第8話 日常に潜む魔物

キャーッ!


休日の昼下がり、屋敷の厨房から大きな叫び声が聞こえてきた。


父様は所用で屋敷の外へ出掛けていて、いま屋敷の中には居ないので俺が厨房へと顔を出してみた。


すると、厨房には既に執事長のカインが来ていた。


俺は、何があったのか聞く為にカインに声を掛けてみた。


「カイン、どうしたの...何かあったの?」


「エディオン様、実は大きなネズミが1匹、厨房の中で出たみたいなのです」

「それは、いけないね。それで、そのネズミはどうしたの?」


「メイドが騒いだ時に、下水管の中へ逃げて行ったみたいなのです」


俺は、カインから聞いた話を基に探索魔法を使ってネズミの痕跡を追ってみた。


すると、屋敷から外の下水管に繋がる部分で、侵入を防ぐための柵が壊されている事が分かった。


俺はカインに再び声を掛けて、一緒にその場所に行って確認して見ることにした。


「カイン、屋敷の外の下水管と接続されている場所に行ってみよう」

「はい、エディオン様」


俺とカインは、その場所へとやって来た。

そして、そこには土木関係の使用人と警護の騎士二人も俺達と一緒に来ていた。


カインが、使用人に接続部分を隠している扉を開けるように指示を出す。

使用人が扉を開けて確認したところ、やはり接続部分の柵が壊されていたようだ。


「やっぱり、ここから入って来たようだね。カイン、応急処置は出来そうかな」

「はい、大丈夫でしょう」


カインが、応急処置をさせる為に再び使用人に指示を出した。


俺は、作業中の使用人達に怪我などをさせたくはないので、警護の為に騎士の二人にはその場に残ってくれるようにお願いをしておいた。



応急処置の作業を任せて、再び屋敷の厨房へと帰ってきた俺とカイン。


厨房から外に出る前に、後で消毒を施すからそのままの状態にしておくようにと指示を出していたので帰って来たのだ。


「料理長、あれから誰も厨房には入れていないよね」

「はい、エディオン様。厨房の中へは一人も入れておりません」


厨房横の控室の中で待機していた料理長をはじめ、その他の料理人とメイドを光魔法と水魔法を掛け合わせた複合魔法を行使して殺菌と消毒を行った。


「みんなは、まだそこで待機していてね」


俺はそう声を掛けると、厨房の中へ一人で入り同じ手順で殺菌と消毒を行った。


「みんな、もう入って来て大丈夫だよ」


俺が声を掛けると、厨房横の控室の中で待機していた全員が、厨房の中へと入って来た。


「エディオン様、誠ありがとうございました。これで、早速夕食の支度にとりかかれます」


料理長からの言葉を聞いて、俺とカインは厨房を後にした。



夕方、4時......。

外での所用を終えて、父様が屋敷へと帰って来た。


その15分後、父様の執務室には俺と執事長のカイン、それに加えて土木関係の使用人と帯同していた騎士の二人が集まっていた。


そして、父様が留守中の屋敷の中で起きた事柄を父様に対して報告を始めた。


「父様、本日のお昼過ぎに厨房に1匹のネズミが現れるという出来事がありました」

「そうか。それは、どんな状況だったのかな」


「それについて、私の方から報告させて頂きます」


執事長のカインが、俺の言葉を引き継いで父様に詳しい状況を説明していく。


「そうか。それで、調査した接続部分はどうなったんだ」


「それは、私の方から報告させて頂きます」


土木関係の使用人が、応急処置について父様に説明をした。


「了解した、作業の方はご苦労だった。騎士の二人からは、何か報告はあるか」


「我々の方は、特にはありません」


「分かった。では、執事長のカイン以外は下がっていいぞ」


父様の言葉を聞いて、俺と使用人と騎士の二人は執務室を退出した。



そして、エディ達の居なくなった執務室の中では......。


「それで、カイン。お前から見て今日のエディはどうだった」

「はい、それは素晴らしく的確な判断と指示の出し方でした」


「それは、二人の兄よりもか...」

「お二人は王都に居られるので、ここでの判断は出来かねますね」


「じゃ、二人が居ないとしたらどうだ」

「もし、エディオン様が長男との条件を付けるならば、素晴らしい領主になられる器で有りましょう」


「それ程か...」

「はい、魔法の才覚もさることながら、剣技の方も基礎訓練をしっかり取り組んでいらっしゃいますので、あの年齢でかなりの腕前だと騎士団員達からも聞こえてきています」


「そうか。ならば、二人の兄には益々頑張って貰わないとだな」

「はい、さようでございますね」



◇◇◇◇◇


「へっくしゅん!」

「急に、どうしたんだ兄さん。風でも引いたか」


「そんな訳ないだろう」


「へっくしゅん!」

「お前こそ、どうしたんだ。悪い噂でも立てられているんじゃないのか」


「「へっくしゅん! へっくしゅん!」」


◇◇◇◇◇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る