのは間違いないようだな。へん。

「いいから。ほれ。出来たぞ」

「初めからちゃっちゃとやってれば……」

 クレティアはぶつくさぶつくさ文句を言いながら、ギルド登録用紙を裏に持ってった。盛大なため息をつき、俺はカウンターで項垂れた。疲れた。なんだろ。すげぇ身体がだるいや。

「スバルさん……ですよね。お疲れ様です」

「……ホントですよ。クレティアさんって、いつもあんな感じですか?」

 ちょうどいい機会だ。きっと同じ受付の人なら、普段のあいつ知ってんだろ。今のうちに黒歴史でも聞いてみるか。

「そうですね……。あそこまでテンションが高いのをみるのは、私も久しぶりです。昔からのお知り合いとかなんですか?」

 どうなんだろう。あいつにとっては、俺と出会ってから十七年も。でも俺からしたら、まだ一日かないしは二日くらい。とても昔馴染みなんて言えない。

「……まぁ、そんなとこですかね。花畑でばったり出会っちゃって、それでこの国に」

「あぁ〜。いいですね〜。運命の再会ってやつですか。いいなー。私そうゆう人いないんですよ」

「えっと……、フィルさんはこの国の出で?」

「そうですねー。このギルド創設者の娘でして。もうずっと、ここにいるんですよー」

 あははーと笑い、うふふー、と返される。やべえこれ。楽しくね。冒険者超楽しいんですけど!俺、超ちょろいんですけど!ネームプレート胸に刺してあることに超感謝!

 たった何分か喋っただけで、その人のことが気になり始める。ダメだった。俺は典型的なクラスの端にいるやつだった。

 もっと話してーなー。そう思ってたら、なぜだかクレティアが戻ってきやがった。手には鍵を携えて、不思議なくらいにこにこになって。

「すーばるー!あんた住むとこないでしょ?今日から私の部屋来なよー!」

「はぁっ?!」

 こ、こいつ何言ってやがる!あ、やべえ。フィルさん気ぃ使って別の方向いてるよ!吹けてないのに口笛吹いてるよ!

 そして、俺の懸念はもう一つあった。どちらかと言うと、こっちの方が深刻そうな。そう。クレティアは中身こそアレだが、外見は完璧なのだ。だから予想はできていた。きっと人気があるだろうな、と。

「あぁっ!?新人てめぇ、クレティアさんに何しやがった」

「下ろすぞ若白髪!俺は調理師やってんだ!」

「催眠術だよな?そうだよな?あぁん!」

 あいつがあんなことを大声で言ったものだから、随分と店内は湧いてしまっていた。それはもう。俺がこのまま山に埋められるのではないかと言うほどに。

 人々が詰め寄る中、ちらりとクレティアの顔を。あ、こいつ笑ってやがる。俺が困るの分かっててやった顔してやがる。

 うわ、腹立つ表情しやがって。なんだそのやり遂げたって顔は。あ、あれか!十七年も置いといたことか?だってしらねぇもん!ねぇ!謝るからなんとかしてクレティアさぁん!

 後ろの方では、すでに俺を処分する算段が整えられつつあった。俺をおびき出すやつ、スコップを持って来るやつ、掘るやつ。最後の掘るやつに関しては、別のところを掘られそうだった。なんだか危ない匂いがした。彼は大人だった。

「ち、違う!俺は普通の冒険者だから!好きなのは綾瀬はるかだから!」

 知ってるわけない知識をぶち込み、強引に事態の沈静化を。ちょっとばかり渋かったかな。元の世界で言ったら、うん。なんか察した顔してくれそうだ。あいつらなら。

「ほんとか?えぇ?スバルさんよぉ」

「おーい、一旦鉈しまえってよー」

「あらぁん。残念ねぇ」

 おい!最後!お前口調までそれっぽいじゃねぇか!やめてよマジで!

 まだ街に来て一時間と経ってないのに、もう随分と俺は人気者だった。だってこんな人に囲まれてるんだぜ。ギルドにいる野郎らは多分、全員俺の胸ぐら掴もうとしてんだぜ?

「まぁ、そんなわけじゃからの。すまんな」

 はいはい終わりと手を叩き、クレティアはその場を支配した。

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