第72話 迷宮都市ハイジア
エマールの街での休息と冒険者ギルドでの依頼を終えた俺達は、次の街に向けて出立する事にした。
そこで次の目的地を決める為に、この街のギルドで知り合いになったデニスさんにお勧めの街を聞こうとギルドに顔を出していた。
「デニスさん、帝都に向かう前に寄り道をしたいのですが、どこかお勧めの街はご存知ありませんか?」
「そうですね。エディオンさん達にお勧めするなら、迷宮の近くにある街などはいかがでしょうか」
「迷宮の近くにある街ですか?」
「えぇ、そこは古代遺跡の直ぐ近くに造られた街なのですが、古代遺跡自体が迷宮となっていて、そこには色々な種類の迷宮があるのです。そして、その中でもBランクの冒険者パーティー以上じゃないと探索させてもらえない場所があるんですよ」
「それはまた、随分と厳しい条件の迷宮なんですね」
「そうなんです。でも、一獲千金を求めて上位の冒険者が結構行くようなんですよ。
エディオンさん達は、Aランクの冒険者パーティなので問題なく探索許可が出ると思いますから、行ってみると何か面白い物が見つかるかも知れませんよ」
デニスさんの話を聞いて、俺達はまずその街へ行って見ることにした。
◇◇◇◇◇
二日後......。
迷宮の近くにある街まで移動するのに十分な食材や日用品の補充を終わらせ、ギルドで幌馬車をレンタルすると、目的地であるハイジアの街へと出発した。
移動初日のお昼過ぎ、街道から横道に逸れて草原の方へ向かい人気のない場所を見つけると馬車を停止させた。
「ここなら、瑞月さんに来てもらっても大丈夫かな」
そう、エマールの街を出立したので、約束通り瑞月さんと合流する為に一旦街道から離れたのだ。
俺と瑞月さんは出会った時に、何故かお互いの中で精神的なパスが繋がってしまったので念話で交信することが可能となっていた。
そこで、俺達が人気の無い場所にいる事を伝えると...
俺の直ぐ傍に光の粒子が集まり始めて人型へと成型されていく。
それから、ものの数十秒で実体化した瑞月さんは、俺達が最初に逢った時よりも元気な様子になっていた。
「皆さん、お久しぶりです。これから、よろしくお願いしますね」
「瑞月さん、元気になりました?」
「はい。エディオン様とパスが繋がったことで、魔素のチャージがスムーズに出来るようになりましたから」
「なるほど、それで実体化するのが速くなったのね」
「はい」
「そう言えば、古城の中庭の樹はどうなるのかしら?」
「樹自体が私なので、古城の中庭に樹は既に存在していません。
ですが、違う樹が成長するようにして来ましたから数年すれば違和感は無くなると思いますよ」
「その樹も、意思を持つのかしら?」
「あっ、それは無いです。あくまでも、この世界にある樹ですから」
そうそう同じような樹が幾つもあっては問題になるので、瑞月さんの言葉に安堵の表情を浮かべ安心している俺達がいた。
瑞月さんと無事に合流することが出来たので、この場所でお昼ご飯を食べ、休憩を終えた俺達は街道へと戻ると目的地に向かっての旅を再開した。
瑞月さんは、この世界に来て初めて移動する事を体験するらしく、馬車の中から移り変わる周りの景色を見ながらはしゃいでいた。
どういう経緯で、この世界に来てしまったのか瑞月さんには聞いていないのだが、そのうち俺達に話してくれるだろう。
そこから、七日後......。
街道に現れる魔物と多少の戦闘を行いながらも、俺達は無事にハイジアの街へ到着した。
防壁の門を抜けて、レンタルした幌馬車を返却する為に、冒険者ギルド裏手の厩舎へと向かう。
そこで返却の手続きを済ませると、ギルドの裏口から中に入り窓口のあるホールへとむかった。
「済みません。一人、登録をお願いしたいんですが」
俺は自分のギルドカードを提示しながら、窓口の受付嬢へと声を掛けた。
「はい、畏まりました。どなたの登録をされますか?」
そこで俺は瑞月さんを、窓口の方へ呼び寄せた。
「彼女の登録をお願いします」
「では、こちらの用紙にお名前と得意な職種を書いて下さい」
俺は受付嬢から登録用紙を受け取ると、瑞月さんへペンと共に手渡す。
すると、瑞月さんはスラスラと登録用紙に書き込み始めた。
ここまでの移動の間に、多少の読み書きは教え込んでいたので、このくらいは問題なく書き込むことが出来るようになっていた。
「お願いします」
瑞月さんは書き終わると、自ら登録用紙を受付嬢へと提出した。
「はい、ありがとうございます。
お名前は、瑞月さんですね。
職種は魔法職ですね。
こちらで、登録してよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
受付嬢が魔道具に用紙をセットして登録作業を始める。
数十秒後、ギルドカードの用意が出来たようで...
「では、こちらのギルドカードに魔力を流してもらえますか」と、瑞月さんの手元へとギルドカードを提示した。
そのカードに、瑞月さんが魔力を流すとカードが淡く光り登録が完了した。
「これで、瑞月さんの登録が完了しました。詳しい説明は必要ですか?」
「いいえ、エディオンさんに聞いていますから大丈夫です」
「では、以上です。冒険者としてこれから頑張ってくださいね」
俺達は受付嬢に礼を言うと、この日は宿を紹介してもらいギルドを後にした。
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