第3話 オークの集落。
俺は、最近加入してきた盗賊であるグローブに答えずにリアとソフィアを見る。
二人とも先祖に亜人の血が混じっているらしく、出会ったころから10年経った今でも10代と通じるくらい若々しい。
それと比べて俺と来たら、異世界に来たのが20台後半。
10年が経過しているから、もうすぐ40歳だ。
肉体的にも厳しくなってきていた。
だから、グローブが解除し損ねた矢を回避しきれずに膝に矢を受けてしまったのだ。
そのことを八つ当たりしても仕方がないだろう。
「分かった……」
ソフィアもリアも、いい神官を見つけたのだろう。
彼女らの笑顔が、それを物語っている。
そもそも、俺は彼女らに助けてもらった身だ。
彼女らに何か言うのはお門違いと言ったところだろう。
それに、ある程度、貯蓄は出来たしエルダ王国の市民権も購入することが出来た。
田舎で暮らす分には十分だ。
俺は受け取った用紙に名前を書いていく。
「これで、いいだろ?」
グローブに、脱退志願書を差し出す。
すると、グローブは志願書を受け取ると「旦那、あばよ」と、笑みを浮かべながら立ち去っていった。
「……それでカンダさん、どうしますか?」
「……開拓民で――」
まぁ、田舎で暮らすのもいいだろうな。
どうせ、都会だと物価が高くて大変だろうし……。
俺は、エルダ王国辺境村での開拓民募集の仕事を受領すると、冒険者ギルドから出る。
そのときに、最後――。
ソフィアとリア。
二人と目が合った。
彼女ら二人は、楽しそうな表情で俺に手を振ってきた。
「今までありがとな」
うまく笑顔で最後の言葉を紡げただろうか?
二人が何かを言っていた気がするが、冒険者ギルド内の雑多な音に紛れて聞き取ることはできなかった。
ただ、彼女らの幸せな表情を見ていると罪悪感とともに苛立ちもあり、逃げるようにして俺は冒険者ギルドの建物を出た。
冒険者ギルドを出た俺は、少しでも町から離れたかった。
何故か知らないが、リアとソフィアの顔を見たくなかったからだ。
互いの利益のための繋がりだということは最初に分かっていたはず。
それなのに必要以上に、二人に仲間という意識を持っていた。
「俺も甘いな……」
本当に、甘い。
この世界は、誰かに利用されて利用する。
そんなクソみたいな世界だ。
弱者には厳しく強者には媚びへつらう。
そんな無法な世界。
だからこそ、俺は、この世界が嫌いだ。
俺は冒険者ギルドが、開拓民のために幌馬車を用意すると聞いていたので、その時間まで、市場に行き支度をすることにする。
今までは、魔法師であるリアのアイテムボックスにアイテムを入れてもらっていたが、パーティを抜けたら、もう、それも出来ない。
茶色い煉瓦が敷き詰められた大通りを歩く。
もちろん行き先は市場だ。
途中の雑貨屋で大きめの背負い袋を購入する。
そして、市場に向かっている途中で金物屋の前を通りかかる。
「――そういえば、リアのアイテムボックスの中に調理器具一式を入れてもらったままだったな……」
今更、彼女達に会うこともない。
何より、彼女らと別れたのに、いまさら会うのはさすがに――。
「まぁ、心機一転ってことで新しい調理器具でも一式購入しておくか……、どうせ金はあるからな……」
俺は、一人ごとを呟き金物店に入る。
「おや? カンダじゃないか?」
「ひさしぶりだな」
俺は金物店の売り子もしている同世代の女性に話かける。
名前は聞いたことがない。
そこまで親しいわけではないから。
それでも、冒険者で料理をするのが俺くらいなものだから、自然と話すようになったのだ。
「景気はどうだい?」
「ああ、新しい仕事をすることに決まったんだ」
「そうかい、それで、今日は何のようだい?」
「調理器具一式欲しいんだが?」
「調理器具? リアちゃんが持っているだろう?」
「いや……」
そういえば、リアとは何度か一緒に調理器具を、金物店に購入しに来たことがあったんだった。
アイテムボックスに入れることが出来るからというのが一番の理由だったが。
「なるほど、そうかい。そういうことかい――。リアちゃんとソフィアちゃんが必死にアンタを探していたから、何事かと思ったよ」
「俺を探していた?」
「ああ、何でも言いたいことがあるとか――」
「そうか……」
どうやら、リアもソフィアは、少しでも早く新しい奴を冒険者パーティに入れたかったらしいな。
冒険者パーティは、原則4人までと決まっている
俺が抜けなければ新しい神官の男を入れることは出来なかったからな。
「あんまり心配かけさせるんじゃないよ?」
「分かっているさ。もう全部解決済みだ」
「そうかい、どっちを選ぶかは知らないけどさ、きちんとしなよ?」
どっちを選ぶも何もない。
俺達は、そういう仲でもないし、もう俺は彼女らの冒険者パーティメンバーでもないからな。
だが、それをここで言ったとしても何も変わらないし、目の前の女性の気分を害するだけだろう。
「とりあえず、調理器具一式もらえるか?」
「はいよ」
金物屋の売り子である女性から調理器具一式を購入し背負い袋に入れたあと、店を後にする。
その後は市場に行き、顔なじみの店舗で干し肉に小麦粉に香草に調味料を大量に購入していく。
立ち寄る店ごとに、リアやソフィアが必死な顔をして俺を探していたといっていた。
今更、俺に何の用があるのか?
もしかしたら日本刀の所有権に関する話かも知れない。
かなりの値打ちものだからな。
だが、日本刀を貰うだけの仕事をしたと俺は自負している。
だから譲るつもりはない。
俺は、痛む膝を庇いながら歩き、必要なものを買い揃えたが、量が多いこともあり膝への負担も相当だったのだろう。
矢を受けた膝が痛い。
エルダ王国の辺境の村エルに向かう幌馬車。
冒険者ギルドが用意した物であるが到着した頃には、出発時刻ギリギリであった。
幌馬車の御者に小言を言われながらも、幌馬車に乗り込む。
予想と反して幌馬車の中には俺しかいない。
まぁ、そりゃそうだろう。
冒険者や商人が集まる町なのだ。
だれが好き好んで辺境の村にいくだろうか?
開拓民としていくとしても、そんなのは高が知れている。
ただ……。
俺しか幌馬車に乗っている人間はいないからこそ、ゆったり出来る。
そこは感謝してもいいところだろう。
しばらくしてから幌馬車は動き出す。
俺は、煉瓦が敷き詰められている石畳の上を走る幌馬車の車輪の音を聞きながら目を瞑った。
港町カルーダから出立し道中に点在していた宿場町を経由すること1週間。
道中は特に変わったことは何もなかった。
まあ一つ変わったことと言えば風景が少しずつ変わってきたことくらいだろう。
海岸線が見える景色から草原、そして森に山から渓谷に――そして、目的地の村まで、あと少しの位置というところまで来た。
現在、俺は丘の上から村を見下ろしていた。
「これは……」
思わず呟いてしまうほど、村の出来はひどかった。
俺は、渓谷の谷間に作られた村とは名ばかりの集落見て溜息をつく。
本当に廃材を集めて立てたような木造のプレハブのような建物。
どう見ても集落というには程遠いものだ。
集落の戸数は、多く見積もっても30も無いだろう。
一つの家に4人が住んでいるとしても、村人の数は120人。
冒険者ギルドで受け取った書類には、開拓の手伝いと書いてあった。
だが、かなり大変な仕事になりそうだ。
俺も10年間、この世界で暮らしてきて多少は大工の真似事はできるようになっている。
まずは家の建て直しから始めないといけないようだ。
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