第4話

 島を出てからの大輝は、まさに道なき道を這って進んでいるような状態であった。そもそも、島を出て成功したいという強い気持ちはあったが、具体的に何がしたいかまでは考えていた訳ではなかった。それに現実問題、大輝ができる仕事は限られていた。よく言えば「誰にでもできる簡単な仕事」、悪くいえば「使い捨ての仕事」だった。高校へ行き、大学へ行き、そして就職する。そんなレールをただ進んでいく人間たちを小馬鹿にしながらも、本当は羨ましく感じていた。

 父親が用意していたレールを脱線しない方が楽だったのじゃないか。

 そんなことさえ思ってしまうことがあった。しばらくは、這って進むのが精一杯で後ろなんて振り返る余裕はなかった。

 大輝が20歳になって間もない頃に、転機が訪れた。

 たまたま見ていたテレビ番組で、若い女性がこんなことを言っているのを耳にした。

 「友だちとか正直面倒くさくていらないけど、やっぱ買い物とか1人だと恥ずかしいんで、誰でも良いからいるときだけ借りられた楽なんだけどね。必要なときだけでいい。必要なときだけ」

 大輝が始めから都会に住んでいれば、若い茶髪の女の子がなにか言っている、くらいにしか感じなかったかもしれない。だが、このとき大輝には、島を出てからずっと抱いていた違和感の原因がわかった気がした。

 都会の人間は孤独を求めるくせに、体裁は保とうとする。

 それが島の人間たちとは違っていた。むしろ、彼らはいつも孤独になることを恐れていたように、大輝には思えた。

 実際、大輝自身も都会で暮らしはじめ、孤独を求めていたし、それで十分生きていけた。島を出てから人に裏切られることはあっても、助けられることなんてなかった。もちろん、そうなるのには、自分の生き方にも原因があることはわかっていたが。

 そして、社会の価値観もまた、変わりつつあることに大輝は気がついた。たとえば、それは大輝が歯を食い縛りやってきた仕事に顕著に現れていた。大輝のような手に職もなく、専門的な知識もない人間の多くは、相変わらず「使い捨ての仕事」を転々としていた。だが、(ありきたりの言葉でいえば)いわゆるエリートと呼ばれるような人たちも、より条件の良い所を求めて仕事を転々とすることを希望するようになった。

 短期間だけ働いてたくさん稼いで、思う存分好きなことに時間とお金を費やし、また短期間だけ働いてたくさん稼いで……。

 そんな人たちを、社会は称賛するようになっていた。誰がいいだしたか、彼らは、「勝者の渡り鳥」と呼ばれるようになった。

 永続的なものよりも一時的なものに価値を見出だすようになった社会にふれ、大輝はふと思った。

 人間関係もそれで良いよな……。

 

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