第65話 湖畔の街へ

グラボイズの駆除に目処が立った事で、村の開拓も再開する事が決まった。


そこで、俺達は少ない魔力量で地中を硬化させるための魔法陣を考え構築した。

また、それを数日掛けて開拓村で主に防壁の建設に従事する魔法師に魔法陣の操作の仕方などを教授していた。


「そうです、その感じでゆっくりと魔法陣を動かしていけば失敗する事はありませんから」


「これは、いいですね!我々のような魔力量の少ない者でも地中の硬化作業をする事が出来ます」


そして、ある程度作業が進んだころ、俺達の指導も終わりとなった。



フレグランスの街に戻り、二日後の朝......。


俺達は街を離れることにしたので、冒険者ギルドに行きギルド長のライザップさんに別れの挨拶をしていた。


「何だ、もう次の街に行くのか...」


「はい。この街と開拓村を含めて一月も過ごしましたから、旅を再開しようかと」


「そうか。まぁ、お前たちは旅がメインという話しだったからな。

道中は、気を付けて行けよ!

あっ、そうだ...開拓村の件は助かったありがとう」


◇◇◇◇◇


「エディオン、次の街までは徒歩で移動するの?」


「いや、久々に駅馬車を利用して移動しようかと思っているんだ」


俺がヘザーさんに答えていると...


「湖畔の街はどんな感じのところなんでしょうね」


ウォン!


ソフィアとシャルは既に次に向かう街の事が気になっている様子だった。


防壁の西門近くの広場にある駅馬車の発着場に到着した俺達は、目的の駅馬車を見つけると乗車料金を支払い、座席に座って発車するのを待っていた。


「お客さん達、発車するよ」


御者のおじさんが、出発する事を告げると、2頭の馬に引かれた馬車がゆっくりと動き出した。


駅馬車は西門を抜けて、次なる目的地であるエマールの街に向かって街道を進んで行く。


時刻もまだ午前9時前なので、馬車の中を抜けていく草原から吹いてくる風も少しひんやりとしていて気持ちが良かった。



駅馬車に揺られること三日目、俺達はついに湖畔の街エマールへと到着した。



「ギルドに行くのは後にして、湖畔近くの宿で泊まれるところが無いか当たってみようか」


「そうですね。偶には休息の方を優先しても良いと思います」


「そうね。先に行くと何かしら用事が生まれてしまうから、私も賛成するわ」


ウォン!


そういう訳で、俺達はこの街においては休息を優先する事にした。

ただ、街に入る時にギルドカードを提示しているので、ギルドに知られてしまうのも時間の問題だとは思うが、少しの間はのんびりとさせて貰うことにしよう。



俺達が湖畔の近くで見つけた宿はコテージになっていて、一棟ずつが離れて設置してあり其々にバス&トイレが備え付けられていた。

そして、広々としたベッドルームとキッチンも有り豪華な造りの建物となっていた。


「普通の宿とは一線を画す造りの宿泊施設ですね」


「これなら、シャルものびのびと過ごせそうだね」


ウォン!


「湖畔が近いし至れり尽くせりね」


この場所を案内してくれたコテージの管理者に、俺は宿泊する旨を伝えて10日間の予定で契約を締結した。



翌朝......。

朝靄の煙る中、俺とシャルは湖畔の周りに通されている小道をランニングしていた。


「気持ちがいいね、シャル」


ウォン!


そして、走りながら湖の方を眺めると、水面からは湯気の様に水蒸気が湧きたっている。それは、昔みた風景写真の中にあった一つの景色のようだった。


俺とシャルが小道を30分ほど走った所で折り返して、コテージの方へ帰ろうと戻り掛けたところ、近くの林の中からゴォーという風が吹き抜けていくような音が聞こえてきた。


そして、その音に興味を惹かれた俺は、シャルを伴ってその音のする林の方へ行ってみることにした。


「ここかー」


そこは、大きな一枚岩が鎮座しており、何かを祭っているような雰囲気のある、これまた大きな穴が開いていた。


奥行きは無いようだが、とは言っても。

それでも奥行きは、15m位は有りそうだった。


明かりに照らされているのは、手前の5m程で後は松明が必要な感じだ。


夜目が使えるので、そのまま入っても良かったのだが、不審者に見られるのも嫌なので、ポーチから手持ちの松明を取り出すと火をつけて、大穴の奥へと俺とシャルは歩き始めた。


大穴の入口から5m程進んだ所で、一瞬何かに触れたように感じがしたが嫌な感じはしなかった。


ただ、状況としては前触れもなく一気に暗闇となった感じだ。


もしかすると、普通の人ではこの奥に来ることは出来ないのかもしれない。


そんな思いを抱きながらも、俺とシャルは最奥へと向かって歩き続けた。


ウォン!


シャルが一声哭く、どうやら俺達は行き止まりに到着したようだ。


松明の光を前方に向けて、奥の景色を改めて確認すると。


そこには、朱に塗られた鳥居と祠があったのだった。

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