第56話 ベイダーという男 2

「ロナルドか珍しいな、どうしたんだ急に...」


「まぁ、いつも平和だからなこの街は、俺がお前の所に来るとしたら問題が起きそうな時ぐらいだからな。でだ、その問題が起きそうなんだ」


「そう言う事か。お前が自ら来たという事は緊急の案件なんだな」


「そうだ。近辺の村で人攫いが起きているようで、それにベイダー男爵が関わっている可能性がある」


「なんだと、ベイダー男爵か。その情報は誰が知っている?」


「俺とAランクの冒険者パーティーだな、こいつらが村から情報を仕入れて来た」


「そいつらは、信用できるのか?」


「あぁ、大丈夫だ。身なりもしっかりとしているし受け答えも丁寧だ、もしかすると貴族の子息かもしれん」


「お前がそこまで言うなら、大丈夫そうだな。

最近だがラボン伯爵様からもベイダー男爵が何か疑わしい事をしているかもしれないと、俺の所に手紙を寄こしたんだ。少し時間をかけて調べてみる必要があるだろう」


「だがなレイモンド、時間が無いんだよ」


「どいう事だ?」


「ベイダー男爵がこの街の屋敷に来ているんだよ。証拠を押さえるのに二日もない。さらわれた女性達を取り戻さないと、レイモンドお前の無策に対する農民たちの反発もあるぞ」


「そう言う事か。そうだな、この地をラボン伯爵様から任されているのは俺だからな。ベイダー男爵の好き勝手にさせていては大問題だな」


◇◇◇◇◇


ギルド長のロナルドさんと話を終えた俺達は何か策がないかと宿の部屋で話し合っていた。


「エディオン様、そう言えばマップ機能のマーカーは使わなかったんですか」


「あ~、それはね。何となく気付かれてしまうんじゃないかと、感が働いたからなんだ」


「そういう事ね。そういう感性は大事にした方が良いわ」


三人であれこれと案を出して話し合ってみたが結論にまでは至らなかった。


ギルド長とこの街の領主様に期待するしかないようだ。


◇◇◇◇◇


「どうだ、今回の首尾は?」


「へい、上玉の若い女を三人確保することが出来やしたぜ」


「そうか。怪我などはさせていないだろうな」


ベイダー男爵が、鋭い目つきで下っ端の男に問う。


男はこめかみに冷や汗を流しながら「へい、丁重に扱っておりやす」とだけ答えた。


そこへ、お頭と呼ばれるゴッサムという男がベイダー男爵の下へ歩いてきた。


「ベイダー様、女達を確認してきました」


「そうか。どうだった?」


「はい、今回は今までで一番の女達かと...」


それを聞いてベイダー男爵は薄く笑みを浮かべた。



ベイダー男爵は、ここガーネッシュの隣の街を治める領主だ。


三人兄弟の次男で、二人の兄弟を蹴落として領主になった男だった。

性格は陰湿で、容赦がなく、いずれはこの地域をまとめるラボン伯爵を裏切り貶めようと画策していた。



「たまには、ガーネッシュの街の中でも散策してみるか」


「よろしいので」


「出発は明後日の朝だ。時間は多少ある。

それに、無能のレイモンド男爵が治める街を見るのも気休めになるだろう」


ベイダー男爵は貴族服を脱ぎ、冒険者の格好をするとゴッサムを連れ立って街の中へと消えていった。



翌日......。


宿の食堂で朝食を食べた後、街の中へと出て来た俺達。


「エディオン様、今日はどうされますか?」


「取り敢えずギルドに行って、ロナルドさんから話を聞いてみよう」


俺達はギルドに入ると、直ぐに受付嬢にギルド長への面会をお願いする。

すると、直ぐにギルドの会議室へと案内された。


「やぁ、待たせたな。昨日の件だがレイモンドと話をしてきた」


「レイモンド?」


「あ~、済まん...言葉足らずだったな。この街の領主だ」


ロナルドさんの感じから察すると幼馴染みなのだろう。

目の下に隈が出来ていることから、夜中まで情報収集と話し合いをしていたと思われる。


「俺としてはレイモンドを助けてやりたいんだが、貴族同士の部分は俺でも手出しは出来ない。なので、冒険者の格好をしている奴らの方を何とかしたい。

それでだ、攫われた女性たちの特徴をお前達で調べて来てほしいんだ」


「分かりました。それで、村の位置は分かるんですか」


「あぁ、地図を用意しておいた。この地図を使ってくれ。

それから、この案件は極秘事項の扱いになっているから、人に話さないように気を付けてくれ」


「了解です」


そして直ぐに俺達は行動に移った。

今日一日と、明日の半日位しか時間が残されていないからだ。



その日の夕方......。

各村を周り、女性たちの特徴を聞き出してきた俺達はギルドの会議室にいた。


「済まないな。これが女性たちの情報だな」


「そうです。全部で三人ですね。どの村でも、村で一番の美人と言っていました」


「と言うと、随分と前からこの周辺で活動していたという事か」


「そういう事になりますね」


「俺としたことが。平和ボケをしていたようだな」


ロナルドさんが自戒の念を言葉にした丁度その時、会議室のドアを叩く音がした。


「どうした、入れ」


「遊興地区で冒険者が喧嘩をしていると連絡が入りました」


「何だと。どこの馬鹿野郎だ、そいつは...」


「それは、分かりません。直ぐに来て下さいとのことです」


「済まん、一緒に来てくれ」


俺達はロナルドさんと、その現場に向かうのだった。

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