第71話 樹名は? 

翌日、俺達は樹の様子が気になっていたので中庭へと来ていた。


「そう言えば、この樹の樹名は何と言うのかな?」


世界樹は誰も近付いて行けないような秘境に存在していると言われているから、この樹が何の樹か俺は気になっていた。


「そうですね。...世界樹とは違うようですし」


「エディオンが、アイネ様に直接聞いてみれば分かるんじゃない」


ヘザーさんの意見は尤もと思ったので、俺はアイネ様に聞いてみる事にした。


俺は、目を閉じて少し頭を伏せながら胸の前で両手を合わせて...


【アイネ様、どうぞ樹の名前を教えてください】


『久しぶりですね、エディオン。

その樹の名前ですが...私にも分からないのよ。

次元の狭間をすり抜けて、違う世界から来てしまったのかもしれないわね』


【えっ!それって大丈夫なんですか?】


『数百年に一度、有るかどうかだから大丈夫でしょう。

それに、そのことによってこの世界が発展する事例もあるし、エディオンのように私が転生者を招き入れる事も有るから』


【なるほど、イレギュラーではあるけれども許容範囲内だという事ですね。

しかし、アイネ様でも名前が分からないという事になると】


『そうね、折角だから...エディオンが命名してみたら』


【普通はアイネ様が命名するのではないのですか】


『でも違う世界から来てしまったのなら、私はエディオンが命名した方が良い気がするのよ。その樹もそれを望んでいると思うわ』


アイネ様が俺に命名するように薦めてきたのを感じ取ったのか、最初に訪れた時のように光の光線が俺へと注がれてきた。


その注がれた光の感じからすると、どうやら俺が命名しても良いという事らしい。


【そうだなぁ。瑞月みずきにしよう】


俺が言葉にしたその名前に反応したのか樹の周りで光が乱舞し始めたようで、瞼を閉じていても眩しさを感じるほどの明るさだった。

そして、その光の乱舞がひと際大きな輝きを放ち、光の乱舞が終わったのを感じた俺は、瞼を開けて命名した樹の方へと視線を向ける。

すると、そこには一人の女性が佇んでいた。


「君は、瑞月なのかい?」


「はい、そうです。エディオン様」


瑞月が答えた瞬間、何かがリンクされたような感じが伝わってきたのだった。

それが何かは分からないが、需要な意味を持っていることは理解出来ていた。


『凄いわね。こんなの初めての事だわ...意思を持つ樹が存在しているなんて。

しかも、完全なる人型にもなれるなんて興味深いわ』


【アイネ様、俺の意識の中で大声を出さないで下さい。

頭がガンガンしています】


『あっ、ごめんなさいね。私は調べ物をするから、エディオン後はよろしくね』


そう言うと、アイネ様の気配が俺の意識の中から消えてしまった。


そして、その状況を傍から見ていたソフィア、ヘザーさん、シャルは未だに啞然とした表情で固まっていた。


◇◇◇◇◇


その日の午後、俺達は騎士団の建物内にある会議室で、今回の城内における巡回警備の報告書の作成に取り掛かっていた。


「エディオン様。それで、瑞月さんの事はどう報告するのですか?」


「あの場には俺達しか居なかったから、瑞月さんの事は報告しなくても良いと思っているよ」


「そうね。私も、バカ正直に報告しなくても良いと思うわよ」


「まぁ、ギルドに報告しても信じないと思うしね」


「ただ、帰りの船には乗せて連れてはいけませんよ。この島に上陸したのはわたし達だけですから」


「そこは、問題ないよ。俺達がエマールの街を出立した後で、俺とのリンクを目印に転移してくるみたいだから」


「なら、大丈夫そうですね」


一旦瑞月の話を置いておいて、地下施設の処理とその後の対応についての考えを報告書へと書いていく。


「今回はデニスさんも居たから、こんな所かな」


「そうですね。あそこ以外は特に問題も有りませんでしたし」


「そう言えば、壁の修復はしなくて良かったの?」


「あ~、壊した壁の事でしょう。

デニスさんが言っていたんだけれど......ギルドに報告した後、古い資料に基づいてギルド側が責任を持って修復作業をする事になるから、そのままで良いとの事だったよ」


「じゃ、もうちょっと派手に壊しても良かったのかしら」


◇◇◇◇◇


翌日......。


迎えに来た船に乗り、俺達は湖上の島からエマールの街へと帰還した。



「エディオンさん、今回はありがとうございました」


俺達がギルドに入るなり、デニスさんが声を掛けてきた。


「いいえ。こちらこそ、お手数を掛けました」


一通りの挨拶を済ませて、デニスさんと一緒にギルドの会議室へと向かう。

するとそこには、ギルド長と秘書の女性も既に来ていた。


「やぁ、今回はご苦労をだったね。

早速だが、報告をお願い出来るかな」


ギルド長から労いの言葉を貰い、俺達は報告書を手渡すと報告を始めたのだった。

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