第10話<これからの事と武器配達>

 神崎幸は目を覚ました。時間は<午前6時半>。味噌の香りが香る部屋。


 ソファから起き上がるとオタマ片手にキッチンに立っている霧島知里と目が合った。その姿はあたかも新婚の奥さんのようだった。僕はわざとらしく、彼女に尋ねた。


「霧島さん、起きてたんだ。なにをしているの?」


 彼女は顔を赤くして、


「勘違いしないでよね。ただお腹すいたと思ったから作っただけだから。少し作り過ぎたから食べたかったら食べなさいよ」


 と後ろを向いてしまった。きっと彼女なりの気遣いなのだろうとすぐに分かった。ツンデレな一面を可愛いと思いながらソファに座り直した。


 彼女はトレイに味噌汁を乗せてソファの前の机に置いた。彼女は僕と横並びして座った。彼女からシャンプーの香りがした。きっと風呂に入ったのだろう。異性の髪から自分のシャンプーの香りがする。なんとも不思議な感覚である。ドキドキしながら僕は味噌汁を片手に彼女の方を見て、


「もう、体調は大丈夫?」


 と聞いた。


「ええ、大丈夫。ベッド……貸してくれて……ありがとう」


 僕は味噌汁をすすった。


「気にしないで。霧島さんこそ、嫌じゃなかったかなって心配していたんだ。ところで、霧島さん料理得意なんだね。この味噌汁すごく美味しい」


「そんな、大袈裟おおげさよ。ただ一人暮らしだから自炊しなくちゃいけなかっただけ」


「一人暮らしなんだ。だから、そんなにしっかりしているんだ」


「そんなに褒めたってなにも出ないわよ」


 僕は手を激しく振った。


「そんなつもりじゃないよ。ただ思ったことを言っているだけだよ」


 彼女はそっぽを向いてしまった。


(なんでだ?)



 霧島知里はドキドキしていた。なんて恥ずかしいことを言う人だろうか。私は顔が赤くなるのを隠すためにそっぽを向いた。神崎くんは、直球過ぎる。そして、その度に自分がドキドキしているのも事実。しかし、私は年齢=彼氏いない歴だし、ましてやイジメられ非表示にされた女。そんな私が恋愛なんて出来っこない。それにもかかわらず神崎くんときたら無意識に積極的だし。


(もう、私どうしたらいいのよ)


 そう思っていた時、後ろから声が聞こえてきた。


「ねぇ霧島さん、これからの事なんだけど……」


「はひぃ」


 突然話しかけられたのと「」を言及され、変な声が出てしまった。


「これからの事と言うと……」


「未だ霧島さんは非表示のままでしょ。だから霧島さんが嫌でなければ僕の家にいていいよ」


 私は深呼吸をした。そして、吐き出した。


「まぁ、今の状況だとそれしか道はないし……お願いする。そうだ、私からも言うことがあるの」


 すると彼は、


「霧島さんが覚醒者ってことでしょ」


 と見透かしたように言った。


「なんで知っているのよ」


「僕のエレキ「雪」が教えてくれた」


「やっぱりあなたも覚醒者なの?」


「いや、僕はらしい」


?」


「僕にもよくわからないけど特異点と覚醒者はヤミキを浄化しなければならないらしい。そこで霧島さんに確認したいことがあるんだ。君は何の能力を手にしたんだい」


「エレキの名前は「雨」。私はヤミキの特性と弱点を見る能力を得たわ。あなたは?」


「僕は演算能力と身体強化能力だよ」


 私はふと思い出した。


「そういえば、夢の中で浄化するための道具が送られるって言っていたけど、なにか届いているかしら」


 私たちは玄関の方に歩いていった。


「外に郵便受けがあるけど―あれ?」


 彼が玄関を開けようとした時、なにか硬いものが扉に当たった。扉で押しきり見てみるとその正体は鉄製の箱だった。


「これかな」


 そう彼は言うと箱を家の中に持ち帰り、机の上に置いた。


「開けようか」


「爆発しないでしょうね」


「怖いこと言うなよ」


 カチャっと箱を開けると刃のない機械的な装飾の刀身の無い刀と銃が入っていた。どちらにも「YP」という刻印がされていた。その傍には紙が添えてあり


「YP(Yamiki・Purification:ヤミキ浄化機)でヤミキを浄化せよ。―H―」


 とだけ記されていた。私はHとは誰なのだろうと思いながら彼の顔を見た。すると、彼は紙をクシャクシャに丸めてゴミ箱に捨ててしまった。


「なんで捨てちゃうのよ!」


「大事なことも書かれていなかったから、別にいいだろ!」


 彼は吐き捨てるように言った。何をそんなに怒っているのだろう。



 僕はHという文字を見た瞬間理解した。差出人は僕のクソ親父「神崎弘」だ。クソ親父め、僕を操っているつもりかよ。


(確かにプランとやらに乗ってやるとは言ったが操られるつもりはない)


 僕は紙を丸めてゴミ箱に捨てた。


 私は銃を取った。すると弾をリロードするようなカチッという音がした。それと、同時に、視界内に、銃の使い方、武器の特性が書かれた紙が表示された。逆に神崎くんが小刀を手に取ると刀身が現れた。


「つまり、銃が私の武器で小刀が神崎くんの武器ってことだよね?一度、交換してみる?」


そう言って、私たちは武器を交換した。お互いにグリップを握ると、視界内に


〈Error:適正ユーザーではありません〉の文字が出た。


「これは多分、僕らの能力に合わせてあるんだ。霧島さんはヤミキの能力及び弱点が分かるから、銃で狙い打てる。僕は行動予測が出来るし、身体強化も出来るから、近距離からヤミキを刀で切れることだね」


神崎くんは笑顔で、そう説明した。


 幸は心の中で笑顔とは裏腹に舌打ちをしていた。


(何から何まで計画のうちって訳かよ、クソ親父!でもこの力があれば……)


「この力があれば、霧島さんの非表示を解除出来るかもしれないね。要は君を非表示にした奴らのヤミキを倒せばいいんだ」


「きっと、そうね。それじゃあ早速明日の学校で浄化しましょう」


「決まりだ!」


 僕は霧島さんと固い握手を交わした。

 

 このときは、僕らは霧島さんを非表示にしたヤミキを浄化するだけで終わるつもりだった。しかし、僕らは知らなかったのである。この一件の裏にある黒い計画の存在というものを。

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