第二章 消された君と僕は真実の果実をかじる

第11話<夢>

「ねぇ、お父さん。なんで、イジメは無くならないの?僕、イジメがない世界が作りたい。どうすればいいのかな?」


 子供はすぐに疑問を持つ。多分、学校でイジメを見かけたのだろう。


「そうだな。今、お父さんが作っている義眼型デバイス「電視」が普及すれば、無くなるかもしれないよ」


 幸は目を輝かせた。


「本当!そっか、あの子を助けられるんだ。ねぇ、お父さん。いつ作り終わるの?」


 幸はワクワクと胸を高ぶらせる。


「もうすぐだよ。でも、作り終わる為にはお父さんだけの力じゃ足りないんだ。幸、手伝ってくれるか?」


「もちろんだよ。僕に出来ることなら」


 父さんは頭を撫でた。このとき、幸は大きな使命感と満足感を感じていた。でも、間違っていた。次の瞬間、父さんは悪魔のような姿になり、幸の目をむしり取った。平穏な日々と共に。



 ガバッと起き上がると、そこには心配そうに僕を見つめる霧島さんの姿があった。


(さっきのは夢だったのか)


 視界内の時計を見ると<4月16日午前6時半>を示していた。背伸びをして、平気な顔をしながら、


「早起きだね。霧島さん」


 と言って目を擦った。


「神崎くんが遅いのよ。かなり、うなされていたけど大丈夫?朝ごはん出来ているから、早く食べよ」


 彼女はそう言いながら、ソファの前のテーブルに朝食を運んだ。僕と彼女は共同生活を送っている。彼女は電視イジメによって世界から非表示され、『死んだ』。


僕はソファに座り直し、「頂きます」の手を合わせた。彼女の作った味噌汁をすする。


「これを飲めば、今日のヤミキ浄化作戦頑張れそうな気がするよ」


 彼女は頬を赤らめ、鮭の塩焼きを一口食べた。


(そう、僕達は今日から闇堕ちした電視の鬼ヤミキを浄化する。そして、彼女の『死人』状態を解く。)


 彼女の一つ一つの行動が可愛い。どれだけでも眺めていられる。だが彼女との生活は長くは続かない事を知っている。彼女を非表示にした人達のヤミキを浄化すれば、彼女は世界に視認され、生き返る。そうなれば、僕のエレキの能力の一つ「誰かが『死んだ』世界を見ることが出来る」の特別性が失われる。彼女が生き返ることは嬉しい。だが、僕の胸は酷く痛んだ。自分の独占欲の強さに罪悪感を覚えた。


「どうしたの。難しい顔して」


 僕は彼女に微笑み、


「なんでもない。霧島さんの『死』を書き換えに行こう」


 と言った。


「うん」


 彼女は強く頷いた。



 僕達は朝食を終えて、せかせかと食器を洗った。その途中、僕はグラスを落としてしまった。ガラス製のお気に入りのグラスだった。ガシャン―という音と共に床にガラスの破片が飛び散った。それが僕の足に当たり、皮膚を貫いた。


「痛った」


 先に言ったのはの方だった。彼女は僕のガラスの刺さった足の部分と同じ所を抑えた。僕は焦った。


「霧島さんの方にもガラス飛んじゃった?ごめん。どこに刺さったの?」


「刺さっては無いの」


「えっ!?」


 僕は驚きを隠せなかった。


「私の第六感なんだけど、他者の考え、感覚を自分に感じさせてしまうの。今の状況で言えば、神崎くんの足にガラスが刺さったでしょ。それの痛みを感じてしまった。私、自分と他人の境界線が時々曖昧になるの。昔からの悩みなんだよね。それより、早く刺さったガラスを取らないと」


「うん。でも、そんな能力が……」


 僕は慎重にガラス片を抜きながら、思考を巡らせた。


(時々と言ったが、その能力が彼女に与える痛みは計り知れないだろうなあ。しかし、電視の能力ならまだしも潜在能力として、そんな能力が存在するなんて。この世界には知らないことばかりだ)


 僕は霧島さんに聞こえない様に雪に語りかけて演算を開始した。彼女の症状、言動を元に情報と情報をつなげていく。結論は一瞬にして出た。彼女は重度のHSP気質だ。彼女の能力が他者の分析に特化しているのもその気質のせいと観て、まず間違いない。


 僕たちはガラスを処理し、家事を終えると制服を着て、腰にYPをぶら下げる。彼女がホルスターに銃をしまう姿が凛々しかった。僕も小刀を周りから見えないように腰裏に回すと家を後にした。

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