四隅のほこり
なのない北風
僕を止めるのはお巡りさん
都会の喧騒から少し離れた住宅街。
月もそろそろ休もうかという時間帯に、私の仕事は始まる。
さぁて、と気怠げに立ち上がり今日も見回りへと向かう。
自販機の前で話し込む少年少女達に帰るよう言い聞かせる。
昔は怖がって走り逃げていった彼等も、今では素直なもので。
「それじゃあね!」なんて可愛い挨拶をして去っていく。
そんな調子で街を練り歩き、見回り最後に一番危険な場所へやって来た。
通称、空飛び歩道橋。
これが何とも高いこと高いこと、無理な都市開発で出来上がった負の産物。
毎年のように、思い詰めた人々が此処で空へと飛んで逝く。
私も此処で大切な人を亡くしてしまった経験がある。歩道橋を見上げる視界が滲む。
もう誰もこんな思いをさせまいと、私はこの場所を重点的に見回ることにしている。
その甲斐あってか、今年は未だ1人も飛び立っていない。
しかし油断は禁物だと、気を引き締めて歩道橋を登る。
すると、靴を脱いだ男性が片膝を手摺りに乗せている姿が目に入った。
やめないか!私が一声発すると、男性は身体を跳ねさせて尻もちをつく。
「何だよびっくりした」
そう言って駆け寄った私に顔を向ける男性は、目にクマを浮かび上がらせていた。
此処から飛ぼうとする皆そうだ、何かに囚われ、疲れて、憑かれている。
いくら私が説教しようとも、出会って間もない私の言葉は彼等に届かないだろう。
しかし、話しを聞く事はできる、辛かった事や、苦しかった事、全て心に刻む。
それで少しでも彼等の憑き物を払うことができたならと願って止まない。
「ありがとう」そう言って靴を履いた彼の背が見えなくなるまで見送る。
途中でコチラに振り返って、再度手を振る彼に対して一言。
「わんっ!!」
四隅のほこり なのない北風 @NamelessNorthwind
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