第9話 魔法の実習が始まる

学園での魔法の授業が始まり半月が経過した。


「皆さん、今日の授業では実際に魔法を行使する訓練を行います」


そう言うと、先生が蠟燭と燭台を配り始めた。


「では、説明します。いま皆さんに配った蠟燭に火を点けて貰います。これは日々の生活の中で使用する着火と言う魔法の訓練になります。

火を点ける際には、蠟燭の芯の先端に集中して魔法を行使して下さい。

その他の手順は、これまでの授業の中で説明をしてありますので思い出しながらやってみて下さい。

そして、上手く行使できない場合は恥ずかしがらずに先生の方へ相談して下さい。

いいですね! それでは、皆さん始めて下さい」


クラスメイトたちが、真剣な表情で蠟燭に火を点ける訓練を始めた。


俺は、直ぐにでも蠟燭に火を灯す事が出来るのだが、周りの状況を判断してから着火する事にしていた。


取り敢えずは振りだけはして置こうと、俺が蠟燭と睨めっこをしていると隣の席のユーナさんが声を掛けてきた。


「ねぇ、エディオン君は点けられそう」


「ん~、どうだろうね。出来そうな気はするんだけれど、今日が始めての実践だからね」


「エディオン君でもそうなんだ。てっきりスパッとやっちゃうかと思っていたのに。私はダメそうだわ」


「簡単に諦めないで、やっていれば出来るんじゃない。ほら、ユーナさんも授業の内容を思い出しながら頑張って」


そして、15分ほど時間が過ぎたが、クラスメイトはまだ一人も成功していなかった。

その状況を見て、先生が一人づつに助け船を出すことにしたようで、前の方の席から順番に見本を見せながら説明を始めた。


すると、暫くして......。

ぽつぽつと、着火に成功するクラスメイトが出始めたのだった。


俺は、成功するクラスメイトが出始めたので、先生が自分の所に来る前に着火を成功させておいた。


「あ~、エディオン君は一人で着火出来たんだね。私も頑張る」


隣の席でユーナさんが、気合を入れ直したようだ。


そして、先生がユーナさんの所に回って来たと同時に着火に成功した。


「やった~、一人で出来た~」


蠟燭に火が点いた事を確認した先生は「ユーナさん、良く出来ましね」と褒めていた。


まぁ、そのついでに俺も褒められはしたのだが、それよりも俺にとっては既に魔法を使用出来るという事を誤魔化せた事の方が大義だった。



それから、一週間後......。

学園での実習が始まり魔法をある程度は自由に行使出来るようになった俺は、久しぶりに女神様からの依頼を受けることになった。


領地の西側に拡がる森の中。

人知れずひっそりとした場所にある泉の湧水が急に枯れてしまったようで。

その泉に住んでいらっしゃる水の精霊様から女神のアイネ様に対して調査をして欲しいと嘆願書が送られて来たらしい。


そこで、女神様は直接その場所に干渉する事は出来ないので、俺に調査をして欲しいと依頼をしてきたのだった。


学園が休みとなった日の朝、俺は父様に「図書館へ行って来ます」と言付けて図書館へ行き中にいるという既成事実を作ると、図書館の中庭となっている庭園の人気の無い場所へ行き、人が居ない事を確認してから森の中の泉の畔へと転移した。


転移する座標は、水の精霊様が目印になって下さったので直ぐに特定することが出来た。そして俺が泉の畔に到着すると、確かに湧水が止まり水量の減った泉がそこにはあった。その水量の減った泉の水際まで、俺が足を進めると直ぐに精霊様が顕現して下さった。


「あら、可愛い男の子ね。貴方がアイネ様が仰っていた子ね」

「はい、エディオンと言います」


「私は、この泉を管理している水の精霊ローラよ。よろしくね」


「ローラ様ここで、魔力による解析魔法を使用しても大丈夫ですか」

「えぇ、大丈夫よ」


俺はローラ様から、許可を得られたので地中深くまで解析魔法を発動した。


5分後、解析を終えた俺にローラ様が声を掛けてきた。


「エディオン、何か分かったの」

「はい、ローラ様。この泉につながる地下水脈に、多分ですが地中に住む魔物が穴を開けてしまったようで、地下水の流れがそちらの方へ変わったのが原因だと思われます」


「じゃぁ、その穴を閉じれば大丈夫なの」

「穴を閉じても、また開けられてしまうでしょうね」


「そう、どうしようかしら。このままだと、泉の水が枯れてしまうわ」

「新しい水脈をこちらの水脈につないでしまう方が現実的だと思います」


「それは、出来そうな事なの」

「はい、大丈夫です」


俺はローラ様に魔力の使用をもう一度許可して貰うと、解析魔法と土魔法を平行使用して探し当てた水脈をこちらの水脈へと導いた。


すると、つながった水脈からの水で、泉の水量が少しづつ増してきた。


「ローラ様、以前の流入する水量に調整はしましたがよろしいですか」

「えぇ、大丈夫よ。ありがとうエディオン」


こうして、役目を終えた俺は図書館の中庭へと転移の魔法で戻って来たのだった。

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