第36話 視線を向ける者
翌日......。
宿の食堂で朝食を済ませた俺達は領都の市場へと足を運んでいた。
村でかなりの食材などを提供してきたので、買い溜めをしておく為だ。
「ウエスフィールド領に比べてアーネスト領は物価が高いね」
「少し考えて購入しないといけませんね」
俺とソフィアは、どういった物を買うか相談しながら購入していく。
ヘザーさんはこういった買い物が初めてなのでソフィアの横で真剣に観察している。
結局、使う予定の金額の割には数量の確保は出来なさそうだった。
「日を改めて違う市場も見た方が良いかも知れませんね」
「そうだね。今日はここまでにしておこうか」
午前中を市場で過ごした俺達は食事をするべく飲食街の方へと向かった。
「さて食事も済ませたし、午後はどうしようか?」
「それなら、通り道で見かけた劇場での観劇はどうですか」
「私も、興味があります」
「分かった、入場券が買えるかどうか判らないけれど取り敢えず行ってみようか」
女性陣二人の希望を叶えるために劇場へと歩き始める。
そして、劇場前までやって来るとかなりの人たちが入場券の購入窓口に並んでいた。
こういう光景は日本でもあったなぁ...と、俺は感慨深く思い出していた。
その俺の隣では、ソフィアとヘザーさんが演目の題名を見て女性トークに花を咲かせていた。
購入した入場券を手にエントランスからホールの方へと歩いて行く。
そして、ホール入口で入場券をアテンダントの人に提示すると席の方まで案内してくれた。
俺は女性陣が静かに観劇出来るようにとボックス席を購入したので二人はとても喜んでいた。
それに、観劇に訪れていた客層が8割が女性だったから俺も静かに観劇したかったのだ。
劇は『サンローランで朝食を』という題名で貴族と平民の恋物語だった。
二人の身分を超えた恋愛物語で色々な苦難を乗り越えていき、最後はハッピーエンドで終わり幕が下りた。
幕が下りた時、俺の隣では女性陣二人がハンカチを手に目頭を抑えながら感動の涙を流していた。
女性はこういう話に弱いよね...と思いながらも二人に感受性があることにホッとしていた。これまでもそうだが、これからも人や魔物との戦闘があると思うのでこういう感受性を二人には無くさないで欲しいと思う。
さて、それとは別に気になる視線をどうにかしたいところだが今日の所は放っておく事にしよう。
次の日......。
俺達は、街の中心ではなく外壁に近い方にある市場へと足を運んでいた。
「今日は良いものが見つかると良いですね」
「そうだね。何か掘り出し物があるといいね」
今日は訪れている市場は宿の女将さんに教えて貰った市場でリーズナブルな価格で購入する事が出来ると聞いて来た。
そして、女将さんの薦めてくれた通りに良い品物を予定通り買うことが出来た。
午前中を買い物に充てて、市場からお昼の食事をする為にこの地域の飲食街に向かっている時だった。
路地横の古びた建物の中から十数人の男達が出て来て俺達の周りを囲うように立ち塞がった。
昨日感じた視線の人物ではないが、関係者ではあるだろう。
「おい、ちょっと面かせや」
見事なまでの外道だ。
「俺達は、お付き合いするほど暇では無いんですが」
「つべこべ言わずに、いいからこっちこいや」
まぁ、人の居る通りでやり合っても迷惑になるので取り敢えずはいう事を聞いておく。
リーダーらしい男が歩き出すと囲っている男達が俺達を誘導するように動き出した。
俺は二人に従うように目線で合図を送り、俺はマップを使って男達全員にマーカーを当てた。
路地に入って行く男の後ろを着いて行くと、先程の古びた建物の裏庭へと入って行く。
俺達も囲まれたままその裏庭へと入った。
「俺達に何か用事でも」
「そこにいる、女二人を差し出しな」
男がそう口にした瞬間、俺は「stun《スタン》」と魔法名を口にした。
ドサッ..ドサッ..ドサッ!
その場で男達全員が崩れ落ちる。
すると、古びた建物の表側の方へと駆け出していく足音が建物の中から聞こえた。
まぁ、既にマーカーを当てて置いたからいいかな。
今回は、泳がせて置こう。
「エディオン様、この人達はどうするんですか」
「そのままでいいかな。その辺のゴロつきだから戦闘力はないし放っておこう」
俺達は古びた建物の裏庭を出ると、昼食を食べる為に再び通りを歩き始めた。
◇◇◇◇◇
「残念ながら失敗しました」
「何だと、たかが冒険者だろう」
「いえ、多分...高ランクの冒険者かと」
「・・・・・・」
「見た目の歳に、惑わされたのでは」
「分かった。もう下がっていい」
ふぅ、旦那様のこの性癖は治らないのでしょうね。
そろそろ、潮時のような気がします。
これまで、表に出ないように頑張って来ましたが、彼等からはこれまでとは違う特別なものを感じました。
ゴロつきに絡まれても動じる事なく対処していましたからね。
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