第38話 穀倉地帯の魔物

旅は順調に進み山岳地帯へとやって来た。


「結構険しい山道になりますね」


「気を付けないと片側は崖だから谷底に真っ逆さまだね」


それでも、何か所かは人の手によって造られた休憩所が設けられている。

馬への負担も尋常では無いから当然のことだろう。

馬が疲れはて馬車の重みでブレーキが効かずそのまま谷底へ直行もあるからだ。


そんな、山岳地帯を馬になるべく負担を掛けないように進んで行く。



山岳地帯に入り二日目、中間地点の谷底の水飲み場へと到達した。


ここで水の補給と、馬達の休息を取り少し坂を登った所にある野営地で一晩を過ごすのがこの山岳地帯での常識らしい。


ここに来る途中の休憩所で、商人に教えて貰った情報だ。


その後も、山岳地帯では何事もなく三日後のお昼時、無事にダウニーの街に到着した。


アーネスト領とボトムズ領の領境は双方の山岳地帯の入口となっていて、ソフランの街とダウニーの街で入街する時に厳しく審査する事となっている。

その代わり出街する時は、問題を起していなければほぼフリーとなっている。


まぁ、俺達は問題なく街に入る事が出来たのだが。


街に入るとレンタルしていた馬達と幌馬車を冒険者ギルドへ返しに行き、ついでに、お薦めの宿をギルドの受付で聞いて来た。


「エディオン様、今回は珍しくギルドで宿を紹介して貰ったんですね」


「流石に座ったままだったからね、宿を探して歩き回るのが億劫になってしまったんだよ」


そして、ギルドで紹介して貰った宿に到着した俺達は翌日の朝まで身体を休めたのだった。



翌日......。


この五日間で消費した食材と調味料を補充する為に市場へと出掛けたのだが小麦だけが手に入らなかった。


穀物を扱っていた店主に聞いたところ、穀倉地帯の街とこの街を繋ぐ街道沿いに魔物が住み着いてしまい商隊が移動できないので一時的に供給が止まっているとの事だった。


「エディオン、どうするの」と、珍しくヘザーさんが聞いて来る。


「取り敢えず、冒険者ギルドで状況を聞いてみようか」


俺達は市場を後にして、ギルドへと向かった。



ギルドの受付でギルドカードを受付嬢に提示すると穀倉地帯へと続く街道の魔物の状況について聞いてみた。


「済みません、市場で穀倉地帯の方で魔物が出ていると聞いて来たんですが、状況はどうなっていますか」


「はい、そのことなんですが。いま、Aランクのパーティーを中心に調査に行っていまして、今日の午後には情報が入ってくると思います」


「分かりました。では明日の午前中また来てみます」


ギルドの方で調査には出ているようなので、この日は街中を散策する事にした。


飲食街で昼食を済ませ午後も散策をしていると、大通りを慌ただしく歩いて行く集団があった。


格好から判断して調査に出ていた冒険者達だろう。


「エディオン様、あまり良い状況には見えませんでしたね」


「そうだね。でも今はまだ、俺達が何か出来る状況では無いから」


「明日には詳しい情報が分かるんでしょう、今日はのんびりとしておきましょう」


俺達の手元には情報が無いので、当初の予定通り明日まで待つことにした。


◇◇◇◇◇


調査に出ていた冒険者達は焦っていた。


「おい、いくら俺達がAランクの冒険者パーティーでもこの数は相手に出来ないぞ」


「至急、ダウニーの街に戻って報告の上、討伐隊を組んで貰わないといけないわね」


「此奴らがこのまま此処にいて移動しないで居てくれることを祈ろう」


「Aランクの冒険者パーティから斥候を二人残して、後は報告に戻るぞ」


流石にAランクの冒険者パーティの判断は迅速で行動に移すのも速かった。


◇◇◇◇◇


次の日の明方......。


街中に警告の鐘が鳴り響いていた。


「くそっ、移動しやがったか」


ギルド長が声を荒げる。


前日の夕方には、Aランクの冒険者パーティから調査報告がギルドに報告され討伐隊を組む手筈までは夜までの間に終わらせていた。

だが、想定よりも早く魔物が移動を始めてしまったのだった。


穀倉地帯へと続く街道側の門内には、冒険者達とこの街の騎士団の騎士達が続々と集まって迅速に体制を整えていた。


「あとどれ位で、街に到達する」


前線に出て来たギルド長が斥候に声を掛ける。


「あと、1時間程です」


「騎士団長、聞いた通りだ。街中は頼んだぞ」


ギルド長は隣に立っていた騎士団長の声を掛けた。


「街中は任せて於け」


ギルド長と騎士団長、二人はお互いの検討を祈って握手を交わした。


「よし、冒険者はAランクの冒険者パーティを先頭にランクごと別れて位置に就け、周りとの連携を忘れるんじゃないぞ」


ギルド長の𠮟咤激励を受けて、約100名の冒険者達が門の外へと動き出した。



街に向かってくる魔物は、ゴブリンを先頭にその上位種、オーク、オーガ、ウルフなどであった。


その数、合わせて300体という処だろう。

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