第9話<雪との対話と新能力>

 神崎幸はなんと幸運な奴だろうと自分のことを評価していた。早起きの体質をこんなにも得だと思ったことは無い。そう、僕は起きていたのだ。彼女が起きてくる前に。ただ、ソファから起き上がる前に彼女がリビングに入ってきた為、動くに動けなかったのである。


 薄くまぶたを開けていたらどうだろうか。突然彼女が顔を近づけてきた。とても、真剣な顔で。吐息が当たるすれすれ。汗で艶かしく光沢を持った黒髪が頬に触れた。キスか、キスなのかと思った。ドキドキしていたのも、つかの間、彼女はハッとして去ってしまった。


 僕は残念な気持ちを押し殺した。「夢のこと」と言っていたのも気になる。そう思い、また眠りに落ちた。僕の「エレキ」と会う為だ。


 

「先程ぶりですね、宿主」


 少女は雪のしんしんと降る中、立っていた。少女は白髪で雪の衣をまとっていた。


「まさか、霧島さんが君の言う覚醒者だなんて。しかし、なんで僕がなんだ」


 霧島さんをベッドに寝かせて、自分も眠りについた時、僕は少女から「エレキ」について、霧島さんが覚醒者であることについて、そして自らが特異点であることについて教えられた。


「宿主は神崎弘博士のプランにおいて、そう定義されたのです。そのため、宿主には特別な電視つまり「電視β版」が与えられたのです。そして、それに内蔵された特別な人工知能「鬼」が私「ゆき」です。そして、宿主と覚醒者の使命は協力してヤミキを浄化することです」


 雪は胸を張りながら言った。僕は「雪」という名前に少し、反応しかけたが、やめた。なぜ反応したのか分からなかったからだ。


「自分で特別と言ってしまって良いものか……」


 僕は雪の言葉をすんなりと受け入れた。それは、自分がどこか特異していると感じていたのもあるが、これで彼女と否が応でも一緒にいられるからだ。


(クソ親父のプランとやらに付き合ってやるか。しゃくだけど男とはそんなもんだ。)


「つまり、僕と彼女でヤミキどもを浄化すればいいんだよな」


「ええ」


 だが、全部が全部納得出来た訳では無い。


「神崎弘、つまり俺の父親のプランっていうのはなんだ?ところで、あいつはどこいるんだよ。電視って言う名のイジメの道具を作ったくせに当人が蒸発しちまった理由を聞きたい」


「第一の質問ですが機密事項の為、答えかねます。第二の質問ですが、彼は先日『死にました』」


「なんだって!」


「当然、「鬼」の能力による死です。博士は自らを『死なせる』能力を有しているのです。なんの為かは分かりませんが彼は突然『死んだ』」


「クソ親父。あいつも覚醒者だった訳か。まあ、いいや、分かった。ところで、僕には覚醒の儀は必要ないのかい?」


「はい。必要ないです。特別ですから。ただ、私と対話したことで演算能力の使用制限解除つまりシガレットを咥えなくても能力が使えます。また、新たな能力として身体強化能力も得ました。それでは、私に用がある場合は語りかけてください。それでは」


 視界がブラックアウトされた。

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