第2話

そこから一週間くらいたった。僕は翔くんと会わなかった。


僕は窓から翔くんの家を見た。大きな家。電気がついてるからまだ引っ越してはいないみたいだ。


「裕也、最近翔くんって子と遊んでないみたいね」母親が言った。


「翔くんもうすぐ引っ越すんだって、海外に」


「じゃあ寂しくなるね。ちゃんとさようならした?」


僕はハッとした。彼にさようならと言ってない。


「お母さん! 一緒に来て!」


僕は母親と一緒に児童公園に行った。


すると翔くんがブランコに座っていた。


目が合い、僕は翔くんのそばに行った。


二人しばらく黙っていた。


僕が切り出した。


「さよなら」


「えっ?」


「さよならって言ってなかったから」


翔くんは笑って言った。

「そうだね、さよならだね」


「だけどまた会えるよ」


「でも、海外に行くって」


「すぐに戻ってこれる」

翔くんは言った。


「ゆうちゃんと一緒に遊べて楽しかった」

翔くんは言った。


僕は涙が出そうになった。

「僕も楽しかった」


「ずっと翔くんと一緒だと思ってた」


「小学校も一緒だって。一緒に学校に行くんだって。一緒に学校から帰るんだって。そして家についたらランドセルを置いて一緒に遊ぶんだって」


「ずっとそれが続くと思ってた」


「また会えるよ。また会える。今日だって君が寂しそうだから会いに来たんだ」

翔くんは言った。


「最初に会った時も君が一人だったから遊ぼうって思ったんだ」


「でも君は新しい友達を作って……その友達と遊んで……だから、僕はもういらないんだ」


「新しい友達を作るたびに僕のことは忘れてしまう。それでいいんだ」


「忘れないよ」僕は答えた。


「良いんだ。忘れてくれても。だって僕たちは親友だから」


「親友は木の上から見守るのが親友なんだ。だから君は僕のことを忘れてもいい。だけど僕はずっと君を見守っている」


「君が辛いときにまた会いに来るよ」彼は笑って言った。


翔くんの言ってる言葉は難しかった。でも翔くんの思いやりを感じた。

僕は言った。


「約束だよ! 約束! また絶対会おうね」

瞬くんは微笑んでいた。


「また出会えた時きっと全部思い出すよ」


「君が辛いときは僕には分かるから」


「君に新しい友達が出来て良かったよ」

そう言って彼は微笑んだ。


忘れたくない、そう思った。

そして言った。

「写真撮ろう」


「えっ?」


「写真を撮ったら絶対忘れないよ。絶対忘れないようにする」


僕は無理矢理彼の手を引いて家まで戻ってきた。


「お父さんカメラある? 写真撮って!」


「なに? 急に。あるけど、なんの写真撮るの?」


「みんなが集まった写真!」


「集合写真か……ま、いいか撮ろうか三脚用意するから玄関で待ってて」


僕たちは玄関で待っていた。遅れて父親がテキパキと三脚にデジカメを載せてセッティングした。


「はい、チーーズ!」カシャッ!


「撮れたぞ。今確認するね」


父親はデジカメのディスプレイを確認した。


「裕也なんだそのこの世の終わったような顔は」父親は笑っていた。


僕は必死に笑顔を出そうとしてたが無理だった。


「写真ちゃんとプリンターで印刷するからまた後で渡すよ」父親は言った。


僕は「写真きっと渡すよ」と翔くんに言った。


「ありがと」翔くんは微笑んだ。


「楽しかったよ。じゃあまた会おうねバイバイ」翔くんは手を振って家に帰った。


写真は渡せなかった。


「裕也! 今日小学校の初めての登校日じゃない。ちゃんと準備した?」


「大丈夫!」


実は大丈夫じゃなかった。何個か忘れ物をした。


「裕也くん。今日学校が終わったら一緒に遊ぼう」


学校の友達が出来た。そして遊ぼうって誘われた。


「遊ぼう。遊ぼう」僕は答えた。


「友達連れてきてもいい?」僕は言った。


「誰?」


「えーーんーーと……誰だっけな……」


学校の友達は笑っていた。


「小学校に入る前に一緒によく遊んでいて……誰だっけな」


学校の友達はケタケタ笑っている。


友達は言った。


「名前、思い出したらその子も誘おう!」


僕は学校の友達を少しずつ増やした。


そして友達ができるたびに彼のことを忘れた。


ある日僕は思った。


「これ以上忘れちゃダメだ」


僕は昔の思い出のあらゆるものをお菓子の箱に入れた。彼に関するもの全部……彼との……もはや名前が思い出せない……写真も密封して入れた。


そして思い出せるだけの彼の思い出をメモに残して入れた。


「そうだ。全部忘れて捨てちゃうかもしれないから庭に埋めよう!」


僕はゴミ袋を何重も重ねて庭にタイムカプセルを埋めた。


埋め終わった。


僕はすべてを忘れた。



「あれ? 隣の家の人ってどうしたの?」


小学校高学年になった時僕は母親に聞いた。


「どうしたって?」


「ほら家あったじゃん。大きな家が」


「家? 隣に? 隣ってずっと前から空き地よ」


「あれ?左隣に家なかったっけ?」


「何言ってるの。あなたがここに引っ越して来たときからずっと空き地よ」


「そうだったっけ」


「そうよ」


そうか、なにか大きい家が近くにあった気がするのは気のせいだったんだな。


「あーーなんか昔のこと思い出しちゃった!」母親が切り出した。


「あなたが小学校に入る前、一人で壁に向かってボール投げてて、でもそれを楽しそうに遊んでて……」


「辛かった……私達の都合で引っ越ししたばっかりだったから……寂しそうで見てられなくて……」


「お母さんが家についた時にギューーってしたの覚えてない?」


「覚えてない」


「そう。でもあなたあの時くらいに結構不思議なことしてた。ずっーと一人で公園で突っ立ってたり」


「なにそれ覚えてない。作り話でしょ」僕は笑った。



僕は深夜の散歩から家に帰っていた。時間はもう朝になっていた。


僕はすべてを思い出した。子供の頃に撮った写真をもう一度見た。


僕のそばにいた男の子は写真から消えていた。


僕はいつも見る夢を思い出した。


知らない子供と遊ぶ夢を。


僕はずっとその子の名前が分からなかった。


だけど今は。



僕は言った。


「ありがとう。君はずっと約束を果たし続けてくれていたんだね」


そして言った。


「ありがとう。友達を教えてくれて」



「よしっ!」


僕は気合を入れ両手で自分の頬をビンタするとリビングに向かった。


「お母さん。お腹空いた! 手伝うからなにかご飯作って!」


母親は言った。

「え? え? 急に食欲出てきたの? えーーとなに作ろうかな……」



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タイムカプセルの友達 乱輪転凛凛 @ranrintenrinrin10

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