第2話 膝に矢を受けてしまってな!
異世界にきたばかりで生活基盤もない。
まぁ、異世界に気がついたら立っていて、それでも生活基盤なんて物があったら、それこそ物語の主人公くらいだろう。
彼女らの提案を断る選択肢はない。
それに、俺だって29歳の男だ、
可愛い女子大生くらいの2人の女性とパーティをするのは願ったり叶ったりだ。
それにパーティを組んでいれば職場恋愛と同じく、いつかは俺に惚れるかもしれないからな。
色々な思惑が、脳裏内で交差し俺は、彼女らのパーティメンバーの一人になった。
俺には神官として大怪我は治せないが、傷を縫い合わせたりする程度の回復魔法は使うことが出来た。
しばらくして、俺には生活魔法が使えることが分かった。
なんでも100人に一人しか使うことができないらしい。
試行錯誤した結果、生活魔法は、家事に特化していることに気がついた。
それからは料理の練習をした。
しばらくして俺達のパーティは重大な問題に直面した。
前衛が俺達のパーティにはいないのだ。
冒険者としての力量が上がれば、それだけ危険な狩場、稼げるダンジョンへと潜ることになる。
すると、どうしても魔物を押しとどめておく壁役が必要になる。
俺達のパーティ編成は【魔法使いのリア】【ハーフエルフで弓使いのソフィア】【神官で日本人、神田(カンダ)栄治(エイジ)】の3人だ。
どう考えても後衛パーティだろう。
一応、前衛は募集した。
リアなどは、酒場で「前衛がこないのー」とか言っていたが、俺としても彼女の言葉には同意はしていた。
この世界の回復魔法というのは、ゲームでいう何でも回復できるような万能な物ではない。
そのため危険な前衛を希望する人間は少なかった。
居たとしても、とっくに売約済みが即売れだ。
だが、前衛が居ないからと言って、仕事をしないという訳にはいかない。
働かなければ食べてはいけないのだ。
しかたなく、俺は前衛を買って出ることにした。
前衛が出来るという予感はあった。
何故なら、この世界の魔物の攻撃は、俺には殆どダメージを与えることが無かったから。
それに、俺には回復魔法もある。
傷を塞ぐ事と、血を止めることくらいしか出来ないが……。
それでも自前でヒールが出来る前衛なら、耐久力は高いのではないのか? という考えであった。
まぁ、前衛をして無理でも稼ごうとしたのは、リアやソフィアと違って貯蓄がなかったのが一番の要因だ。
すでに冒険者を始めて3年が経過している俺は32歳だ。
ずっと出来る仕事ではないということくらい冒険者をしていて分かる。。
日本と違ってセーフティネットがない世界だ。
稼げるときに稼いでおかないと将来生きていけない。
だから、俺は必死で前衛の役目を演じ続けた。
前衛を続けていること、数年が経過したある日、俺達はダンジョン内で宝箱を見つけた。
そこには、リアやソフィアには見慣れない物。
ただ、俺には故郷を思い起こさせる日本刀が入っていた。
基本的に日本人の筋肉と言うのは、押す力よりも引く力に特化していると科学的に証明されている。
日本刀は俺にとって最適な武器であった。
俺の戦力が劇的に変わったわけではないが、多少は攻撃力が上がりダンジョンに入った際の稼ぎも増えた。
回復を使い戦う騎士が聖騎士であるなら、さしずめ俺は侍神官と言うところだろう。
ただ、俺は忘れていた。
冒険者というのは危険と隣り合わせの職業だということを……。
考え込んでいると「カンダさん、少しよろしいですか?」と、先ほどの新人とは違う妙齢の女性が俺に話し掛けてきた。
その女性には見覚えがある。
俺とは、あまり仲が良くない女だ。
「リムルか、さっきの子は?」
「あの子は昨日、冒険者ギルドに入った新人。それより――」
リルムは、カウンターの上に一枚の用紙を置いてきた。
俺は提示された仕事を見て、眉を顰める。
「エルダ王国辺境村での開拓民募集?」
俺の問いかけに「はい。いまのカンダさんに任せられる仕事はありません。ですので、これなど、どうですか?」とリムルは、眉一つ動かさず言葉を紡いできた
俺は肩を竦めながら「一つ聞きたい。どうして、俺には任せられる仕事は無いと言った?」
と、リムルに声を問いかける。
「あら? 貴方のお仲間のグローブさんが言いふらしていたけど?」
「……」
あの野郎――。
アイツが、ダンジョンの罠解除をミスらなければ、俺が膝に矢を受けることも無かったのに……。
「聞いていますよ? 走れないということを。そんな方に回せる仕事があるとでも?」
どうやら、以前のことを根に持っているようだ。
リムルは、少し前に不正をした。
簡単に言えば、クエストの依頼料の一部を懐に入れていたのだ。
ただ、ギルドマスターの血縁とかで一度だけだったからと不問にされていたが、俺は指摘した。
何せ、何十人もの冒険者の依頼料が計算と合ってないからだ。
ただ、この世界の識字率はとても低い。
結局、問題を提訴することは出来た。
だが、冒険者ギルドマスターが裏金でも蒔いたのだろう。
証人であるはずの被害者の冒険者たちは、一斉に口を閉ざした。
おかげでリムルは、いまだに冒険者ギルドに在籍している。
今回、俺が、冒険者が出来なくなったのは、この女にとって仕返しをする絶好の機会だったのだろうな。
考え込んでいると、後ろから「カンダの旦那、無理はいけませんぜ?」と男が話し掛けてきた。
「グローブか……、何の用だ?」
俺は、同じパーティに所属している男に話かける。
何の用で俺に話かけてきたのか、いやな予感しかしない。
「これにサインもらえないかと思いまして――」
「……」
俺は無言で渡された羊皮紙を受け取る。
「お前は、これが何を意味しているのか理解しているのか?」
俺は立ち上がってグローブの襟元を掴むと持ち上げる。
伊達に10年も冒険者を――前衛をしていたわけではないのだ。
男一人くらいは、片手で簡単に持ち上げることは出来る。
「――だ、旦那……。これは……」
「黙っていろ! リアやソフィアは、許可を出したのか? 加入したばかりのお前に……」
実際、グローブが加入してからは、まだ2ヶ月も経っていない。
そんな奴に、10年近く冒険者パーティを組んでいる俺達に関して干渉されるのは感情的に、非常に苛立つ。
「旦那の怪我が酷いからって――。冒険者パーティから脱退してといってたんですよ!」
「……なん……だと……」
俺は、グローブに渡された書類に視線を向ける。
それは、俺が登録している冒険者パーティから脱退をするという申請書。
たしかに、怪我をしてから疎遠になっていたのは認める。
だが、何の通知もなしに……一方的に――。
「旦那あれを……」
グローブが震える手で冒険者ギルド内の一角を指差す。
グローブが指差した方向へ視線を向けると、テーブル席にリアとソフィアが座っている姿があった。
そして二人は、20歳くらいと思われる年若い男と話をしていた。
「つまり、新しい神官を入れるから俺は要らないってことか? そう言いたいのか?」
「そう言っていましたぜ」
グローブが震える声で、俺の言葉を肯定してきた。
「そうか……」
俺は右手から力を抜く。
すると、グローブは床の上に落ちた。
ずっと襟首を掴まれていたからなのか、グローブは苦しそうな表情で息をしている。
薄々、理解はしていた。
俺には利用価値があるから、彼女達は語りかけてきたのだということを。
最初に彼女らは言った。
俺に神官としての才能があったから話し掛けてきたと……。
「潮時か……」
「さすが旦那、理解が早くて助かる」
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