第70話 鎮魂と回復

一通り地下の施設内を確認したデニスさんは、その日の夕方には船に乗り帰っていった。


デニスさんが帰った翌日、俺達は石棺が置かれている地下の施設へと再びやって来ていた。


昨日、デニスさんと一緒にこの空間を調べたところ、石棺が置かれている台座には仕掛けが施されているのが分かった。

その仕掛けは、台座の短い方の側面に埋め込まれている魔石に魔力を通すと、台座が石棺ごと右方向へ90度回転するというものだった。

そして、台座が回転したことによって露わになった床には、その左右に60cm四方の箱が埋められていて、箱の中には大きな魔石が一つずつ納められていた。


「昨日ここまではデニスさんと一緒に確認はしたけれども、まずは石棺の中の遺骨を綺麗にしてあげるべきかな」


床に綺麗なシルクの布を敷き、埃まみれになっている遺骨を運び出す準備を整える。

運び出すのは一人分の遺骨なので、ソフィアが浮遊の魔法を使い石棺の中からシルクの布の上へと移動させた。

そして俺は遺骨に手を合わせ黙祷を捧げると、汚れを払う洗浄と穢れを払う浄化の魔法を使い遺骨を綺麗な元の状態へ。

それから、石棺とその蓋はヘザーさんが同時進行で処理をしてくれていた。


「さて、綺麗になったことだし遺骨を石棺に戻してあげようか」


石棺の底にシルクの布を敷いて戻す準備をする、その際遺骨を綺麗に安置する為のローブも用意しておく。


「ソフィア準備できたよ」


「はい、こちらも大丈夫です。では、移動させますね」


そう言うと、ソフィアが逆の手順で遺骨を石棺の中へと移動させた。


「じゃ、私が綺麗に整えるわね」


ヘザーさんが遺骨にローブを纏わせ丁寧に着飾っていく。


「ふぅ、出来たわ。どうかしら?」


「いいですね!これなら、今まで忘れ去られていた事も許して下さるのではないでしょうか」


「後は蓋を戻して、状態保存の魔法陣を付与しておこう」


こうして一つ目の作業を終えると、二つ目の作業へと移ることに。


「今度はこの箱の中の魔石に魔力を充填しなくてはいけないのだけれど」


「今まではどうしていたんでしょうね?」


「推測だけれど。これまでは、中庭の樹から魔力を供給してもらっていたんだと思うんだよ。ただ、どこかでその経路が寸断されてしまっているのかもしれない」


「そういうことね」


そこで俺達は手分けして、その経路の割り出しを始めた。


そして、部屋の中を隅々まで調べた結果......。


「魔石の入っている箱の底から床石を貫通して地中まで筒状の穴が開けられているので、ここしか考えられないですね」


「でも中は空洞のようだわ」


「魔石を取り出して、箱の中を調べてみようか」


早速、魔石を箱から取り出し底を確認すると、直径で10cm程の穴が確かに開いていた。そして、ヘザーさんの言っていた通り穴の中は空洞となっていた。

更に穴の深さを測ると5mであった。


「この穴の中には何か入っていたのかな」


「そうですよね。空洞のままでは役に立ちそうにないですよね」


「穴の側面には何かしらの痕跡などはないの?」


ヘザーさんにそう言われた俺は、右手を穴に入れると側面を指先でなぞってみた。

ザラザラとした感触と砂を触った時のような粒々感を指先から感じることが出来た。


そして、穴から手を引き抜いて確認してみると、黒い粒状の粉が付着していた。


「この粉は、なんだろうね?」


「確認してみますね」


そう言うと、ソフィアが黒い粉に鑑定をかけた。


「魔鉱石の粉のようです」


どうやら魔力の補充をする為に伝導率の良い魔鉱石が穴の中に充填されていたようだ。そして、その魔鉱石も経年劣化により風化して地中へと吸収されてしまってのかもしれない。


「どうしようか?」


「魔鉱石の事」


「そういえばエディオン様、ヘザーさんを助けた時に洞窟の奥でかなりな量の魔鉱石を採取しませんでしたか」


ソフィアに言われて、俺は思い出した。


「そういえば、ヘザーさんが住居としていた洞窟の奥には良質な魔鉱石の鉱床があったから許可を得て結構な量を採掘していたね」


まぁその魔鉱石の鉱床があったが故に、ヘザーさんが利用されてしまった面もあったのだが。


「でも、どうやってこの穴に充填するの」


「砕いて投入しても良いけど魔力が浸透する効率が悪くなると思うから、製錬してから更に精錬して流し込んでいくのが良いかな」


「なるほど、魔力の通りが良くなるように純度を上げてから充填するのですね」


方針が決まった所で、作業に必要な魔法陣を展開しながら、材料の魔鉱石をマジックポーチから必要な量を取り出して、製錬から精錬へと何度か作業を繰り返しながら穴の中が完全に埋まるまで魔鉄を流しこんだ。


そして、二つの箱の底にあった穴を全て埋める作業は、この日の夕方まで掛かったのだった。


「二人とも、お疲れ様。何とか一日で終わらせることが出来たね」


「はい。でも、精神的に疲れました」


「しばらくは、こんな作業はしたくないわね」


この後、魔石を箱の中に戻すと徐々に魔力が補充されてくのを確認すること出来た。


「この分だと、明日の朝には八割ほどの魔力がこの魔石に充填されているんじゃないかな」


「そうだといいですね」

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