第8話<知里の覚醒>

 倒れた後、霧島知里は目を覚ました。いや、この言い方は正しくない。意識がある状態で夢の中にいた。そこは雨が降る部屋だった。こんな部屋に見覚えは無かったから夢だと思っても問題ないだろう。その雨は温かかった。


(ここはどこだろう。そういえば、私は倒れた後、どうなったのだろう)


 疑問が夢の中にもかかわらずはっきりと頭を駆け巡った。


「やあ、霧島知里さん」


 突然、後ろから声をかけられた。振り向くと男性とも女性とも思われる中性的な少年がそこにはいた。


(十歳くらいだろうか)


 半透明で水色のくせっ毛は彼が人間では無いこと示していた。また、彼は雨に濡れた葉をまとっていた。


「あなたは?」


「僕?僕は君の電視内蔵の人工知能「鬼」だよ。もともとは違ったみたいだけど。名は「あめ」。雨は水。水は大概の物を溶かしてしまう。君が他人の感情、気持ちまで自分の感情のように自分の中に溶かしてしまうみたいにね。そういう子供の事をHSC、Highly Sensitive Childrenって言うんだっけ」


 話し方は子供だが、語彙力が見た目に反していた。私は優しく


「なんでそのことをあなたが知っているのかな?」


 と語りかけた。


「それは電視を通じて君の今までの過去を見てきたしね。それに、その能力によって僕は生まれたんだ。ところで良いことを教えてあげる。電視は今やイジメの道具となっているでしょ。でもね、それ……ある意味、のせいなんだよ」


 頭をかきながら雨は言った。


「あなたたちのせいで私が『死んだ』の?」


「勘違いしないでね。僕らには三つ種類があるんだ。一生電視に内蔵されて機械として生きる者、使用者をさせ、過去を元に対話するエレキ、使用者の歪んだ欲望を喰らい闇堕ちさせるヤミキ。三番目の『ヤミキ』がイジメの原因って訳だね」


「あなたはなんなの?」


「僕は二番目のエレキだよ」


「さっきから言っているってなんのことよ」


「まぁ色々聞きたいことはあるだろうけど、とりあえずをやらせてもらうね。にも言われているし」


 すると、後ろから鎖が伸びてきて私は拘束された。


「ちょっと、止めてよ。なにするの。誰よ、博士って!」


 しかし、彼は聞こえないふりをした。


「覚醒せしもの、偽眼を捨て真眼とさせ。今より我と汝の目は同体、汝、闇堕ちせしものを打ち払え!」


 彼はそう唱えると私の目をえぐり取った。


 私は一瞬何が起こったのか分からなかった。あまりの痛さに痛みが遅れてやってきた。だが不思議と解放された気がした。


「痛ったぁぁぁぁぁあ!あぁぁ私の目がぁぁぁ」


「安心して。もうすぐ痛みは引くよ。それに今取ったのは君のだから」


 すると、私の目に光が集まった。そして驚くべきことに突然痛みが無くなった。息を整えながら私は彼に怒りを向けて問いかけた。


って!?」


「君たち、人間は常に固定概念とか偏見とかで屈折した世界を見ているでしょ。それが定着してしまった目のことをと呼称しているんだ。君はいじめによって目を濁らせ、固めて、定着させてしまった。覚醒の儀はそれを取り、世界を真の姿で見る目、真眼を与えるんだよ。真眼は特別なを持つ。その能力は以前までの君の特異していた部分に影響されるんだ。君の場合は人の芯にある気持ちを感じ取れたでしょ。それによって君の能力は相手の能力を特定し、弱点を見抜く能力になった」


「なんで、私が―」


「非表示にされた人のごくわずかが覚醒者となるんだ。偶然だよ、偶然。ヤミキを浄化する道具はの家に送るって博士が言っていたから。そのつもりで」


「あなた、彼を知っているの!」


「時間のようだね。と共にヤミキを浄化してください。それでは」


 雨は無邪気に手を振った。


「答えなさ―」


 私の声は途中でかき消された。


 ガバッと起き上がるとふとんをかけられベッドの上にいた。

 今が<4月15日午前5時半>である事がベッド横の時計で確認できる。倒れてから一日眠り続けていたようだ。ここは自分の家ではない事、そして彼の家に運ばれたのだと悟った。


 さっきの夢のせいか、じっとりとした汗をかいていて気持ち悪かった。私はお風呂を借りることにした。


「神崎くんはどこだろう?」


 部屋を出てリビングに行くと彼がソファで寝ているのを見つけた。その行動はベタではあったが嬉しかった。


「私の為にベッドを……。夢のこと言うべきだよね」


 起きたらお礼を言わなくては。学校ではキリッとしていた顔が少年のように緩んでいて、どこか惹かれ、思わず顔を近づけてしまった。ふと、我に返った。


(私はなにを……)


 私はお風呂を探そうと静かにその場を後にした。

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