第3話 異世界といえばギルドだよなぁ!
「つかさ、お前俺の時またかって言ってたよな?もしかして前にも何回かやってんの?」
中世ヨーロッパ風の、いかにもな異世界を歩きながら、俺はじじいーーもといクレティアに質問をしていた。どこでどう道を間違えたのか、あの白髪ヒゲじじいが、今では立派な銀髪美少女になっているのである。
「あぁ。だってミスったんじゃもん。仕方ないよね」
そこら辺にある花を、いかにも美少女といったように愛でながら。さらっとジジイは驚愕の事実を言いやがった。こいつ、正気か?
悪びれる様子もなく、クレティアは街に足を向ける。ってか、まぁ、神様だから文句は言えんのだけど。それでも、うん。世界って理不尽!
綺麗な空気の中を、燦々と降り注ぐ陽を浴びながら歩く。フィンランドか、そこらへんの景色みたいだ。テレビで見たことある。そのくらい神秘的。
隣を歩いているのは、間違いない美少女だ。何歳くらいだろう。十七、八くらい?あっちとこっちじゃ時の流れが違うんだろう。
あのじじいがこれに。その事実に動揺は治ってないが、なんとか顔を見れるくらいには慣れていた。へんな気を起こすなよ、俺。そう、これは試練だ。試練なんだ!
五次元袋をぎゅっと握りしめ、固く心に誓った日。すれ違う冒険者っぽい人が、口々に挨拶を告げてきた。なんなの?こいつそんな人気なの?
「……何でお前こんなとこまで来てたの?」
「花の採取のクエストでな。わしのレベルでもいけそうだったし、アレじゃ。金が欲しかったんじゃよ」
「……ほぉん。あ、そうそう、ステータス的なのってあるよな?どうやって見んの?」
「はぁん?知らねえで来たの?マジ?勉強不足じゃのぉ。これだから最近の若いもんは……」
このジジイ。俺を煽ってきてやがる。さっき助けなかったら確実に死んでたのに、俺の機嫌を損ねにきてやがる。
袋に手を突っ込んで、ゴッドカリバーを取り出そうとごそごそと。それを察したのか、クレティアもしぶしぶ顔を上げた。
「……はぁん。仕方ないの。ほれ」
そう言って、なんか服を持ったと思ったら、こいついきなり脱ごうとしやがった。
ひらひらした服を捲り上げ、現れたのは玉の肌。真っ白で、括れなんかありやがる。中身がアレだというのに、思わず見入ってしまった。いかんいかん。煩悩を殺せ、俺。
だが、突然こんな事をしたのは当然ジジイが変態だからじゃない。そりゃ、来たばっかの頃は何回かやっただろう。でも流石にそろそろ耐性ついてないとね。生活できないよね。
ジジイが俺に見せたかったもの。それは、腹のちょうど真ん中。ヘソの上あたりにある、小さな謎の魔法陣だった。
「…………なんこれ」
もっとまくれ!あ、いや、違う!早く下ろせばか!見えそうなんだよ!無駄にでかいお前の乳が、服から脱出ゲームしそうなんだよ!
見るな俺。そう強く念じることにより、なんとか心に平静を。しかし当のクレティアときたら、得意顔で、すげえじゃろ、なんて言って腹を見せつけていた。わかったよ。すごいすごい。いい肌だ。触るぞこら。
「どうじゃ?すごいじゃろ?ワシのステータス」
「……読めねぇ……」
「はぁぁん?スバル、お前なんできたんじゃ?ひょっとして本物のバカなのか?」
「勝手に人襲って転生した愚神に言われたくねぇよ!」
「ぬなっ……!ふぁん!わしあれじゃから!今じゃ巷で噂のナウガールじゃから!へん!この田舎もんが!」
「言葉遣いがジジイなんだよ認めろよ!ってか、よくそれで今まで生きてこれたな。顔か?やっぱどこの世界も、基準は顔なのか?」
やべ。今気づいたけど、俺転生してないから俺のまんまじゃん。顔だめじゃん!
転移ができたんなら、全部持って転生もできたんじゃね?それでなくても、どっかに隠して後から掘ればよかったんじゃね。
後になって、次々生まれてくる後悔。えぇ。俺は後から悔いるタイプだよ。アイスだって、買って店出たら別の買えばよかったって思うタイプなんだよ。
口汚く罵りあって、道なりに歩いていると、ついにと言うかなんと言うか。まぁ、無事に到着した。そして街を見るや否や、俺の頭は感動でメモリー全部持ってかれていた。
「……なんつーか、ザ・異世界だな」
「じゃろじゃろ?わしも結構送ってきたが、来るのは初めてじゃったからな。最初は驚いたもんよ」
口では軽く言いつつも、俺は魂は感動の渦中に。視界に入るは、果てもないほど巨大な城門。大きく開いた扉の向こうには、長年思い描いたまさに理想と呼ぶべき世界があった。
街を歩くは、剣を携えた冒険者や兵士。猫耳っ子に半竜人、可愛らしいドラキー的なやつや、車を引くメガテリウムの様なデカイ四足哺乳類まで。喧騒と香草の匂い、排気ガスも黄砂もない。そんな素晴らしいものが、世界が。
俺を包み込んでいた。
「……まぁ、まずは冒険者から始めじゃな。ついて来い」
ジジイ、もといクレティアに続いて、俺は門に入る。検閲的なのが行われていたが、どうもザルなようで。クレティアが一つウインクするだけで、簡単に俺を入門させやがった。大丈夫か?この国。
城下に入ると、やはり外とは雰囲気が違う。聞こえて来る果物売りの声も、道路をかける車輪の音も。どれもこれもが、俺の心を震わせた。
「…………普通に来たかったな」
「あ、そうそう。スバル、ちゃんと全部神器持って来た?」
なんかすげぇ気持ち悪い口調で聞いてきやがった。中身を知ってるだけに、外見とのギャップで飯がせり上がって……うぇ。
「お、おゔ。家ごと全部」
「そ。ならいいわ。早く行きましょ。冒険者様」
「…………お前、目覚めちまったのか?」
キモいだるい催すだろばか。これ以上俺を陥れて何する気だ?せっかく人が神秘的で壮大な気分に浸ってたと言うのに。
「や、やかましいでございますわ。一応わしアレですし。女の子ですし。淑やかで通ってるんですわよ」
「…………なんかアホっぽいぞ?」
「はぁん?転生させるぞクソガキが!十七年も守り抜いたんじゃ!少しくらい昔を思い出させろぼけぇ!」
ちげぇ。ぽいんじゃない。こいつ、アホなんだ。マジで。自分で言った十七年を、今自分で壊しやがったよ!簡単に記録更新だよ!
それ以降街の人に聞かれるのを恐れたのか、すっかりクレティアは黙り込んでしまった。それでも、ちゃんとすれ違った待ちの人には挨拶してやがる。こういうとこは、まぁ、多少なりとも評価できるとこだな。少ない長所の一つだ。
街を歩いて、家を何件も抜け。途中見かけた竜屋に行きたくなって、でも銭湯にも行きたくて。あぁ、ここは誘惑が多すぎる。
運動不足な体が少しばかり疲労感を覚えたころ、ついに俺たちはギルドと書かれた建物の前に着いていた。どうだろ?コンビニ三軒分くらいある、結構大きめの店構え。胸元くらいのスイングドアに、奥には立派なカウンターが。
西部劇なのか、それとも中世ヨーロッパなのか。どっちなんだよ。
「んじゃ、私報告と手続きしとくから。お前はここで待ってろ」
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