第58話 隣国へ
ガーネッシュの街に滞在して15日目、俺達は次の街に向かって旅を再開することにした。
「何だ、もう次の街に行ってしまうのか?」
「はい、この街で14日も過ごしましたから、そろそろ違う街に移動して見てみようかなと」
「そうか。気を付けて行けよ」
「ありがとうございます」
俺達はギルドでロナルドさんに挨拶を済ませると、ガーネッシュの街を後にした。
そして、当初の計画ではラボン伯爵の治めているの領都を目指す予定だったのだが、ベイダー男爵の治めていた街を通らないといけないので、予定を変更して隣国に向かう街道上にある街を目指す事にした。
ベイダー男爵の粛清は終わったが、多少の混乱は残っているようで、ラボン伯爵が一時的に代理の者を置き統治しているから治安は悪くないとロナルドさんから聞いてはいた。が、俺達はその街を通過するのは遠慮しておいた。
また、厄介ごとに巻き込まれるのは嫌だからね。
そういう訳で、俺達は隣国に向かう街道をのんびりと歩き始めた。
ガーネッシュの街を出て五日目、俺達はアリエールという街に無事到着した。
このアリエールという街は、ユルベイユ王国と隣国のボールド帝国との国境の近くに造られた街で、その防壁の規模もかなりのものだった。
ただ、この防壁は戦争への備えというよりは、稀に起こる魔物の暴走に対する防衛の意味合いの方が強いらしい。
王国にしても帝国にしても、魔物の暴走には手を焼いているのだ。
そして、アリエールの街に足を踏み入れた俺達は、いつものように冒険者ギルドに顔を出すと宿を紹介してもらうのだった。
「エディオン様、アリエールの街ではどう過ごされるんですか?」
「先ずは、物資の補充かな。それと、次の行先を決めないとだね。
後は街の中の散策をするぐらいかな」
「エディオン、依頼とかは受けなくても良いの?」
「いま手持ちの活動資金は潤沢にあるし、たまにはのんびりと過ごしても良いんじゃない」
と、初日の宿では言っていたのだが...
二日後......。
俺達は、ギルドからの急な要請でボールド帝国へ向かう街道を商隊の護衛として移動していた。
「のんびりと、出来ませんでしたね」
「私も、甘ーいお菓子が食べられなくて残念だったわ」
「まぁ、Aランクの冒険者になるとこういう事もあるよ」
ギルドの用意した幌馬車の中で俺達は、それぞれに愚痴を溢していた。
だからといって、護衛の仕事をないがしろにする訳では決してない。
俺達が選ばれた理由は、アリエールのギルドに所属するAランクの冒険者がたまたま全員出払っていて、手の空いている冒険者が街に居なかったからだ。
俺達の他には、Bランクの冒険者パーティー2組10人が護衛任務に参加している。
アリエールの街を出て二日目、俺達は何事もなく無事に国境の砦へと到着した。
ここでは、身分証の確認と商隊は荷物の取引表と齟齬がないかの検査を受ける。
なので、砦で一泊してから帝国へ入って行く事となる。
身分証の確認が終わった俺達冒険者は、砦にあるギルドの出張所にいき帝国側の魔物の動きや盗賊の情報などを、ギルドの職員から念入りに聞いておいた。
その後は、不測の事態に対処するための役割分担や、野営に時の見張りの順番などをもう一度確認しておいた。
こういう時は、Aランクの俺が全体の統率を取らなければいけないので、非常に荷の重い役割だ。
そして、それがAランクの冒険者の義務だ、と言われてしまえば愚の音も出ないのは確かだ。
翌日......。
午前6時、砦の帝国側の門が開く。
その開門に合わせて、俺達の護衛する商隊がボールド帝国の国境の街に向かって動き始めた。
移動一日目......。
野営地に到着するまで、呆れるほど何事もなかった。
移動二日目の早朝......。
砦のギルド職員から、二日目の野営地に向かうまでの間が、特に危ないと聞かされていた。なので、俺たち護衛の冒険者は出発前に、もう一度集まり行動の手順をしっかりと確認していく。そして、商隊のリーダーとも意思の疎通を図り出発となった。
野営地を出発して2時間、情報通り少しずつ魔物が近くに現れるようになってきた。
D~Cランククラスの魔物が現れるのだが単発なので、まだまだ余裕で対処出来ている。
王国側より帝国側の方が魔物の数が多いと言っていたが、その状況が見て取れる状態ではあった。
移動そのものにはさほど影響はなく、時刻がお昼となったところで安全を確保出来る街道の路傍に、商隊の馬車を停車させ休憩と食事をとった。
その際、全体での報連相もしっかりとしておく。
その後は、大した魔物の襲撃もなく二日目の野営地に無事到着することが出来た。
だが、そうすんなりといかないのが世の常なのか、闇夜の中で戦闘をする事となった。
事の発端は、夜8時過ぎ炎の矢が突然野営地に打ち込まれ、最初の見張り役であるBランクの冒険者パーティーが「敵襲」と大声で知らせて来たからだ。
その時間、俺達は深夜の時間帯で見張りをする為に、テントの中で寝ていたのであった。
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