第55話 ベイダーという男 1
街へと戻り幌馬車をギルドに返却すると、受付嬢にギルド長への面会をお願いした。
「待たせたな。俺がこのギルドのギルド長ロナルドだ」
「Aランクの冒険者のエディオンです。そして、ソフィア、ヘザー、シャルです」
挨拶を済ませ、握手をする。
「それで、何か相談があるんだったな」
「はい。ウルフの討伐に行った村での話なんですが、見張り役の男性から近くの村から女性が数人さらわれてしまったと聞いたもので...」
「そうか。その話ほかには誰か知っているか」
「いえ、帰りがけに聞いたばかりですから」
ロナルドさんの反応からして、ギルドの方でも把握はしていたようだ。
ロナルドさんと話し合った、翌日......。
俺達は、ガーネッシュの街を散策する事にした。
表向きは散策だが、実際には怪しい風体の人物が居ないか探すことが目的だ。
「ん~...美味しそうな甘ーい匂いが流れてます」
「どこかで、そろそろ休憩しようか」
「甘ーい匂いの元は、あそこじゃないかしら」
ヘザーさんの指差した方を見ると、数台の屋台が並んで商売をしていて、甘い匂いは確かにその屋台の方から流れて来ていた。
その屋台で薄い生地で包まれたお菓子?を四人分買い、屋台の前に置いてあったベンチに座ると食べ始めた。
ソフィアは一口食べるごとに美味しい甘ーいを繰り返し言葉にして、ヘザーさんは嬉しそうに食べているのだが言葉ではなく体を震わせていた。
ただ、俺とシャルは淡々と食べていた。
そんな中、とある集団が目に留まった。
貴族の馬車とその護衛達だ。
一見、普通のように見えるが馬車の周りに騎士の護衛が一人も居ないのだ。
通常は馬に騎乗した騎士が何名か帯同している筈なのだが、護衛には冒険者の格好をしたものしかいなかった。
騎士が、わざわざ変装してまで護衛をやらないだろうし。
それと、その護衛のリーダーであろう男は雰囲気自体が冒険者の物ではなく、いかにもそれと分かるような雰囲気があった。
俺は、お菓子を食べて満足している二人に、周りの景色を眺めるふりをして馬車とその周りの男達を見て記憶するようにお願いした。
気になる馬車が通り過ぎた後、俺達は彼らの素性を知るためにギルド長に会いにいく事にした。
「そうか。そいつは、ベイダー男爵だ。
このガーネッシュの街に、別荘として屋敷を持っているんだ。
不定期にやって来るんだが、二日以上滞在したことはないんだよ」
「それで、護衛の男達は?」
「そいつらについては、この街のギルドに所属しているわけじゃないから情報が無いんだ。ベイダー男爵のお抱え冒険者という事だろう」
「お抱え冒険者ですか?」
「ただな。気を付けなくてはいけないのは、そいつらが本当に冒険者かどうかだ。
冒険者の格好をしていると、みんながそう思いがちだ。
そして、冒険者の格好を利用して悪さをしている奴もいるから気を付けるんだぞ。
見極めが大事だぞ」
「参考までに、ロナルドさんの考えを教えてください」
「......そうだな。
一番は、そいつが身に纏っている雰囲気だな。
善悪で人の雰囲気が決まるからな。
そして、普段の目つきだな。
善人は普段は優しい感じだし、いざという時は使命感のある感じだ。
だが、悪人は普段から周囲の状況を気にするから、目つきが悪くなる。
本人が誤魔化そうとしても、年月が経てばたつほどごまかせなくなる」
「なるほど。理解しました。
そうすると、今回の件をあてはめると拙い状況ですね」
「人攫いと関係があるという事か?」
「はい。俺は、そう判断します。
この街での滞在期間が二日以上はないという事と、貴族の特権で門での審査が緩いという事です。衣装箱等に入れられてしまえば、尚更のことですから」
「だが、この街に攫ってきた女性達を連れては入れないぞ」
「それも、門番がグルだったら関係無いでしょう?」
「あ~、そういう事か。ギルドにとっては、管轄外の事だからな。
エディオンの指摘する通りだな。
この後、俺はこの街の領主と話をしてくる。話が決まるまでは、手出しは無用だぞ」
「はい。分かっていますよ」
◇◇◇◇◇
「おい、お頭が着く時間になるぞ」
「おぅ、分かった」
俺達はしっかりと牢の鍵が掛かっているのをかくにんした後、急いで地下から屋敷の玄関の方へと向かった。
この屋敷の中には使用人などは一切居ないので、お迎えは俺達の役目だ。
玄関の鍵を開け、大きな玄関扉を開く。
そして、屋敷入口の門の扉を開けると、お頭たちの到着を待った。
「おい、馬車が見えて来たぞ」
俺達は門の外に出て左右に別れて立つ。
俺達の前を馬に跨るお頭が先頭で進み、ベイダー男爵様の乗った馬車が後に続く。
その後をその他の兄貴達の乗る馬が通り過ぎた。
俺達は、周りにこちらを伺う奴らが居ない事を確認してから屋敷の門を閉じた。
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