第24話 悪意を見極める
エディオンがウエスフィールド領内からアーネスト領へ入った日の夕刻。
エディオンの実家の方では、ひと騒動が起きていた。
それは何故かというと......。
騎士団の団員達がエディオンと一緒に居るソフィアの事を報告せずに黙っていたからだった。
団員達は領主の家族に知らせるとエディオンが一度呼び戻されてしまうだろうと考え、エディオンが領地を出てから報告する事にしていたからだ。
「あなた...一体どういう事ですか‼」
初めて経験するエレンの鬼のような剣幕に領主のグレゴリーは肝を冷やしていた。
「いや~エレン、それは私にも分からないのだよ」
そう答えるしか無かったのだが...
「聞けば騎士団の人達が知りながら黙っていたようでは無いですか‼」
「でも、私もつい先ほど騎士団長のスコットから話を聞いたばかりだし...」
その二人のやり取りを、傍に居ては危ないと遠目に見ながら静観している二人の兄達。
「アンソニー兄さん、騎士団の人達も今まで良く隠し通したよね」
「それだけエディオンが慕われていると言う事だろうな」
「まぁ、母さんのあの剣幕を見ればそれも納得か。はぁ~」
二人の兄は、騎士団の人達が隠し通した理由を何となくではあるが理解したのであった。
◇◇◇◇◇
領境の検問所を抜けて俺達の馬車はハミングの街を目指して街道を南下して行く。
ロッドさんの話だとハミングの街までは村は一つも無いそうだ。
治安が悪すぎて村を造れないらしい。
何とまぁ勿体ない話である。
この辺の土地は豊かな筈なんだがなぁ。
幌馬車の中で話を聞きながら過ごしていると、御者台の開けた幌の空間から空き地のような処へと入って行くのが見えた。
「最初の野営地までまだ半分の距離だからここで休憩するのよ」
とアリシアさんが説明してくれる。それは、馬達にも休息を与える為だろう。
俺は幌馬車を降りて前方に行くと馬達を解き放ち、馬達用の桶其々に飲み水と飼い葉を入れておいた。
そして、ここまで座りっぱなしで硬くなった身体を解すために俺は軽い体操を始める。その横では、ソフィアも同じ様に体操をしていた。
40分程休息をして、再び野営地に向かって移動を始めた。
そして、ここから先は警戒が必要という事で、先頭を行くジェシカさんの荷馬車にはロジャーさんが御者台に同乗している。
俺達の幌馬車はロッドさんが手綱を握りその横にアリシアさんが座って警戒していてクレアさんは回復役なので幌馬車の中だ。
俺とソフィアはその幌馬車の中で探索魔法を使い索敵をしていた。
「ソフィア、後の方はどう」
「後の方は今の所大丈夫です」
「ありがとう、ソフィア」
俺達二人は道中注意深く索敵を続けていたが、野営地に到着するまでの間はこれといった反応は無かった。但し、これは盗賊達に限ったことであって獣や魔物達は普通に接近はしていた。
ただ、殺気を込めた威圧を放って威嚇をし、馬車の方へと近づいて来ないように調整はしておいたので必要以上には近寄っては来なかった。
もしかすると、盗賊達にも有効に働いていたのかもしれない。
そんな考察をしているとソフィアが声を掛けてきた。
「大丈夫ですか」
「あっ、ごめんごめん。チョット考え事をしていたんだ」
するとソフィアは「そうですか、それなら安心ですが」と言いながら温かい飲み物の入ったカップを手渡してくれた。
野営地に到着をして腹ごしらえもして、見張り役を始めたのばっかりなのに考え事をしていては対応が遅れてしまうと思ったので気を引き締める。
「夜中に襲ってくるかな」
「まぁ、確率は低いでしょうね。夜が更けるほど魔物の行動が活発になりますし彼らにとっても命の危険が一気に跳ね上がりますから、明方からお昼前が要注意ですね」
今の所、夜行性の魔物が一番の脅威と言う事だろう。
深夜2時、テントの中で横になっているとアリシアさんに起こされた。
如何やら多数の魔物が近寄って来たようだ。
俺とソフィアは急いで装備を整えるとテントから出て焚火の側に居るロッドさん達の下に向かった。
「状況はどうですか」
「どうも様子がおかしい。魔物除けが効いている筈なんだが立ち去る気配がない」
通常なら近寄って来ても魔物除けの効果で立ち去る。
特にアーネスト領に入った事で、通常よりも更に強力な効果の物を使っているからだ。
「ロッド、魔物使いが関与しているかも知れないな」
「その可能性が高いか」
「え~と、魔物使いとは...テイマーでは無いんですか?」
「俺達の言う魔物使いとはエディオンの知っているテイマー(魔物使い)とは少し意味が違うんだ。こいつは、強力な魔法陣を使って魔物の上位種を支配して強制的に命令に従わせるんだ」
「随分前にその事に気付いて、冒険者達でその魔物使いを捕まえようとしてはいるんだが、魔物を倒した後では逃げてしまっているので中々捕まえることが出来ていないんだよ」
ロッドさんとロジャーさんが俺とソフィアに説明をしてくれる。
「本当に厄介な相手よね」
「今夜は特に見目麗しい女性が4人も居るからかしら数が多いのよね」
クレアさんの言葉にロッドさんが何か言おうとしていたが思い留まったようだ。
そう言えば、戦闘職の男は3人しか居ない。
だとすると、検問所の所にいたアーネスト側の騎士が関与していて情報を与えているのが濃厚なようだ。
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