第64話 成果は上々
出発日の朝、錬金術師のホビーさんに製作してもらった、燃える石が中に入ったカプセルを納めた箱を受け取ると、ギルド長ライザップさんの待つ冒険者ギルドの裏手にある厩舎へと向かった。
「おう、来たかエディオン。このメンバーで行くからよろしくな」
「分かりました。ギルド長に解体職員さんに、ミーシャさんもですか?」
「あぁ、ミーシャは受付嬢の教育係も兼任しているからな、知識として覚えておいてもらわないと困るんだよ」
「そういう事ですか。分かりました」
俺達は、ギルドが用意した20人乗りの大型の幌馬車に乗り込むと開拓村へ向かって出発した。
「そう言えば、ギルド長。どうしてこんな大きな幌馬車にしたんですか?」
「そこの荷物を見れば分かるだろう。往復時の食料と水を運ぶ為だよ」
俺は、ライザップさんにそう言われて、「あ~、なるほど」と返事をした。
俺達は、いつもマジックバッグ(大容量)を使って運んでいるから気にしていなかったが、今回の人数でも10日分となると結構な量になる、それでこの大きさの幌馬車が必要だったのだと理解できた。
移動は順調に進み三日目の夕方に、拠点としている土地に到着した。
すると、ギルド長のライザップさんが...
「見た感じ周りの土地と変わらないが、本当に大丈夫なんだろうな?」
「えぇ、大丈夫ですよ。あそこにある、鉄格子の檻が拠点の中央です」
と、答えると。今度は、秘書のミーシャさんが...
「範囲は半径20mと言う事でしたけれど、それで大丈夫なんですか?」
「地中も20mまで硬化させていますから、大丈夫ですよ」
と、答えて。安心感をアピールしておいた。
先ずは、ゴブリン達の入っている檻を少し移動させて、幌馬車を中心に据える。
そして俺達は、翌日に備えて食事を済ませ、早めに就寝した。
今回ここに来るまでに、日にちが開くことが分かっていたので、ゴブリン達が死んでしまわないように、前回転移で検証に来た時に食料として大型の猪を一頭檻の中にいれておいた。そのお蔭か、元気ハツラツだった。
翌朝......。
朝食を済ませ、駆除の準備を終わらせた俺達は、前回同様三方向にゴブリンの囮を置いて実験する事にした。
前回2匹は駆除しているが、1匹は逃してしまっている。
逃したこの個体は、学習能力も有りそうだったので注意が必要だろう。
先ずは、燃える石は使わない方法で行う事になった。
「じゃ、エディオン。やってみてくれ」
「はい。ソフィア、ヘザーさん準備はいい」
「「はい」」
ゴブリンが眠りから覚めて暴れ始める、そして5分もしない内に奴らは現れた。
そして今回は、俺も失敗することなく無事に仕留める事が出来た。
「なるほどな。でも、この方法だと魔力の豊富な魔法師が居ないとどうしようもないという事か」
「そうですね。そこが一番のネックになりますよね」
2時間後......。
今度は、錬金術師のホビーさんが製作してくれた、燃える石の入ったカプセルを使用しての実験となった。
「ほう、これがホビーの奴が造ったというカプセルか」
「はい。カプセルの中が水だと石が動いて割れてしまう可能性があるという事で、動かないようにするその材料を探すのに試行錯誤したと言っていましたよ」
「ほう、でも良くこの短期間で見つけたものだ」
「何でも、スライムを使ったら上手くいったと言っていました」
「で、その方法は聞いたのか?」
「いいえ。そこは、企業秘密という事だそうです」
早速、実証実験開始という事で、囮のゴブリンの腰に紐で結んでぶら下げて置く。
睡眠魔法から目覚めたゴブリンが足枷を外そうと暴れ始める。
すると、その振動に釣られて一匹のグラボイズが土煙を上げながら近付いてきた。
5mほど手前で土煙が途絶えると、次の瞬間ゴブリンを捕食する為に地中から大きな口を開いて飛び出し、暴れるゴブリンを呑み込んだ。
バリィーンー!
ガラス製のカプセルが割れる音が、グラボイズの閉じた口の中から微かに聞こえてきた。
それと、同時に口を大きく広げて苦しみだすグラボイズ。
その開けた口からは、勢い良く炎が噴き出してくる。
3分後、口内を焼かれ死骸となったグラボイズの頭部が地面へと横たわった。
そのグラボイズの亡骸を魔法を使い回収する。
すると、水溶性の胴体からはその水分が抜けていて、思いのほか回収が簡単に行えた。これなら、力持ちの冒険者が10人も居れば、魔法を使わなくても簡単に回収する事が出来るだろう。
ギルド長のライザップさんがグラボイズの亡骸を見ながら...
「これで、開拓が進められそうだな」
「でも、ギルド長。数が分からないのに如何するんですか?」
解体職員の男性が疑問を投げかける。
「ゴブリンと一緒だよ。数が多ければ駆除すればいいだけだ。これまでは、その方法が分からなかったから手を焼いていたが、分かった今なら簡単な事だろう」
ギルド長のその言葉に、この場に居た全員が納得の頷きを返すのだった。
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