第57話 ベイダーとゴッサム

ロナルドさんと俺達が遊興地区の現場に到着すると喧嘩はまだ続いていた。


流石に街の中なので剣は抜いていなかったが、殴り合いをしていたようで双方ともに多少ではあるが口から血を流していた。


ただ、一人はあの目つきの悪い男だった。


「ロナルドさん、一人は話していた目つきの悪い男です」


「そうか。これは、チャンスかもしれないな」


ロナルドさんが何か思いついたのか、一瞬だが悪い顔を見せた。



「おい、喧嘩をやめろ」


そう言って、ロナルドさんが双方の間に割って入った。

この街の冒険者だろう男達は、割って入ったのがギルド長と分かったのか、直ぐに相手を殴ろうとするのを止め拳をおさめたが、目つきの悪い男と後ろの男はなお殴りかかろうとしていた。


「騒ぎを起こしているのは、こいつらか」


そこへ、今度は街の治安を預かる衛兵もやって来た。


すると、目つきの悪い男達も分が悪いとみたのか矛をおさめた。


ただ、衛兵が来たことで更に辺りが騒然としてきたため、喧嘩をしていた四人を衛兵の本部へと連れていく事となった。


◇◇◇◇◇


チッ、ちょっとやり過ぎちまったか。


ベイダーと俺は小さい頃からの腐れ縁だ。

あいつは、貴族の次男だったが悪ガキだった、もちろん俺もそうだった。

だから出会って仲良くなるのに、さして時間は要らなかった。

そして、お互いガキのくせに二人でこの世を自分の思い通りにするんだと息巻いていた。


まぁ、そのまま大人になってしまっているがな。


◇◇◇◇◇


衛兵の本部に到着すると、尋問室を四部屋使い話を聞くようだ。

仲間を一緒にして口裏を合わさせないようにする為の処置だ。


ロナルドさんと兵長、そこに書記官を一人加わえた三人で話を聞いて行くようだ。

俺達はロナルドさんと共に来ていたが、尋問室の方には行く事は出来ない。


「喧嘩の原因はなんでしょうね?」


「遊興地区での事だから、賭け事か女性絡みだろうね」


「でも、ロナルドさん一瞬だけど悪い表情を浮かべていたわよね」


「それは多分、目つきの悪い男とその後ろに居た男が関係しているかな」


「目つきの悪い男は分かりますが、もう一人は誰なんでしょう。

似たような冒険者の格好をしていましたが」


「もう一人は、ベイダー男爵だと思うよ」


「どうしてそう思うの、エディオン」


「目つきの悪い男が、庇うように行動していたからさ。仲間同士だったら普通横にズレて闘うだろう、でもあの時は前後になって闘っていたからかな」


「なるほどね」



そして、取り調べは夜遅くまで続いていた。

一人ずつ話に齟齬がないか、しっかりと聴かなくちゃいけないからね。


日を跨いでしまうのかなという時間になり、兵舎の休憩所で過ごしていた俺達のところへロナルドさんがやってきた。


「待たせたな。一人はやはりベイダー男爵だった。もう一人はゴッサムと言う男だ。

本人たちはギルドカードを出して冒険者だと言っていたがな。

まぁ、そのお陰で三日間拘留する事が出来た。

貴族だと宣言されたら即日解放だったからな、貴族特権を使われなくて良かったよ。

この間に女性達を助け出す事と、証拠集めをしよう」


ロナルドさんと兵長が上手く話を持っていったようだ。

それに、書記官が調書をしっかりと記録しているだろうから、貴族特権を使う事も出来ないだろう。


だが残された時間は三日間という事だ。


そして、翌日から事態は急激に動き始める。



一日目......。

この街の領主レイモンドさんが、この地方を治めているラボン伯爵に連絡を取り隣街にあるベイダー男爵の屋敷へと査察に入ってもらった。

当主の不在は分かっているので、強制執行という形で査察をラボン伯爵にしてもらったのだ。

ラボン伯爵も自身が任命したベイダー男爵の悪事は自身で解決しないと、今度は王国から自分が処罰されてしまうので早急に手を打った。


二日目......。

ラボン伯爵が隣街のベイダー男爵の屋敷で悪事の証拠を手に入れたようで、この日はガーネッシュにあるベイダー男爵の屋敷へとレイモンド男爵が査察に入る事になった。

領主とその騎士団、それと文官が屋敷へと入った。

その際、この屋敷で待機していた冒険者達が裏口から逃げ出したのだが、ロナルドさん率いる街の冒険者と俺達で連携して捕縛した。

そして、屋敷の中からは攫われていた三人の女性が無事に保護され、それと同時に人身売買の証拠が多数見つかった。


三日目......。

衛兵本部の拘留所から、目隠しに手かせ足かせを施されたベイダー男爵、ゴッサム、配下の冒険者たちが隣街へと連行されて行った。


ラボン伯爵により、そこで処刑が行われるのだ。



「エディオン様、今回わたしたちはほぼ傍観者でしたね」


「いいんじゃないかな。その地域の事は、そこに住む人たちが解決しないとね」


「そうよソフィア。私達はただの旅人なのだから」


これで、この地域が少しでも平和に過ごしやすくなると良いなと思う俺達だった。

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