タイムカプセルの友達
乱輪転凛凛
第1話
皆さんはよく見る夢ってないだろうか?
僕にはあった。
夢の中で僕は子供とキャッチボールをしていた。相手は知らない子供だった。
昔からそんな夢をよく見ていた。
最近またその夢を見るようになった。
僕は今実家に戻ってきている。
昔からの慣れ親しんできた実家だ。
だが、会社は都心の会社に就職した。
「お前いつになったらこの仕事覚えるんだよ。同期と随分差がついたな」
毎度上司から言われた。
「お前ビジネスマンとしての自覚が足りないぞ。学生ノリで会社来てないか?」
ミスをするたびに、いやミスをしなくても毎度言われた。
そして周囲がクスクス笑った。
僕はやがて会社に行くのが怖くなった。
僕は満員電車に恐怖を覚えた。会社に行くあのギュウギュウ詰めの電車。まるで処刑場に連れられていくみたいに感じられた。
僕は満員電車に乗ると、呼吸が速くなり動悸が激しくなり、激しい目眩が襲った。そして体がガクガク震えた。
会社につく頃にはもう疲れ果てヘトヘトだった。
僕は病院に行くことにした。
医師から告げられた病名は
パニック障害 そして鬱病 だった。
僕は診断書を上司に見せ、休職した。
職場復帰しようとしても体が動かない。そのころにはまともにご飯も食べられなくなっていた。
僕は職場を退職することにした。
誰も引き止める人はいなかった。
「裕也ーー! ご飯が出来たので食べなさい! あなた全然ご飯食べてないでしょ!」
母だった。
「大丈夫。今日は食べるよ」
大きな声で僕は返した。
僕は両親が寝静まったころにリビングに起き用意してくれた食事をレンジで温めて食べた……
だが受け付けなくて半分以上残した。
母親が起き出してきた。
「全然食べてないじゃない! というかあなた再就職先どうするの? いつまでここにいるつもり?」
「知らねーよ。 どうだって良いだろそんなこと」
「どうだって良いってせっかくいい大学入ったのに……本当情けない……」
「もういいから」
「なにがもう良いからよ。いつもそうやって嫌なことから逃げて……」
「部屋でも一日中横になってるだけじゃない!」
「せめて家事の手伝いくらいはしなさい! それにちゃんとご飯食べて規則正しい生活しないと……」
僕は逃げて自室に戻った。
僕はやることがなくて暇だった。
手持ち無沙汰に小学生のころに使っていた机の引き出しを開けた。
すると一枚のメモを見つけた。
メモには
20年後
〇〇〇〇年〇〇月〇〇日に掘り返すこと!
そしてまるで宝の隠し場所みたいに、家の庭に丸をしたメモを見つけた。
「なんだこれ……てか、この日付って明日じゃないか」
なんだろう。まったく覚えていない。
「でもこの文字僕の字だ」
僕は言った。小学生くらいの幼さの残る文字だった。
結局なんのメモか分からずじまいで、その日は寝ることにした。
ウトウトしてると、突然思い出した。
「タイムカプセルだ! そうだ20年前に家の庭に埋めたんだ!」
僕は6歳のころ家の庭にタイムカプセルを埋めたことを思い出した。
「そっか……あれから20年か……」僕は呟きながらウトウトと眠りに落ちた。
次の日僕は納屋からスコップを取り出してタイムカプセルを掘り起こすことにした。
地図通りの場所にタイムカプセルはあった。
何重にもゴミ袋でぐるぐる巻にされていて、ガムテープで厳重に閉じられた金属製のお菓子の箱だった。
僕は包装を全て剥がし中身を確認した。中身は……
ゲームソフト、駄菓子、ガチャポンの中身、カードゲームのカード、軟式の野球の球、そしてジップロックに入れられた写真と手紙だった。
「うわぁなっつかしー」僕はつぶやいた。
ジップロックに入った写真を見た。20年前の写真だった。
写真はこの家の玄関で家族で撮られていた。
その写真に見慣れない人物がいた。
「あれ?だれこの子?」
歳は当時の僕と同い年くらいの男の子。僕の隣でピースサインをしていた。
「あれ……誰だっけな……お母さんこの人知ってる?」
僕はその男の子に指をさし母親に聞いた。
母親は忙しそうに家事をしていたが、写真を見ると「んーー分かんない」と答えた。
「確か、それあなたが小学校に入る少し前くらいの写真じゃない」
言われた。
母親が笑って言った。
「裕也の顔すごい仏頂面。なにかこの時嫌なことでもあった?」
写真を見返すと僕の顔は酷い仏頂面だった。この世の終わりのような顔をしていた。それとは対照的に僕の隣の男の子は優しい笑顔で笑っていた。
僕はその男の子が気になった。
僕は宝箱を部屋に持ち帰り再度中身を確認した。
するとメモが入っていた。
さい初はじどう公えんのすなば
つぎはじどう公えんでやきゅう
かわのちかくでどこかにいくってケンカして
あとでなかなおり
さいご一しょにしゃしんをとった
「ん?なんだこりゃ。意味が分からない」
写真を見た。写ってる男の子がどうやっても思い出せない。
眠くなってきたので昼寝をした。
目をつむりながらメモの内容が気になった。
「夜中外に出て行ってみるか」
僕は眠った。
夜中僕は起きて母親の作った夕食を少しだけ食べ、深夜に自転車を押しながら児童公園に行った。
僕は児童公園のベンチに座った。当然のごとく誰もいない。
「なにか思い出せると思ったんだけどな」僕はつぶやいた。
公園の砂場に行った。しゃがみながら砂場の砂を手に取る。
「駄目だ。なにも思い出せない」
僕は手を払って砂場を後にしようとした時、突風が吹いた。そしてブランコが鳴った。
キーコーキーコー……
「あっ……!」僕は思い出した。
「そうだ。ここで初めて会ったんだ」
6歳の頃僕は母親に付き添われてこの公園に来ていた。公園のブランコは体格の大きな子供達がいつも使っていた。キーコキーコと鳴らしていた。きっと僕より歳上なのだろう。そう思った。
僕はブランコを諦め砂場で遊ぶことにした。手で砂山を作ったりして遊んでいると、同じ砂場に同年代の子供がいることに気づいた。
僕は大きな砂山を作って遊んでいるとその子が一緒になって砂山を作ってくれた。僕はその子に笑いかけるとその子も笑ってくれた。しばらく遊んでいるとその子の母親らしき人が
「翔行くよ」とその子に声をかけた。
その子は母親に手を引かれながら僕にバイバイと手を振った。
次の日もまた会った。
「なんでいつも一人で遊んでるの?」
翔くんが言った。
「最近引っ越してここらへんに友達いないんだ」
答えた。
「僕も最近引っ越したばっかり」
翔くんは言った。
「家は?どこに住んでるの?」
「君んちの隣だよ」
そういえば僕は僕の家の隣に西洋風の大きな家が建ってることを思い出した。
「あの、おっきな家? 翔くんの家すごいね」
「そんなことない」
「裕也もう遅いから帰るわよ」母親だ。
「じゃあ僕……」
「一緒に帰ろうか」と翔くんが言ってきた。
嬉しかった。友達が出来たみたいだった。
「ママーゆうちゃんと一緒に帰りたい」
「あらお友達出来たのね。じゃあ一緒に帰ろっか!」翔くんの母親は言った。
僕たちは一緒に帰った。
家の前で翔くんが「明日も公園くる?」と聞いてきた。
僕は「行く」と答えて手を振って別れた。
「なんだか随分楽しそうな顔だな」父親が言ってきた。
顔がにやけてたらしい。
「明日も一緒に遊ぶんだ」
「あら、お友達出来たの? いつもブランコで遊んでるあの子達?」
母親が聞いてきた。
「いや、違うよ」
「でも良かった。一緒に遊んでくれるお友達出来たんだね」母親が言った。
次の日
「ゆうちゃん、ボール持ってない? キャッチボールしようよ」
翔くんが聞いてきた。
「家にあるかもお母さんに聞くね」
僕は母親に聞いた。
「お母さんボールある? 野球のボール」
「家にあるわよ」
「持ってきて!」
「あぁうん、分かった。すいません。ちょっと家に帰るのでこの子見ておいてもらえませんか?」
母親はママ友にそう言うと家に帰った。
「はいこれ」母親はボールをもって戻ってくるとママ友と世間話の続きをした。
「いくよー」
僕はボールを投げた。なかなか上手く飛ばない。
「ゆうちゃんこうやるんだよ」
翔くんはボールの投げ方をレクチャーしてくれた。
「こう?」
「そうそう、その投げ方」
僕たちはグローブなしでキャッチボールをしていた。
「じゃあねまた明日」翔くんが手を振って別れた。
家につくと母親が抱きしめてきた。
「ごめんね。ごめんね。裕也。いつも一人にして。ごめんね。寂しかったね」
「お母さん?どうしたの?」
母親は構わず僕を抱きしめてきた。母親は泣いていた。
「君! なにしてるの?」
突然現実に引き戻された。
警察だった。
「こんな時間になにしてるの? ちょっと気になったから声かけたんだけど」
「いや、あの外の空気を吸いに」
「じゃあ、ちょっと身分証明書見せてもらえる?」
「あっはい」僕は免許証を見せた。
「お仕事は?」
「無職です……」
警察はチラッと不審そうにこっちを見た。
「はい、ありがとう」免許証を返してもらった。
警察は去っていった。
「はぁーなにやってんだ俺」つぶやいた。
一気に自分が惨めな感じがした。時間は深夜2時。そりゃ怪しい。
他の同級生は今ごろ明日の仕事のためにグッスリ休んでいるだろう。
ただ……目が冴えて家に返っても眠れそうにない。
「行くか……河川敷」
僕は自転車を走らせて近くに流れる川に行った。広場があった。懐かしい昔ここで遊んでたっけ。
広場をぼんやりと見ていると……思い出した!
「一緒にサッカーしよ!」
僕たちは児童公園でブランコで遊んでいた子供たちに話しかけた。
「うん。良いよ。川の広場で遊ぼ。ここ狭いから」
「うん!」翔くんと僕たちは一緒に川の広場まで行った。
僕たちはサッカーをした。サッカーと言ってもゴールネットもない。ただボールを蹴り合ってるだけのよく分からない遊びだが。
子供の僕たちには楽しかった。
チラリと翔くんを見ると翔くんは僕たちがサッカーしているのをぼんやりと見ているだけだった。
「小学校どこ行くの?」
体型の大きい子が聞いてきた。
「〇〇小学校」答えた。
「へー、一緒じゃん」
「え? 同い年?みんな6歳?」
みんなは照れくさそうに笑ってうなずいた。歳上だと思ったら同年齢だった。
「一緒のクラスだったらいいね」
「うん」
しばらく会話してその子達は親に連れられて帰った。
広場に僕と瞬くんが残された。
「瞬くんサッカー嫌い?」
「ううん」瞬くんは首を横に振った。
「みんなで遊べは良かったのに」
「そうだね」
「瞬くんも、もうすぐ一緒の小学校だね」
瞬くんは複雑そうな顔をしていた。
そしてしばらくの沈黙の後、彼は切り出した。
「実は僕もうすぐ引っ越すんだ」
「え?」
「だからもうすぐ遊べなくなる」
僕は頭が真っ白になった。そしてこう言った。
「なんで……?」
「パパの仕事の関係で海外に僕も行くんだ」
「海外?」
海外……この言葉が僕にはよく分からなかった。いや、海外という言葉の意味は分かったのだが、なぜ彼が海外に行くのか分からなかった。
「いつ海外に行くって決まったの?」
「結構前から」
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
「ごめん」
翔くんは悲しそうに笑った。
「ずっと言えなかった。ごめん」
「海外には友達いるの?」
翔くんは首を縦に振った。
重い沈黙のあとで僕は言った。
「なんで嘘ついたの?」
「えっ?」意外そうに翔くんは言った。
「だって早めに言ってほしかった。そんなの嘘と一緒じゃん」
「嘘じゃない」
「嘘だよ! 嘘つき!」
僕は家に走って帰った。家につくと誰にも見られないようにトイレで泣いた。
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