第73話 シャルと共に
しばらくの間、ハイジアの街で活動してみることにした俺達は、ギルドで紹介してもった宿のチェックインを無事済ませ、今後の予定を立てる為に宿の近くにあるレストランで個室を取ると、食事を兼ねた話し合いを行なった。
翌日……。
冒険者ギルドで迷宮に入る為の許可証を発行してもらい、先ずは中堅クラスの冒険者が挑む迷宮へと向かい足を踏み入れた。
この迷宮を選んだのは、人の出入りが一番多い所であり、迷宮の中がどういう雰囲気なのかを経験するのに適していると思ったからだ。
迷宮の入口で手に入れた迷宮内の地図を見ながら、前を行く冒険者のパーティーの探索を邪魔しないように一定の距離を保ちながら進んで行く。
地図を見ると通路は迷路のようになっていて、端の方には注意書きとして日ごとに少しづつ壁の位置が変わると書いてある。
と言うことは、いま見ている地図は参考程度にしかならないという事なのだろう。
「あっ、前を行くパーティーの姿が見えなくなりました」
「この地図によると、あの辺りに部屋があるようだね」
ウォン!
すると、シャルは俺達の方を見ながら一吠えしたあと、俺達を導くように先に向かって歩き始めた。
先を進んでいた冒険者パーティーの匂いをもとに追い掛けるつもりなのだろう。
そして彼らが消えた辺りまでやって来た。
「あれ、扉のような物は見当たりませんね」
シャルが壁を見つめながら尻尾を降っているのだが、扉のような物はそこには存在していなかった。
「そこの壁を押してみるしかないんじゃないの」
ヘザーさんの言うとおりである。
男の俺が代表して、尻尾を振りながら佇んでいるシャルの目の前の壁を、目一杯の力を込めて押してみた。
しーん!
壁はびくともしなかった。
「押すのは正解じゃないみたいだ」
「じゃぁ、私が魔力を流してみますね」
瑞月さんが、壁に掌を当てて魔力を流し始めた。
ゴゴッゴゴ~!
すると壁が一旦奥へと自動的に移動して横向きに変化すると、そこには奥へと続く通路が現れた。
「魔力を流す、が正解だったみたいね」
ヘザーさんのその言葉に、俺は苦笑いを浮かべるのだった。
ただ、場所を探して特定したシャルは満足げな表情をしていた。
気を取り直して俺達が通路に入り奥に進み始めると、壁際の燭台に自動的に灯が燈り通路が明るく照らされていく。
そして、後ろを振り返ると...これまた自動的に灯りが消えていた。
どういう原理か分からないが、至れり尽せりという事だ。
「この通路は何処に向かっているんでしょうね」
「さっきの冒険者パーティーが居ないことを考えると、出口が有る筈だから進んでみるしかないだろうね」
通路に入り、歩き始めて20分くらい経った頃だろうか、シャルが再び壁の前で立ち止まり尻尾を降り始めた。
すると、ヘザーさんが...
「今度は私がやってみるわね」と、言葉にした。
先程のリベンジをしたいのだろう。
ヘザーさんが、壁に掌を当てて魔力を流していく。
し~ん!
「へっ!」
ヘザーさんが、間の抜けた声を漏らした。
どうやら今度は、力技が必要だったようである。
俺はヘザーさんと入れ代わり、壁に手を添えて思い切り押してみた。
ゴゴッゴゴゴォ~!
奥へ押し込まれた壁は横へと移動していく。
そして、視界が開けた先には建物の中とは思えないほどの大きな庭園が広がっていた。そこで俺達は、通路から出てその庭園の方へと移動してみた。
シャルは草花に触れられるのが嬉しいのか、真っ先に芝生のような草の上ではしゃぎ始めた。
「でも、先程の冒険者パーティーはいらっしゃいませんね」
「そうだね。すでに、先の方へと進んで行ったのかもしれないね」
この庭園内では魔物の類は出て来る様子はないようなので、俺達は少し休憩を取ってから先に進むことにした。
俺はソフィアが淹れてくれた紅茶を飲みながら、手元に地図を取り出して場所の確認をしていく。
「あれっ、この地図にはこの庭園は記載されていないようだよ」
「じゃ、隠し通路と隠し部屋みたいなものでしょうか」
「あれじゃない、探索者のレベルによって行きつく先が変わる類のやつじゃないの」
「私も、そうだと思います」
ウォン!
シャルも同意しているようだ。
「と言うことは、シャルに対してこの迷宮が導いたという事かな」
「そうですね。ここまで、シャルちゃんが連れて来てくれたのですから」
「じゃぁ、先を進んでいた冒険者パーティーは違うところに出た可能性があるわけね」
「そう考えれば、彼らに出会わないのも納得できますね」
その場で30分ほど休憩をしたあと、俺達はシャルが先導して歩いて行く方へと、その後を着いて行く。
そして、15分ほど歩き続けたところで、噴水がある場所へと到着した。
すると……。
「ねぇ、あれ。宝箱じゃない」と、ヘザーさんが叫ぶ。
その声に反応した、ソフィアと瑞月さんも「本当だ~」と、大きな歓声を上げていたのだが、俺とシャルはその宝箱を冷静に眺めていたのだった。
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